第78話 ダブル討伐者
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「共に戦うぞ!」
「ああ、行こう!」
カグタさんの掛け声と同時に、俺は両手で剣を構えたまま突進する。
グアアアアアア!!
咆哮を上げるポータガルグーン、威嚇のつもりか悲鳴なのか、どっちだっていい。踏み潰そうと迫ってくる奴の右足を避け、その右足の関節に思いっきり剣を突き刺す。
ブシャッ!!
やはり関節は曲がりやすく柔らかいのか、奴の体から血が噴き出した。奴は抵抗しようと尻尾を動かすも、それすら避けて俺は左足の関節を叩き切る。
グアアアンッ!!
両足の関節を切られた奴は、身動きが取れなくなっていた。ただし、コイツは特殊なモンスターだ。少しすればニュークのように体が再生するだろう。だからそれまでに、弱点を見つけて切らないといけない。
「ダークエイジ! コイツは緑の血だ!」
と、カグタは俺に遠くから情報を教えてくる。なるほどな、コイツは緑色の血をしているのか。普通のモンスターは人間と同じく赤い血をしているが、コイツの血は変わっているらしい。
「緑色の血をしたモンスターって知ってるか!」
「サイクロップスも緑だが、コイツの血の色とは違う!」
サイクロップスは一つ目の巨人だ、少なくとも巨人襲撃にいた巨人よりは小さい。サイクロップスは本来の巨人の変異種として存在しており、かなりレアだ。多分、ポータガルグーンには関係ないんだろう。
「再襲撃の時、奴は血を流したか?」
「いいや、だが最初の襲撃で奴は血を流したそうだ。その時の色は紫だったはずだ!」
紫色の血をしたモンスターなんているのか、いや、目の前の緑もまあまあ珍しいが。というより、その個体によって血の色なんて変わるのか。
まず目の前にいるポータガルグーンは、マリノさんが変異して生まれた。だから最初の襲撃の個体よりも少し小さい。
キャプロー村の個体とも違うだろうが、キャプロー村の再襲撃はオリジナルの個体なのか、それすらも分からない。
とにかく弱点は血を見ただけじゃ分からないってことだ。一応、サイクロップスと巨人の弱点は共通していて、目にあるってことくらい。
「コイツはオリジナルだと思うか、それともモンスターの変異によって生まれた、どっちだと思う!」
「さあな、見当もつかない。ここはひとつ、全てを試してみるのも手だぞ!」
カグタさんは、とても大胆で無謀な作戦を提案してきた。だが、これしかない。奴を確実に倒す方法、それは全ての部位を全てつつく、これなら確実に倒せる。頭の悪い作戦に見えて、理にかなっている。
ブクブクブクブク
奴の両足が泡のような何かに包まれていく。これは、体を再生させているんだろう。俺は急いで奴の背中に乗り、剣を突き刺す。
カンッ!
しかし、皮膚が異常に硬くなっており跳ね返されてしまった。くそ、奴はさっき刺されたのを学習して、皮膚を固くしたのか。コイツは回復を学習できる、ニュークみたいに面倒な存在だな。
それもこれも、組織が悪い。組織はモンスター大戦のためにモンスターを洗脳する能力のある子供たちを集めていた。なのにそれどころか、人をモンスターにする薬を作っていたり、人とモンスターを合成する実験を行っていたなんて。
奴らは非道だ、やっぱり俺たちの手で奴らを止めるしかない。
俺は急いで奴の背中から降り、完全に回復した足に剣を突き刺そうとした。
カンッ!
しかし、それすらも鋼鉄並みの皮膚によって防がれてしまった。やっぱり学んでいるのか、何て頭のいいモンスターなんだ。いや、元が人だからなのか?
「カグタ、コイツは学習している、剣を刺したところが硬くなっている!」
「なるほどな、ならば内部から打ち破るか!」
「内部って、どうやるんだ!」
俺は奴の振るう尻尾を避けながら、走る。くそ、俺は奴やニュークのように、傷を即座に回復させることなんてできない。だから、走れば走るほどさっきの傷が痛むんだ。
「何か、爆弾とか持ってないか!」
「ない!」
なるほどな、爆弾で奴の体を中から壊すということか。しかし、俺は何も持っていないぞ。同様に、彼もスナイパーライフルしか持っていない。彼の家にあった箱の中には弾とナイフしか入っていなかった。対モンスター用の爆弾はおろか、普通の爆弾も近くにはない。
「ダークエイジ、目を狙うぞ!」
「分かった、狙撃は頼む!」
彼は遠くから、奴の目をスナイパーライフルで狙う。しかし激しく動く奴の体に、弾はそう簡単には当たらない。だから俺は剣を、まだ柔らかいあらゆるところに突き刺していく。
ジャキッ!
まずは前足の付け根、これで奴はスピードを少し落とさざるを得なくなった。
ザクッ!!
次に尻尾の付け根、これで周りの建物を破壊するほど尻尾を振るうことはできなくなった。
バキッ!!
続いて肩にナイフを突き刺そうとしたが、とっさに避けられて背中に当たってしまった。皮膚は硬く、ナイフは簡単に折れてしまった。しかし、それだけでは終わらない。
俺はその硬い皮膚を足場にして、足に力を込めて肩に飛び移り、崖を登るようにして肩にナイフを突き刺す。
ザクッ!!
全体重をかけて深く突き刺したためか、奴の体から大量の血が噴き出していった。
ギャアアアアアアアン!!
奴は大きな悲鳴を上げる。これを聞いて、俺は少しだけ攻撃の手を緩めてしまった。どうも、マリノさん自身が叫んでいるように聞こえてしまって、怖くなった。
ザクッ!
しかしすぐに立て直した、彼女はもういない。ここにいるのはポータガルグーン、別個体ではあるが村を襲ったモンスターであり、カグタさんからしてもマリノさんからしても、村の敵である。
俺は2本目のナイフをベルトから取り出し、肩の傷に思いっきりねじ込んだ。グリグリとえぐるようにして突き刺せば突き刺すほど、奴は悲鳴のような咆哮を上げる。
「カグタ、今だ!」
「任せろ!」
痛みに耐える奴の目を狙える絶好のチャンス、カグタさんはスナイパーライフルを構え、奴の目を撃とうとしたその時、奴らが来た。
「我々はアンチャード、モンスターへの攻撃を今すぐ止めろ!」
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