第71話 ただのクズだ
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「ヴオオオオオオオオオオオオ!!!」
威嚇のために声を上げ、曲がり角を曲がった時、俺はその足を止めた。その先には兵士がいる、そこで突っ立っていたら撃たれる、それは分かっている。けれども、そこから一歩が踏み出せなかった。恐怖だ、俺は奇妙な光景を見てしまった。
「あがががが」
「ぐああああ」
「ごごごごご」
何故踏み出せなかったか、それはそこにいる兵士たちの全員が、各々ハンドガンやショットガンを口にくわえていたからである。それだけじゃない、意味の分からない言葉をずっと口走っている。
「あがが、たすけて」
「うんんんん」
そして奴らは、一斉に引き金を引いた。
バンッ!!
グシャッ!!
さっきまで平和そうに雑談していた15人くらいの兵士が、一瞬にして全員命を落とした。彼らの脳みそらしき肉片が天井や壁に飛び散るのが、見えなくてもその場の空気で感じられたのが、とても怖かった。
何なんだ、どうして自殺なんかしたんだ。奴らは助けて、と言っていた。どういうことだ、誰かに無理やりさせられたのか。駆け寄って兵士の遺体に近づくと、彼らはドッグタグを握り締めていた。みんな、死ぬことを分かっていた、ということだ、なのに。
「お見事」
と、急に背後から声がした。振り返ると、そこにはある男が立っていた。
「曲がり角の先に兵士がいることを理解して、あえて声を荒らげて突っ込もうとした。手には階段のギミックのところで拾ったレンガ、これで注意を引こうとしたんだろう。空間把握能力が優れている」
そこにいるのは、クロガだ。
くそ、どこにいってもこいつがいる。前に会ったのは、巨人襲撃の時か。そこからはラーズが直接会いに来るようになったから、久しぶりと言えば久しぶりか。
「奴らに何をした?」
「彼らは俺たちの会話に必要ない。だから、ここで死んでもらった」
「ふざけるな」
「お前からすれば彼らは敵だ、何故彼らの死をそこまで気にする?」
やっぱり、今のクロガに話は通じない。お前は狂いに狂ったんだな。あの時、俺が止めるべきだった。戦闘員時代、お前が起こした事件の時に。
俺はレンガを地面に捨て、腰のベルトに差していたナイフを取り出す。同時にクロガも、ズボンのポケットから小さなナイフを取り出した。
「最終決戦と行こうじゃないか、ダークエイジ」
クロガは最終決戦としてここで俺を殺し、ダークエイジと治安部隊の戦いに終止符を打つつもりだな。勝手なことしやがって、ここで終わらせる気はない。お前を殺して、治安部隊をも潰す。
やっとお前と戦えるのか、そう考えると体がウズウズとしてきた。戦闘員時代、戦いの成績は同じくらいだった。パワーはお前の方が凄くて、テクニックは俺の方が凄かった。
この二人がタッグを組んで、戦闘員として各国で戦っていたの、今思えば奇跡だよな。でもお前は、ある小国で事件を起こした。それからだ、お前は戦闘員を辞めて、俺も辞めた。そして都市で討伐パーティーをしていた、ただの浮浪者に声をかけて、ウォーリアーズという立派なパーティーにした。
でも今では、お前はただのクズだ。だから、ここでお前の息の根を止めて、お前の人生を終わらせてやる。
「来いッ!」
俺はナイフを逆手に持ち、2歩下がってから思いっきり踏ん張り、前に突進した。同時にクロガも、突進してくる。でも、お前より今の俺の方が上だ。
グサッ!
俺はすぐに腰を落とし、ナイフをクロガの太ももに突き刺した。そして両手でクロガの手首を掴み、腹を右足で蹴り上げる。反撃を防ぐため、すぐにクロガからナイフを奪い、それも奴の手首を突き刺してから、蹴って吹き飛ばす。
「おお、素晴らしいなダークエイジ」
ナイフで刺されたというのに、声すら上げないということは、やはりクロガもモンスターとの合成実験を受けたのかもな。
「だが、俺には及ばない」
すると、クロガの体が赤く光り始め、少しずつナイフで刺された傷が塞がっていった。もしかして、ニュークと同じ能力なのか。傷を修復する能力、これはまた厄介だぞ。
「俺は魔剣四天王の、最後の一人。そしてウォーリアーズのリーダー、”クロガ・ジェディ・ナイト”だ」
やっと奴は、自らの名前を名乗ったな。俺はこいつがクロガだと知っていたが、向こうから名乗ることはなかった。だからここで初めて名を明かしたつもりなんだろう、残念ながら知っていたが初めて聞いたかのようなリアクションを取っておく。
「ウォーリアーズは、悪の組織なのか?」
「考えようによっては、お前が自身のことを正義だと思うのなら悪で、自身を悪と思うなら正義だ。少なくとも、お前とは反対の立場にある」
面倒な言い回しだ、所詮は治安部隊やデビルズオール社と変わらない。
それにしても、フルネームは初めて聞いた。今までクロガ・ナイトだと聞かされていたから、ジェディという部分は知らなかった。というか、お前も魔剣四天王の一員だったんだな。
「これで魔剣四天王は全員、お前の前に姿を現した。これは何を意味するか、分かるか?」
「……宣戦布告か?」
「物分りはいいんだな、大体そうだ。計画はもう次のフェーズへと移行している。今まで暗躍していたウォーリアーズや魔剣四天王が姿を現し、デビルズオール社も豹変する。今まで、デビルズオール社に動きが見られなかったよな。何故だか分かるか?」
「……そういう計画なのか?」
「物分りが悪いな。デビルズオール社の会長は、表立った行動を嫌う。しかし、計画の達成が近い。じきに、あの御方も動き出すだろう。これは忠告だ、これが俺の役目なんだ」
デビルズオール社は今まで、裏で全てを操っていた。治安部隊だって、ウォーリアーズだって、ラーズ・フェイスの配下にあっただろうが、全ての元凶はデビルズオール社にある。だが、その会社は何も動いていなかった。
しかしクロガによれば、それは会長が表立って行動することを嫌っているから。デビルズオール社の会長は誰だっけな、社長の名前も覚えていない。どこかで記事になっていないか、ハードに聞けば分かるかもしれない。
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