表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/120

第86話 隠された裏の王

----------


「我々と共に、理想郷という名の檻を破滅させましょう」


 ヒルデヨ部長は、急に人が変わったように振る舞い始める。彼が手を広げると、扉の向こうから3人くらいの捜査官が入ってきた。


「事態はハードさんの方から聞いております。なので我々も、戦う必要があると実感しました。昨日は公的な立場で話しましたが、これからは”私”を行使していきます。何故なら、私もマックスフューの民であるからです」


 部屋に入ってきた3人の捜査官は、壁沿いに置いてあった小さい机を中心に置き、そこに次々と紙を置いていった。


「これは、この国のシステムの全貌です。マックスフューの葬られた歴史について、ある調査団が書き記した日記、というものでしょうか。報告書ではないため公的な書物ではないですが」


 またもやカグタは、文字を読めない俺のためにわざわざ立ち上がって、紙を手に取り内容を音読する。


「およそ百年前、モンスターは人類に対し反乱と思しき行動を取り始めた。計画的に家を襲う、村を破壊する、そして整列する。これらはまるで軍隊のようであった。そこからモンスターは、何らかの存在に従って、行動していたことが分かる」


 モンスターの軍隊か、それは百年前からあったのか。百年前といえば、まだモンスターと討伐者が全盛期だった時だ。討伐パーティーというのも、その時代に生まれたものだと聞いている。


「そして犯人は不明であるが、その犯人は人間ではなかった。当時の人々は犯人を”魔王”と呼称しており、魔王は世界を破壊しようとモンスターの軍隊を使ったが、当時の討伐パーティーが力を合わせ協力し、その結果、魔王は死んだ」


 魔王の話なんて、初めて聞いたぞ。というより、モンスターの軍隊の話も。絵本とか教科書とか、そういった物には載っていなかった記憶だ。周りに耳を傾けると、他国にいたハードはもちろんのこと、この国で生まれ育ったカグタやヌヤミも知らないのか、首を傾げていた。


 そしてラーズの目指すモンスターの軍隊は、魔王が使っていた力なのかもな。魔王は世界の破壊を目論んでおり、ラーズは世界の征服を狙っている。目的は異なるものの、対象は似ている。だから、やり方を似せたのか?


「魔王討伐後、徐々にモンスターは活動場所を失い、やがて森の奥に隠れるようになった。モンスターがいなくなり、討伐パーティーが次々に解散していったものの、マックスフューのマーベラスでは小規模ではあるが、モンスターの活動が見られた。そして三十年ほど前に起きたポータガルグーンの襲撃によって、マーベラスは大損害を受けた」


 ポータガルグーンはマーベラスを襲い、都市の三割を破壊した。この話は知っているし、俺も本で読んだことがある。


「ポータガルグーンの襲撃の被害は凄まじく、二次被害によって命を落とす者もいた。二次被害には都市の杜撰な対応も関わっており、特に南部のカービージャンクに暮らす人々の多くが、当時の市長によって苦しめられた」


 そうだ、カールの祖父もポータガルグーンによって亡くなった。それは確か、直接的な被害というよりも、都市の対応が杜撰でそれが影響して亡くなったと聞いた。しかし、そういったことは本には書いていなかった。本は都市が発行したものだし、隠蔽したい事実は当たり前だが隠すか。


「そして公にはなっていないが、十五年前にポータガルグーンの再襲撃があった。南部のキャプロー村は、またしても都市に無視され、再襲撃の事実すら隠蔽された……って、この報告書は誰が書いてんだ」


 カグタは自分の関わった事柄が書いてあることに驚きつつも、怒りを感じている。


「これを記したのは、国のやり方に違和感を覚えた特殊チームの調査団です。しかし数年前に、全てがバレてしまい都市によって処刑されました」


「そうか……真実は葬られたってわけか」


「まあ、こうして資料は残っています。南部に対する差別意識と言いますか、不当な扱いは我々も見過ごせません。なのでいずれ、檻を壊す人々が現れることを信じて、私が保護をかけておきました」


 それを聞いてカグタは首を横に振りつつも納得したのか、咳払いをして続きを読み始める。


「この戦いは、敵を倒すだけでは終わらない。敵は公的な集団であり、敵を倒しても次の敵が生まれる。よって、奴らの全てを破滅に追い込む必要がある。続きは頼んだ、次の世代の正義に託す……これで終わりだ」


 調査団の手記か、残酷な現実ってやつだな。敵を倒すだけでは終わらない、何故なら奴らは国家や企業だから。倒したら、殺人罪となって狙われるのみ。そうすれば奴らは立派な被害者となる、だからただ復讐するだけでは終わらない。


 くそ、こんなに大きい揉め事に巻き込まれるとはな。しかし、これもダークエイジの運命だ。ウォーリアーズに復讐したい、そう願った時から、ここまで規模が大きくなるとは。


 ウォーリアーズに復讐なんて、まあ普通は他のパーティーに入って元のウォーリアーズを見返すとか、そういうのだろう。しかし、俺の追放された理由が異例だった。


 結局、戦闘員の訓練の時に俺がクロガと組んでから、全てが始まったというわけだ。たまたま席が隣同士だったせいで今、国を壊すか壊さないか、そういう規模の話に巻き込まれている。


 国を守る戦闘員が、今や国を壊す裏切り者になるとはな。しかし、組織の悪さを知ってからは、戦闘員としてそのまま使えるより、裏切り者として組織と戦った方が光栄に思える。


「皆さんのご存知の通り、マックスフューの目的は、モンスター大戦です。世界をひとつに統一し、”マックスフューの王”を世界の帝王とする。彼らはもはや、王の部下でしかないのです」


 ここで疑問が生まれた、マックスフューの王ってなんだ?


 マックスフューという国を統治するリーダーみたいなものか、それにしては王という言い方がどうも古風で、どこか懐かしく感じた。昔の物語を読んでいるような、そんな感覚だ。


「言い忘れてました。そもそものマックスフューのシステムの秘密ですが、この国には”隠された裏の王”が存在しています。王は、この世界のフィクサーと言ってもいいでしょう」


----------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ