第80話 街の結束力
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「そうだ、ボルト捜査官を知っているか?」
リーダー格の男のいる家から走って別の家に向かっている最中に知り合いの名前が出てきたため、俺は足を止めて、その別の家の2階に潜む。
「ボルト捜査官はダークエイジの後始末をして、優秀な成績を収めたことからマーベラスのモンタージュ本部で表彰されているそうだ。どうだ、手柄を横取りされた気分は?」
手柄を横取りなんて、別にそんなこと思っていない。ボルトは公的な手段で、俺の後始末をやっていた。だから俺は彼に、とても感謝している。こんな俺に協力して、悪人を捕まえてくれたしな。
「まあ、ボルト捜査官はモンタージュの本部で捕らえられているよ。残念ながら、ダークエイジの協力者であることが都市にバレてしまってね!」
ああ、やはりか。奴らはボルトを表彰したかったんじゃない、ボルトとダークエイジを物理的に切り離そうとしたんだ。奴らにとってボルトは悪人である仲間を公的に捕らえる存在、厄介でしかない。
俺はハンドガンを左手に構え、窓の方に向かう。ちょうどこの家は、奴らがいる家の隣にある。また、ひっそりとカーテンを閉めて、向こうからは見えないようにしておく。
「ボルト捜査官は拷問を受けているよ、しかし何故か情報を吐かなくてね。優秀な男だよ、彼は。出会い方が違っていたら、迷わずアンチャードの一員として歓迎していたはずだ」
ああ、ボルトは優秀で、勇気のある男だ。じゃないと、俺みたいな奴に協力しない。
何で俺みたいな奴に協力していたか、それは昇進するからじゃない。闇を暴くため、つまり俺たちと目的は一緒だ。
「君の仲間は、常に死ぬ運命にある。ボルトは拷問され、ハードとその女は今も地下牢に監禁されている。カグタの娘も指名手配中で、ダイジンの娘は、あそこでモンスターになって暴れている。まあ彼女はカービージャンクを滅ぼした後、ウォーリアーズによって討伐されるだろう」
ああ、そうだな。これは俺が巻き込んだし、お前らが巻き込ませたとも言える。そういう点で言えば、俺も悪い。でも、俺は彼らに感謝している。こんな俺みたいな、一匹狼ともいえる存在と関わってくれたから。
俺はハンドガンを窓に押し付けて、機会を待つ。
「カグタを逃がしたのには訳がある。弾を無駄にしたくなかったのと、彼はもう既に指名手配犯だ。我々が殺さなくたって、モンタージュの捜査官が捕まえてくれる。後でな、君を殺した後に、ゆっくりと痛めつけることにするよ」
やっぱり、コイツらはどこまでも腐っているな。何でも、すぐに指名手配犯に仕立て上げて、公的に殺害しようとする。とんだクソ野郎だ、いや、彼のいた国の言葉を借りれば、ファック野郎と言えるか。
「ボルト捜査官は真面目だったが、他の捜査官はそうではない。カグタを捕まえるか殺せば、その時点で特別捜査官への昇任が決まる。彼らは、立場のためにカグタを捕まえる。残念だな、君の協力者はもう全滅といったところか」
それを聞いて俺は窓からハンドガンを離し、そのままベランダの方から屋根の上へと逃げる。
リーダー格の男を窓越しに射殺しようかと思ったが、そんなことは止めた。ハンドガンを使えば、射撃音で耳がイカれる。そんなことをしてまで、コイツを殺す価値はない。
それに、俺はこの街の人間を信じている。ボルト捜査官はもうこの街にはいない、けれどもボルトと同じ信念を持った人間は、他にいるはずだ。
彼は代替できるような、そんな男ではない。
だが、彼のような志を持った人間は他にもいる。
ウォーリアーズから追放されて、森をさまよった先にあった街だが、ここで暮らしていて本当に良かったと思う。マーベラスの中心部や、エイジライアンとかハイディアンとか、色んな街があるけれど、この街の温かさは段違いだ。
治安は悪いが、その分、街の結束力は固い。
俺はそう信じる。信じることにする。
そのためにもまず、俺は路地裏に降り立ち、さっき殺した兵士の遺体を背負って、屋根に戻る。幸いにも路地裏へと入る道が、瓦礫によって塞がれているため、ここに兵士は来れない。
そして兵士の遺体の頭を左手で持って、大声を発する。
「こっちを見ろ!」
リーダー格の男は窓を開けて、顔をのぞかせる。
「おっほほ、ダークエイジ、そっちにいたのか!」
俺は爆弾を持ち上げ、更に大声を出す。
「俺の手には爆弾がある、俺を撃てば、この一帯が吹き飛ぶぞ、お前らも巻き添えになるぞ!」
すると、リーダー格の男は高らかに笑い出した。
「おいおい、まさか私たちを巻き添えにするつもりか。残念だな、私たちが自分の命を惜しむように見えるか? 私たちは治安部隊、代替可能な存在なんだよ。ここで死のうが、代わりはいる」
やっぱりな、コイツらは自分たちの命も犠牲になろうが、ダークエイジを殺せれば関係ないと思ってる。そこまでして、ラーズを崇拝しているのか。
いや、そもそも奴らは兵士だ。戦闘員でもあるんだろ、それなら命令は絶対か。生きたいとか家族に会いたいとか、そういった私情を挟むなんて戦闘員にはあってはならないことだな。
「さあ、撃て! ダークエイジを爆殺しろ!」
そうして奴らは一斉に俺めがけて撃ってきた。すぐに俺は屈んで、屋根から降りて路地裏の方へ向かう。路地裏への道は塞がれているから入って来れないが、出口もない。だから俺は窓を破って、別の家へと侵入する。
「行け行け行け、あの家に逃げ込んだぞ!」
奴らはハンドガンを構えたまま、俺の後を追ってくる。だから俺はさっきの兵士の遺体から盗んだナイフを右手に持ち替え、すぐさま後ろに向かって投げる。
グサッ!
投げたナイフは、何も考えずに真後ろから撃とうとしてきた兵士の頭に突き刺さる。
そして俺は窓にハンドガンを投げてガラスを割り、そこから外に出る。
グオオオオオオオオオ!!
出た先にはポータガルグーンが立ち尽くしていた。周りにはもう人がおらず、格好の敵である俺を見つけたポータガルグーンは、俺めがけて突進してきた。俺はすぐに避けて、突進を回避する。
「うわっ!」
ポータガルグーンの突進によって、俺の後ろにあった家は崩壊した。俺の後を追ってきた兵士らは次々に、家の崩壊に巻き込まれて死んでいく。リーダー格の男は何とか免れたようで、目の前で仲間の死を見たからか興奮している。
「素晴らしい、流石はポータガルグーンだ!」
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