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第85話 理想郷の破壊

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 そして確かにここに来てから、デビルズオール社という名前を一切聞かなくなった。


 デビルズオール社とは、マーベラスを中心として勢力を拡大している企業であり、化粧品から新聞、はたまた対モンスター用の武器まで、あらゆるものを取り扱っている。


 ウォーリアーズにいた時、俺は都市の中心部で高級街のハイディアンに暮らしていた。まあ、中心ではなく外れの方だったが。そこでは、デビルズオール社の商品は高級品とまではいかないものの、数多くの市民に親しまれていた。


 でも、カービージャンクに来てからは、デビルズオール社の商品は見ていない。


「カービージャンクは最果ての地、森に囲まれていますし、その森には大量のモンスターが暮らしている。それに治安が悪いですから、あの企業もカービージャンクを商売相手だとは思ってないんでしょう」


 なるほどな。子供の頃、俺はエイジライアンという北部の街で暮らしていたが、その時もデビルズオール社の商品を見た。やっぱりこの街だけ、商売相手だとは思われてないってことか。


 だが、奴らはカービージャンクの子供に特殊な能力があると分かると、子供たちを誘拐してきた。つまり、明らかにこの街を見下しているってことだ。何でも、南部は見下される傾向にある。


「私は元々ハイディアンの、モンタージュ特別本部というところで最近まで働いていたので、デビルズオール社のことは分かります。以前、デビルズオール社の社長と軽くお話したこともあったので」


 ヒルデヨ部長は、まさかの都市務めだった。だからあんなに度胸のある行動ができるのか。怖くないのか、デビルズオール社とか、そういう闇が。


「社長の名前は、”ヨシオ・スモロフ・ドラグーン”。各国との繋がりが強く、治安部隊の買収も彼の力が相当働いているそうです」


 ヨシオ・スモロフ・ドラグーン、初めて聞く名前だな。デビルズオール社の商品を使っていたとしても、その会社の社長に興味は無いから知らなかった。


「数ヶ月前に行われた彼のパーティーには、エイジライアンの市長である”バルド・アイリス”や、治安部隊を作った会長の”ラーズ・フェイス”もいらっしゃいました」


 ラーズ・フェイス、この名前を聞いて俺は勢いよく立ち上がった。そして驚くヒルデヨ部長の目の前に立ち、小声で囁く。


「ラーズを見たのか?」


「ええ、そのパーティーで」


 他のみんなも、ラーズという言葉を聞いて驚いた表情を見せていた。ラーズ・フェイスは、強盗団マルゲリタのリーダーだと聞いていた。それがなんだ、治安部隊を作った会長だと、どうなっているんだ?


「見た目はどんな感じだ」


「銀髪のお婆さん、としか言えませんよ」


「……少女じゃないのか?」


「少女? 何を言っているんですか」


 こっちが何を言っているんだと聞きたいくらいだ、何がどうなっている。俺が今まで出会ってきたラーズ・フェイスという人間は、少女くらいの大きさだった。銀髪かどうか、色は知らないが形や声からして、明らかに子供だった。


 だから初めて会った時、俺は子供だと思って接していた。しかし足音もせず、匂いも気配も感じなかったため、只者ではないことが分かった。そこからだ、どこに行ってもラーズがいた。村でギャングを殲滅した時も、奴がいた。


「アンタが出会ったの、実はお婆さんだったんじゃないのか?」


「いいや、声が子供だった。心臓も、大人より早く動いていた。あれは老人じゃない、子供だ」


 カグタは俺が盲目なのを知っていて質問したんだろう、しかし俺の能力に誤りはない。だって聞こえたし、形も見えた。あれは老人じゃない、少女だ。


 そうなると、どういうことだ、ヒルデヨ部長の言っていることが本当なら、ラーズ・フェイスは二人存在することになる。


 治安部隊を作った会長であるお婆さんのラーズと、強盗団マルゲリタのリーダーである少女のラーズ。繋がりは見えるが、二人いるってどういうことだ。少女の方は偽物なのか、名前を騙っているということか。


 それなら繋がりが見えているから、名前を騙る必要性がない。同姓同名の可能性か、それを考えるか、そんな奇跡なんてあるのか。


「ちょっと待って、貴方はラーズの心臓の音を聞いたの?」


 と、能力のことを知らないヌヤミは質問してきた。


「それは後で話す。ヒルデヨ部長、その老人の方のラーズ・フェイスはどこにいる?」


「老人の方?」


「いや、何でもない。治安部隊の会長はどこにいる、ハイディアンの中か?」


「そうですね、現在の治安部隊はマックスフューに買収されていますし、私はちょうど買収されたくらいにこっちに来たので詳しくは分かりませんが、あるとすればハイディアンの治安部隊本部でしょう」


 少しだけ理解ができた、とにかくこの状況は厄介だぞ。まず、ラーズ・フェイスが全ての元凶だと思っていたが、そいつが二人、それも見た目も年齢も違う時点で、ややこしくなっていた。


 ともかく俺に何回も会ってきたのは、少女の方のラーズ・フェイスだ。


 そしてややこしいが、これだけは分かっている。奴らは悪だと言うことと、ラーズ同士は確実に繋がっているということ。


「もうひとつ、ダークエイジや他の皆さんに伝えておきたいことがあります。お時間はよろしいでしょうか?」


「ああ、何だ?」


「貴方たちはこれから治安部隊、デビルズオール社、そしてマックスフューの闇の繋がりを暴く必要があります。それは、見て見ぬふりをしていた我々にも、責任があります」


「……我々?」


「私は少しだけ、この国の噂を聞いていました。ですが、この国のシステムを壊すことはできずに、ただ黙っていました。ですが、貴方たちなら、きっと成し遂げてくれるでしょう……理想郷なんて、見て見ぬふりの集合体だ」


「どうした、急に」


「記者や新聞屋にアンチャードの情報を渡したのは準備段階に過ぎない。ダークエイジ、貴方は国のシステムを壊すべき存在だ。我々と共に、理想郷という名の檻を破滅させましょう」


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