表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/151

第82話 本当の正義

----------


 ポータガルグーンの討伐から数時間後、俺とカグタはトライデンの塔の中にいた。


 彼はアンチャードによって現場から追い出された後、急いでこの塔まで走ったらしい。そして、ここから狙撃したとのこと。


 以前も俺はここに来たことがある。巨人襲撃の時、三体の巨人がどこにいるか、正確な位置を把握するために来た。何故ならトライデンの塔はこの街で一番高く、街全体を見渡せるから。


 討伐は終わったのにどうしてまだこの中にいるか、それは別の理由がある。


「街を救ってくださり、本当に感謝しています」


 それは、モンタージュの捜査官が俺たちを認めてくれたから。無断で塔に入ることはできない、それでもカグタさんは捜査官を押し切って中に入った。


 そして外に出れば逮捕されるという状況の中で、遠くから奴の口の中に入った爆弾を狙撃し、見事命中させた。


 そのまま彼は外に出るも、捕まることはなかった。

 理由、それは、街の救世主だから。


 アンチャードの兵士らは、ポータガルグーンの出現を間近で見たのに、討伐や市民の避難には関わろうとしなかったそうだ。また何人かは関わっても、明らかにポータガルグーンの範囲内の避難所に市民を閉じ込めるのみ。


 そう、アンチャードは市民の生死には興味はない。いくら治安を守る治安部隊の兵士とはいえ、アンチャードはダークエイジを殺せればそれでいい。だから、奴らは市民の避難に手を貸さなかったんだろう。


 それを見ていたモンタージュの捜査官らは、アンチャードへ疑いの目を持った。同時に、ポータガルグーンの討伐に協力したダークエイジを見直したようで、彼らは俺たちのことを匿っている。


「アンチャードの兵士は、まだ周りにいます。しかしご安心を、街を救ったお礼といいますか、ひとまずは我々が保護します。街の救世主を蔑ろになんて、そんなこと有り得ません」


 そうして彼は、部屋にいた捜査官を外に行かせ、3人だけにした。


「申し遅れました。私の名前はヒルデヨ・バエリヤ。マーベラスの中心部から派遣された特別捜査官で、ボルトの上司をやっていました」


 なるほど、彼はボルト繋がりか。髭を生やしていて、服には大量のバッジが付いている。どれだけの功績を残したんだろうか、それに特別捜査官というのも凄いな。


「数日前、ボルトが逮捕されたとの報せが来ました。ダークエイジの仲間だったから、とのことでした。彼がダークエイジと接点があるのは知っていました、彼から聞いていたわけではなく、周りの証拠からして。ただし、彼に罪はない。貴方は紛れもない罪人ですが、彼はそうとは言えない」


 ヒルデヨは鋭い目つきで俺を見てきた。まあ、合っている。俺は何人もの人を、私的な手段で殺してきた。公的に動くモンタージュの捜査官とは訳が違う、これは間違っていない。


「待ってくれ、ダークエイジは悪なんかじゃ」


 カグタさんは俺の代わりに、彼に詰め寄っていった。しかし彼は、近寄るなと言わんばかりに手を前に出す。


「話は続きます。確かにダークエイジは殺人鬼で、公的の手段を選ばない、我々にとっては最悪の存在です。ここで銃殺してもお釣りが来るくらい、特別捜査官以上の役職が貰えるでしょう」


「なら、どうして!」


「しかし、私たちは公的な組織でありつつも同時に、正義と平和の味方なのです。いや、そのために私たちはこの職業を選びました。都市が手段を選ばずに、ダークエイジを殺そうとしても、私たちは従うしかありません。でもそれは公的な組織だからであって、そんな私たちにも”私”はあります」


 そして彼は、部屋の隅に落ちているナイフに触れた。


「私たちの”私”の部分は、本来発揮されるべきではありません。しかし、今日は違います。公的に見ればダークエイジは殺人鬼ですが、私的に見ればヒーローです。隠蔽する悪に立ち向かう、立派な正義です」


 彼はそのナイフを棚に戻し、扉の方へ歩き始める。


「ダークエイジ、カグタ・カンディヌ。今日は街を救っていただき、心から感謝します。アンチャードの兵士には、裏があります。我々はいつか公的な手段で、本当の正義というもののために戦います。今日はこの辺で、失礼します」


 そうして彼は、部屋から出て行こうとした。俺とカグタさんは深々とお辞儀することしかできなかった。すると彼は、頭を上げるようにジェスチャーしてきた。


「やめてください、頭を下げさせた感じになってしまうでしょう。しかし、我々が匿っていても限界があります。明日にはここを出ていってもらうことになります、よろしいですね」


 仕方ないか、彼らも公的な仕事がある。公的に見れば、俺は逮捕されるべき存在だし。


「最後にひとついいか?」


 だから俺はひとつだけ、彼にお願いをした。


「探してほしい人がいる。ハード・ブランドンと、ヌヤミ。どちらもウォークアバウトの記者で、セオリー地区の牢屋に囚われていた。そして、カグタの娘とヌヤミの娘も、封鎖地帯の付近にいるはずだ」


「分かりました。ハードさんは、以前一緒にお仕事をしたので信頼しています。他の皆さんも、なるべく早くに見つけ出します」


 彼の胸の鼓動は正常だ、嘘をついていたら心臓はバクバクとして、汗をかく。彼にはそれが見られなかった、それに彼は誠実な人間だ。だから彼のことは信頼する。


 部屋から出ていき、カグタさんと二人きりになったところで、カグタさんは口を開く。


「で、お前はブレイクなのか?」


「……ああ」


 彼はさっき、ポータガルグーンを討伐する前に、自力でダークエイジの正体に辿り着いた。そして俺も特に否定はしなかった。


 クロガを恨んでいて、元討伐者で、ウォーリアーズを知っていて、カービージャンクにいて、モンスターにも立ち向かう、そういう点を見て彼は俺がブレイクだと思ったんだろう。


 俺は服を脱いで、彼に傷を見せる。すると彼は察したように、部屋の隅に置いてあった箱を持ってきて、針を取り出した。


「前は俺の話を聞いてもらった、次はアンタの話を、全て聞かせろ」


「ああ、分かった」


----------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ