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第76話 巨大なモンスター

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「逃げろ逃げろ」

「家が燃えている!」

「そんなこと言ってないで、早く!」


 立ち上がるのもやっとの、走れば走るほど傷の開く体で、俺は現場へ向かう。


 振動はトルティラ地区とトリロジー地区の方から起きている。どちらかと言えば、トリロジー地区寄りか。だからとても近い、それでもこのスピードで走って10分から15分程度か。


 クロガは言っていた、あの少女にモンスター化の薬を混ぜたと。あの少女とわざわざボカして言っていたが、まさか彼女じゃないよな。


 俺は家に立て掛けてあったハシゴを登って、屋根を伝って現場へ向かう。やっぱりだ、トリロジー地区の方で何かが起きている。


 パチパチッ


 向こうの方では家から炎が上がっている。ついさっきに爆発があったのか、空から瓦礫が降っている。


 グサッ!


 しかし煙のせいで視界が悪く、空から降ってくる瓦礫は次々と逃げ惑う人々の頭に刺さっていく。


「ああっ!」

「上を見て!」

「私はいいから逃げなさい!」


 奴らはモンスター大戦を起こすために、カービージャンクの子供たちを誘拐していた。それは、カービージャンクの子供たちにモンスターを洗脳する特殊な能力があるから。なのにそれを通り越して、人をモンスターにするなんて、本当に許せない。


 俺は討伐者だ、討伐者からすればモンスターは敵だ。なのに奴らは人間をモンスターにする、どういうことだ。モンスターを洗脳するだけじゃ飽きたのか、関係ない人々を巻き込まないと、奴らは気が済まないのか?


 ドゴッ!


 かなり近づくと、そこには四足歩行のモンスターが、辺りの家を踏み潰しながら暴れていた。刺々しい見た目をしており、爪も骨も全てが鋭い。しかし体はとても大きく、歩くだけで家が破壊されていくのが分かる。


 モンスター化の薬で人工的に作られたモンスターか、とても興味深い。奴らの違法な実験によって作られた、という最悪な点を除けばな。


 ドカンッ!


 現場から300mも離れていないところに、カグタさんの家がある。しかし、半壊しているのか、中に人がいるようには見えない。耳を澄ましても、人々の悲鳴に掻き消されて、どこに誰がいるか把握はできない。


 俺はカグタの家に行き、武器がないかを探した。彼は元々討伐者で、対モンスター用のスナイパーライフルでニュークの頭を撃ち抜いていた。だからあの化け物みたいな巨大なモンスターを倒す武器も、どこかにあるはず。


 壊れ果てた家に入り、崩れた階段の手すりを使って二階に上がってから、彼の部屋だったであろう場所に置いてある箱を開けようとした時、どこかから微かに呼吸する音が聞こえた。


 ヒューヒューヒュー


 これは風の音じゃない、誰かが発している音だ。この家の中に、まだ誰かいるのか。耳を閉じて、近くの音に集中すると、一階に誰かが埋もれているのが分かった。俺は箱と、壁に立て掛けてあった剣を持って急いで飛び降り、音の鳴る方へ向かう。


 ヒュー、ゴボッ、ヒュー


 音からしてこれは、男の人だろう。俺はテコの原理で、落ちていた柱を差し込み、思いっきって瓦礫を上げる。するとそこには、カールが埋もれていた。


「おい、カール!」


 助けようと手を伸ばしたが、カールの胸には木の破片が深く刺さっており、その場から動けなくなっていた。俺は木を挟んだまま、その隙間に入って両手で思いっきり持ち上げる。


「あ……ダークエイジか。傷だらけだな」


 カールは意識こそあるものの、呼吸が乱れている。木の破片は長く、鋭い。それが心臓近くに刺さっていて、貫通しているからか、呼吸はどんどん乱れていくばかりだ。どうにかして助けようにも、瓦礫を動かせば動かすほど、彼の心臓に深く刺さるようになっていた。


「ヌヤミは助けたか」


「大丈夫だ、どうやら解放されたらしい」


「そうか。なら頼む、俺を放っといてくれ」


「何を言ってるんだ、一緒にここから出よう」


「それよりも、ロナたちを」


「分かってる。その前に、カールだ」


「頼む、みんなを救ってくれ」


 どうにかして彼を外に引っ張りだそうにも、彼の心臓に刺さる破片は地面に突き刺さっていて、瓦礫をどかして、その破片も抜かないと彼は出て来れない。くそ、どうすればいいんだ、彼はまだ、ここにいるのに。


「ダークエイジ、最後に頼みがある」


「最後とか言うな」


「アーク・コータイガーを、もし、全て終わったら、彼を探したい、と、みんなに伝えてくれ」


 彼の言葉を聞いて俺は、瓦礫を背負ったまま、覆面を外した。俺の顔を見たカールは、少しだけ笑い、小さな声でささやいた。


「何だ、見えないフリでもしてたのか」


「いや、本当に見えない。俺はただ――」


 返事を言い終わる前に、彼はそのまま安らかに眠っていった。くそ、また助けられなかった。どうして、こうなんだよ。助けたいと思った人を、俺はただ助けたいだけなのに。


 俺は瓦礫の山から抜けて、箱の中に入っていた対モンスター用のスナイパーライフルの弾とナイフを取り、モンスターのいる方へ向かった。


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 バンッ! バンッ!


「ちくしょう、弾切れだ!」


 巨大なモンスターと前線で戦っていたのは、カグタさんだった。彼は対モンスター用のスナイパーライフルを手にしている。


「早く逃げてください!」

「急いで!」

「何も持たないで、いや、命だけを!」


 訓練所上がりの新兵やモンタージュの捜査官はモンスターと戦う術を知らないためか、避難に回っている。


「おのれ、ナイフで太刀打ちできるわけないだろ」


 そう言いつつも彼はナイフを取り出し、立ち上がる。


 グオオオオオオオオオオオン!!


 対して、巨大なモンスターは怯まずに、咆哮を上げる。そしてカグタさんの方へ向かって突進していく。


「うおおお、やめろ!」


 俺はすぐさま、そのモンスターの背後から剣で、背中を突き刺す。


「誰だッ、って……ダークエイジじゃないか!」


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