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第9話 取り戻した記憶

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 さっきから、この男を殴る度に、とある情景が頭の中に映し出される。姿も見えないし、そこがどこかも分からない。ただ、聞いたことのある声だ。4人組で、いつも俺と一緒にいた人達の。2人は男で、もう2人は女。そんな組み合わせ、1つしかない。


 ボコッ……


「お前を」


 ボコッ……


「ウォーリアーズから」


 ボコッ……


「追放する」


 ボコッ……


「悪いな」


 ボコッ……


「金に困っているんだ」


 ボコッ……グチャ……


「二度と盾突くなよ?」


 ビュチュ……ベシャッ……ブチャッ!!


 あぁ、俺は既にウォーリアーズから追放されていたんだ!


 何でこれを忘れていたんだ。俺は、4人の悪事に気がつき、それを都市に訴えようとしていた。その帳簿を持った帰り道、何者かに襲われて俺は目を失った。俺はその過程で記憶を失った、帳簿も同時に失った。


 何で覚えていなかったんだ。俺はウォーリアーズに会いたいとか思っていたのに、俺は既に追放された身だった。それに、俺のことを襲った男達の正体も、今分かった。目の前にいる奴らだ、少年を誘拐した奴ら。彼らが俺のことを襲ったんだ。


 さっきまで殴っていた男は死んだ、俺の攻撃に耐えられずに。でも新しいことは分かった。ウォーリアーズと俺を襲った奴らは裏で繋がっていた。俺が持ち出した証拠となる帳簿を破壊するために、俺のことを襲ったんだろう。また、少年を襲ったのも、また計画に関係あるはず。


 つまり、ウォーリアーズは完全なる悪に染まっていたということだ。俺が所属していた頃から、俺が気づく前からずっと。


 ああ、モンスターを討伐する正義のチームだと思っていたのに。裏ではこんな犯罪にも手を染めていたのか。しかもウォーリアーズの奴らはここには居ない。奴らはこんな下っ端を雇ってまで、少年を誘拐しようとした。どういう経緯があったのかは分からないが……自分の手を汚さないようにしたのか、最低な奴らだ。


 まだ少年は倉庫の隅でうずくまっていた。そりゃ後ろから生々しい音が聞こえてきたら、背けたくもなるよな。彼に話しかけようと思ったが、俺の体は返り血でびっしょりと塗れていた。このまま近づいていったら彼を驚かせてしまう。そこで俺は死体の服を借りて血を拭ってから、彼の元に行った。


「大丈夫か?」


「……うん」


「怪我は?」


「……ない」


「じゃあ行こう、親御さんも心配している」


 俺は彼を両手で抱え、都市へ向かった。一刻も早く、彼に安らぎを与えたい、その一心で、休憩する間を惜しんで歩き続けた。ただ、疑問点が複数、頭の中に残っている。何で子供を誘拐しようとしたんだ。脅して親御さんから金を手に入れたかったのか、しかしボスが会うとか言っていたな。


 なら、ボスって一体誰なんだ。雇い主であるウォーリアーズの奴らか? それだとすると、あの倉庫で待ち伏せしておけば誰かしら来たのかもしれない……済んでしまったことはもういい。


 後は俺の体について。何で俺はこんなに動けるようになったんだ。目が見えないのに、奴らの攻撃を全て避けて、その上奴らを殺した。


 それに、奴らを殺した時、俺に躊躇心は全く生まれなかった。それどころか、もっと殺したい……なんて思うようになった。人を殴るのは犯罪だ、でもあそこで殴らなかったら、少年はもっと遠くの場所に連れられていたはず。俺が止めるべきだったし、止めて正解だった。でも殺す必要は無かった。


 なのにも関わらず、殺して正解だと考える自分もいる。殴れば殴るほど、脳や感覚が活性化していった。自分の封じられていた記憶も思い出せるようになった。無罪の人を殴るのはダメだが、奴らは犯罪者だ。ならば殴っても社会に影響は無いんじゃないか。殺してしまっても……良い影響がもたらされる。それなら、いい。


「……ねぇ」


「どうした?」


「……目に包帯してるけど、見えるの?」


「……あぁ」


 少年を無事に送り届け、俺は都市を徘徊していた。陽は昇り、人々が動き始める時間帯になった時、俺は疲れ果てていたのだ。それもそう、倉庫での戦いで体力を消耗したから。少年を助けた時は集中していて気づかなかった、まさかここまで身が削れているとは。


 都市の中でも薄暗いスラム地区の路地で俺は身を潜める。ここなら誰も来ないだろう、ここなら体を少しは休められるだろう。目に巻いてあった包帯を取り、目の状態を触って確認する。色は見えないが、多分いつもの目の状態に戻っていると思われる。これなら、外を出歩いても違和感なく過ごせる。


 さて、このままどうしようか。ここで眠るのは危険だ、眠れば人の気配など分からない。完全に人が来ない安全な場所じゃないと体を休めることはできない。ならば、森か。森なら人は入って来れない。深く行けば深く行くほどに。


 ということで、俺は森に来た。そこで包帯と木を使って簡易的なベッドを作り、そのまま横になった。目が見える人のフリをして、どこかの宿に泊めてもらえばよかったのかもしれない。しかしその時の俺には、宿に片っ端から交渉に行く程の体力は残されていなかった。


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