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第72話 クロガ・ジェディ・ナイト

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「残念ながら、ダークエイジ。お前はここで死ぬ、何故なら俺は唯一の、モンスター五重合成実験の成功者なんだ」


 すると、クロガの腕が大きくなっていくのが感じ取れた。筋肉が増大しているのか、モンスター五重合成実験、つまりクロガの体の中には五体のモンスターの力が宿っているということか。ブラッドリーやニュークとは異なる。アテナでもスケルトンとアイスマンの二体合成だった。


 少しずつ増大していく腕の筋肉、これはオークなのか。そして治癒能力はニュークと同じか。くそ、お前はもう普通の人間じゃなかったんだな。


 ウォーリアーズの時、お前はモンスターを狩る側だったというのに、いつからモンスターの力を借りるようになったんだ。


「さあ、ここで死ね!」


 そう発すると同時に、奴はその増大させた拳を振るってきた。俺はすぐに両手で顔面を守ったが、遅かった。


 ドンッ!!


 オークと同じ力の拳を両手で受けた俺は、耐えきれずに廊下の壁まで吹き飛ばされてしまった。さっきの兵士らの死体を越えて、遠くの壁に叩きつけられたのだ。


 何という威力だ、腕の感覚が早くも無くなった。衝撃で痺れているのか。それに音も大きく、耳鳴りのせいで空間が上手く把握できない。クロガが近づいてきているのは分かるが、視界は真っ暗で、何も見えないし何も掴めない。


「おっと、どうしたダークエイジ?」


 ドンッ!!


 奴は大きくした右腕で俺を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。くそ、何なんだよこの力は。あまりの威力で床が削れていく。呼吸する暇もなく、奴は何度も何度も地面に叩きつける。


「かかってこい、ダークエイジ」


 ボギッ!!


 対抗しようと腕を伸ばしたが、簡単にへし折られてしまった。痛みに耐えるために声を上げようにも、首を絞められて、上手く発せない。


「ぐぐぐ、ああああ」


「おっと、聞こえないぜ」


 クロガは俺を持ち上げたまま、耳の近くまで持ってくる。煽りのつもりなのか、聞こえないから耳元で話せと煽っているのか。クソ野郎め、ならばこうしてやる。


 ガンッ!!


 俺は勢いを込めて、クロガの頭に頭突きをした。しかし奴はピンピンとしており、効いてないようだった。奴は右腕だけでなく、左腕も少しずつ大きくさせていく。


「この街に手を出したのが間違いだった、ダークエイジ。せめてもの詫びとして、俺の手で殺してやろう。さあ、命を俺にくれ」


 ドンッ! ドンッ!


 ゴッ! ゴッ!


 奴は俺を地面に叩き落とし、馬乗りになってから左、右と、増大させた拳で交互に殴り始めた。オークに殴られた時にしか鳴らないような音が、人の体から鳴っている。俺は何も抵抗できずに、ただ顔面を殴られるのみ。何もできない。


 グチャ! グチャ!


 ブシャッ! ブシャッ!


「どうした? 抵抗しないのか」


 抵抗したくても、もう腕も足も動かない。馬乗りになっていて、押さえられているから。それに、顔面を殴られているせいで、耳も少しずつ遠くなっていく。俺にとって聴力は全てなんだ。だからさっきから、周りの感覚が掴めなくなっている。


「俺を楽しませてくれよ、ダークエイジ!」


 血が出ているのは分かる、感触で何となく分かる。そして奴は馬乗りになって殴っている、それも感触で分かる。けれども、それ以外の情報が分からない。もう、聴力は全くといっていいほど、失われている。殴られたせいで、血が詰まっているんだろう。


「当初の計画では、お前は含まれていなかった。けれどもラーズ様がお前を気に入ってからは、お前も計画の一部に組み込まれていた。はずれの村でギャングを殲滅しただろう、それも計画だったんだよ」


 辛うじて、クロガの声を聞くくらいの聴力は残っている。しかしエコロケーションとか、空間把握能力はもう欠けている。完全に真っ暗な世界だ、何も見えないし、何があるかも分からない。ジジジと鳴っていた床の音も、聞こえなくなった。


「しかしな、計画は最終段階に入った。もうお前は必要ないんだよ。ダークエイジの信用を欠落させ、社会に共通の敵を作ることで市民を一致団結させる、これがお前に与えられた役割だ。ダークエイジ、お前はもう用済みだよ」


 俺を社会の共通敵にして、一致団結させる、か。確かに市民は一致団結してるよ、最悪な方向にな。それが目的なんだな、奴らの。村でギャングを殲滅させたのも、俺を武器として利用していたってわけか。


 くそ、もう何も動かない。顔を動かすことすらままならない。全身という全身から血が噴出しているのだけが分かる。ここで本当に終わるのかもな。


「そうだ、ダークエイジ。最後にお前の顔を見てやろう、覆面を被ったまま死ぬのは御免だろう」


 クロガは俺の覆面に触れ、取ろうとした。しかし、俺がグッと止めた。腕は動かない、だから辛うじて動く首を無理やり曲げて抵抗する。


「おお、抵抗する力はあるのか。ならば、俺も乗ってやろう。砕けよ、ダークエイジ!」


 そして奴は、俺の左頬に思いっきり平手打ちをした。


 パンッ!!


 奴の平手打ちは強大で、最悪だった。大きくなった手でされた平手打ちによって、俺の左耳は完全に聞こえなくなった。それだけじゃない、空気を切り裂くように出された平手打ちは、俺の内臓を潰した。


「ぐが、おえっ」


 俺の口からは大量の血まみれの肉片が、グチャグチャと垂れ流れる。息をしようと口を開ければ開けるほど、際限なく肉片が垂れ流れる。呼吸もできない、肺で空気が止まっているみたいだ。


 耳も片方聞こえないから、何がどうなっているか分からない。ただ死期が迫っているのだけは分かる。こんなに冷静に考えられるのも、火事場の馬鹿力ってやつなのかな。


「さあ、顔を見せてくれ」


 クロガは俺の覆面に手をかけ、思いっきり引き剥がした。そして俺の顔を見て、声を上げた。




「……お前、まさか、ブレイクか」


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