第86話 隠された裏の王
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「我々と共に、理想郷という名の檻を破滅させましょう」
ヒルデヨ部長は、急に人が変わったように振る舞い始める。彼が手を広げると、扉の向こうから3人くらいの捜査官が入ってきた。
「事態はハードさんの方から聞いております。なので我々も、戦う必要があると実感しました。昨日は公的な立場で話しましたが、これからは”私”を行使していきます。何故なら、私もマックスフューの民であるからです」
部屋に入ってきた3人の捜査官は、壁沿いに置いてあった小さい机を中心に置き、そこに次々と紙を置いていった。
「これは、この国のシステムの全貌です。マックスフューの葬られた歴史について、ある調査団が書き記した日記、というものでしょうか。報告書ではないため公的な書物ではないですが」
またもやカグタは、文字を読めない俺のためにわざわざ立ち上がって、紙を手に取り内容を音読する。
「およそ百年前、モンスターは人類に対し反乱と思しき行動を取り始めた。計画的に家を襲う、村を破壊する、そして整列する。これらはまるで軍隊のようであった。そこからモンスターは、何らかの存在に従って、行動していたことが分かる」
モンスターの軍隊か、それは百年前からあったのか。百年前といえば、まだモンスターと討伐者が全盛期だった時だ。討伐パーティーというのも、その時代に生まれたものだと聞いている。
「そして犯人は不明であるが、その犯人は人間ではなかった。当時の人々は犯人を”魔王”と呼称しており、魔王は世界を破壊しようとモンスターの軍隊を使ったが、当時の討伐パーティーが力を合わせ協力し、その結果、魔王は死んだ」
魔王の話なんて、初めて聞いたぞ。というより、モンスターの軍隊の話も。絵本とか教科書とか、そういった物には載っていなかった記憶だ。周りに耳を傾けると、他国にいたハードはもちろんのこと、この国で生まれ育ったカグタやヌヤミも知らないのか、首を傾げていた。
そしてラーズの目指すモンスターの軍隊は、魔王が使っていた力なのかもな。魔王は世界の破壊を目論んでおり、ラーズは世界の征服を狙っている。目的は異なるものの、対象は似ている。だから、やり方を似せたのか?
「魔王討伐後、徐々にモンスターは活動場所を失い、やがて森の奥に隠れるようになった。モンスターがいなくなり、討伐パーティーが次々に解散していったものの、マックスフューのマーベラスでは小規模ではあるが、モンスターの活動が見られた。そして三十年ほど前に起きたポータガルグーンの襲撃によって、マーベラスは大損害を受けた」
ポータガルグーンはマーベラスを襲い、都市の三割を破壊した。この話は知っているし、俺も本で読んだことがある。
「ポータガルグーンの襲撃の被害は凄まじく、二次被害によって命を落とす者もいた。二次被害には都市の杜撰な対応も関わっており、特に南部のカービージャンクに暮らす人々の多くが、当時の市長によって苦しめられた」
そうだ、カールの祖父もポータガルグーンによって亡くなった。それは確か、直接的な被害というよりも、都市の対応が杜撰でそれが影響して亡くなったと聞いた。しかし、そういったことは本には書いていなかった。本は都市が発行したものだし、隠蔽したい事実は当たり前だが隠すか。
「そして公にはなっていないが、十五年前にポータガルグーンの再襲撃があった。南部のキャプロー村は、またしても都市に無視され、再襲撃の事実すら隠蔽された……って、この報告書は誰が書いてんだ」
カグタは自分の関わった事柄が書いてあることに驚きつつも、怒りを感じている。
「これを記したのは、国のやり方に違和感を覚えた特殊チームの調査団です。しかし数年前に、全てがバレてしまい都市によって処刑されました」
「そうか……真実は葬られたってわけか」
「まあ、こうして資料は残っています。南部に対する差別意識と言いますか、不当な扱いは我々も見過ごせません。なのでいずれ、檻を壊す人々が現れることを信じて、私が保護をかけておきました」
それを聞いてカグタは首を横に振りつつも納得したのか、咳払いをして続きを読み始める。
「この戦いは、敵を倒すだけでは終わらない。敵は公的な集団であり、敵を倒しても次の敵が生まれる。よって、奴らの全てを破滅に追い込む必要がある。続きは頼んだ、次の世代の正義に託す……これで終わりだ」
調査団の手記か、残酷な現実ってやつだな。敵を倒すだけでは終わらない、何故なら奴らは国家や企業だから。倒したら、殺人罪となって狙われるのみ。そうすれば奴らは立派な被害者となる、だからただ復讐するだけでは終わらない。
くそ、こんなに大きい揉め事に巻き込まれるとはな。しかし、これもダークエイジの運命だ。ウォーリアーズに復讐したい、そう願った時から、ここまで規模が大きくなるとは。
ウォーリアーズに復讐なんて、まあ普通は他のパーティーに入って元のウォーリアーズを見返すとか、そういうのだろう。しかし、俺の追放された理由が異例だった。
結局、戦闘員の訓練の時に俺がクロガと組んでから、全てが始まったというわけだ。たまたま席が隣同士だったせいで今、国を壊すか壊さないか、そういう規模の話に巻き込まれている。
国を守る戦闘員が、今や国を壊す裏切り者になるとはな。しかし、組織の悪さを知ってからは、戦闘員としてそのまま使えるより、裏切り者として組織と戦った方が光栄に思える。
「皆さんのご存知の通り、マックスフューの目的は、モンスター大戦です。世界をひとつに統一し、”マックスフューの王”を世界の帝王とする。彼らはもはや、王の部下でしかないのです」
ここで疑問が生まれた、マックスフューの王ってなんだ?
マックスフューという国を統治するリーダーみたいなものか、それにしては王という言い方がどうも古風で、どこか懐かしく感じた。昔の物語を読んでいるような、そんな感覚だ。
「言い忘れてました。そもそものマックスフューのシステムの秘密ですが、この国には”隠された裏の王”が存在しています。王は、この世界のフィクサーと言ってもいいでしょう」
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