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第8話 罪悪感

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「……動くな、さもないとコイツを殺すぞ」


 椅子の近くにいる男は、腫れた右手でナイフを拾い上げ、また少年の首元に当てた。少年は目から涙を流し、この状況を嘆いていた。俺は両手を頭の後ろに置き、抵抗しないという意思を指し示すしかなかった。でないと、少年は殺されるから。もちろん、そのまま見過ごすことはしない。


 カチャカチャ


 とは言っても、近くに武器なんてない。くっそ、こうなるくらいなら、外の警備をしていた奴らから鉄砲とかナイフを奪うんだった。鉄砲の使い方なんて分からないが、中に入っている弾は鉄だから、それを投げれば小石よりは威力があったかもしれない。


「……何なんだこの野郎」


 鉄砲を構えた男は俺のそばに駆け寄り、俺の頭に鉄砲を当てた。引き金に指をかけようとしている、このまま俺を撃つつもりなんだろう。しかし……彼らは油断しているな。少しだけ気の緩みを感じる。また、引き金にかけている指は震えているというのに、笑っている。自分で自分の緊張を抑えたいんだろう。それが仇になるのも知らずに。


「撃つか?」

「ああ」

「何しに来たんだコイツ……」


 奴らの会話が終わり、男が引き金を引こうとしたその瞬間、俺は反撃に出た。俺はすぐさま鉄砲を逸らし、立ち上がって男の足を思いっきり蹴り、奴の体勢を崩した。そこから首を絞めて鉄砲を奪い取り、そのまま椅子の近くにいる男の腹をその鉄砲で撃った。


 ドンッ!


 爆音と同時に発射された弾は、男の腹を貫通した。奴らはアーマーを着ていたというのに。鉄砲の威力、ここまで恐ろしかったのか。


 それにしても、初めて鉄砲を使ったのに、上手く扱うことができた。目が見えないが、集中力が前よりも上がっているように感じる。間違えて少年を撃っていたら一生後悔しただろうな。


 急いで少年を椅子から解放し、倉庫の隅に逃げるよう指示した。まだ外に逃がすのは危険だし、これから巻き起こる危険にも巻き込みたくないから。腹を貫かれた男はかろうじて生きている、ただ呼吸も乱れてきているし、心拍数も上がってきている。対して鉄砲を持っていた男は、まだ元気だ。


 鉄砲に弾はもう入っていない、装填の仕方も分からないため、俺はその鉄砲で男の顔面を何発も殴った。結局は鉄の塊だ、下手すればナイフよりも痛い傷を与えられる。


 ドンッ……ドンッ……ドンッ……ドンッ……


 やがて顔が血に染まり変形してきた辺りで、男の呼吸が途絶えた。気絶した訳でもなさそうだ、これは……もしかして死んだのか。たったこれだけで、人って死ぬのか。まだ鉄の塊で、顔面を五発くらい殴っただけだ。それと同時に、腹を貫かれた男もまた呼吸が途絶えた。心臓も止まったみたい……これって、もしかして、俺が殺したのか?


「何してんだ!」


 死体を眺めていると、倉庫の入り口から男の怒鳴り声が聞こえた。そう、さっき倒した3人の男が立ち上がって、出口を完全に塞いでいた。「ここから絶対に出さないぞ」という強い意志を感じる。奴らはナイフを手にし、今にも俺のことを襲おうとしている。それもそうだ、2人は……俺が殺したから。


 不思議なことに、罪悪感は芽生えなかった。それどころか、殺して正解だと思ってしまった。俺が殺さないと奴らはまた同じことをしていたはず。また少年を誘拐して、また人を襲っていただろう。そういう連鎖を終わらせることができるのは、俺だけ。いくら兵士でも、捕まえることしかできないし。


「許さねぇ……!」


 奴らはナイフを持って、俺に突進してきた。俺は四方八方から飛んでくる刃を避けながら、確実に奴らにダメージを与えていく。


 グチャッ


 ナイフを振りかざしてきた男の手首を片手で折り、肘を無理やり曲げてナイフを奪い、それを心臓に突き刺す。そいつの近くにいた男には、足で遠くから顔面を蹴り上げ、気絶させる。


「何なんだ……」


 残された1人は部屋の隅にいる少年を襲おうと走っていたが、甘かった。俺は気絶した男の手からナイフを奪い、それを奴の後頭部目がけて思いっきり投げた。


 結果、それは深く刺さった。ザクッ……という生々しい音と同時に、奴は死んだ。心臓も呼吸も止まった、これもまた死んだという合図。


 心臓にナイフが刺さった男もまた死んだ。残るは、気絶した男のみ。俺はそいつの顔面を殴り無理やり起こさせてから、奴に計画と少年についてを尋ねた。


「計画って何のことだ?」


「ベラベラと喋るかよ、ミイラ野郎」


 そう言って奴は唾を俺の顔面に吐きかけてきた。俺はそれに怒り、奴の顔面を何発も殴った。少年は何も悪くない、なのに彼は日常生活を奪われた。普段だったらもう寝ている時間だろう、なのにお前らのせいで、彼は怯えている。


 ボコッ……


 お前らが存在しなければ、彼は普段通りに生きていけたのに。これが終わっても彼の傷は癒えないぞ。そう単純なものじゃないのは知っている、俺がウォーリアーズでモンスターと戦っていた時、家族を奪われた子供を何度も見てきた。


 ボコッ……


 彼らは普段通り、普通に過ごしていた。それなのに、モンスターのせいで根こそぎ生活を奪われた。お前らはモンスターよりも害悪な存在だ、同じ人間の皮を被りやがって、モンスターと同じように悪臭でも放ってろ。そしてそのまま、自分の臭いで鼻を狂わせて死んじまえ!


 ボコッ……


「もう一度聞く、計画って何だ?」


 奴は血まみれで歯も折れているため、言葉を発するのが難しそうだった。それでも俺は尋ねた。奴の手首を持ちながら、脅したりもした。何で俺はこんなことをするんだろう。事が済んだのだから、兵士に身柄を確保して送りつければいいのに。後は兵士が調べてくれるはずなのに。


「答えないのなら、手首も折るぞ」


「…………クソ野郎」


 奴に答える気なんてさらさら無いみたいだ。なら、後は殴るだけ。顔面だけに偏るのもダメだ、腹にも下半身にもダメージを与えてやらないと。奴の顔面はボロボロで濡れている、それもドロドロとした液体だ。これこそが血なんだろう。モンスターの血と違って……温かい。


 ボコッ……


「さぁ、知らないな」


 ボコッ……


「お腹が空いてるの」


 ボコッ……


「勝手にしろ」


 ボコッ……


「どうする気だ?」


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