第64話 不死身の男
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くそ、痛い、痛すぎる。
背中にはナイフが刺さっているが、抜けば大量に出血する。ここは痛くても我慢するしかないか。
色々とあって診療所の中にいた兵士6人を倒した。残るはリーダー格の眼鏡をかけた男のみ、たった1人だがどうもオーラが他の奴とは異なる。奴の持つナイフには毒が塗られていて、刺されば毒に苦しみながら死ぬ。流石は兵士、こういうことも理解しているのか。
「彼女は貴重なサンプルだ、こんなところで失うわけにはいかない」
「もしや、彼女を襲ったのもこのためか?」
「まあ、間違ってはいない。ブラッドリー、名前は知っているだろう。彼にダークエイジの格好をさせて濡れ衣を着せた後、ダークエイジの評判を地に叩き落とそうとしたんだ。しかし、現場にダークエイジ本人が来た。だから計画を大幅に変更した。そう、ダイジンといったか、彼はダークエイジ、お前のせいで死んだんだ」
うるさい、黙っていろ。お前らはすぐ、誰かが死ぬと俺のせいだとかほざいている。しかし元凶は俺じゃない、お前らだ。お前らが殺さなければ、ダイジンさんは死ななかった。他のみんなも殺されずに、襲われずに済んだ。全て、お前らが悪い。
なんて言葉にせず、顔に表す。ここで変に言ったって、奴はめんどくさい煽り文句を言ってくるだけだろう。だからグッとこらえて、ただ聞きたいことを聞く。
「何故、彼女を狙うんだ?」
「何故って、理由は知っているんだろ? それとも、理由も知らずに私たちを追っていたのか?」
「まあそうだな、カービージャンク生まれの子供がモンスターを洗脳できると聞いたが、彼女は違うんだろう?」
「……ほほほ、そこまで辿り着いていたか。どうだ、他に知っていることはあるかい?」
「他には、ポータガルグーンか。さっき言ってたな、巨人襲撃とポータガルグーンの襲撃の原理は同じだと。都市を襲ったのも、お前らの計画の一部か?」
「ほうほうほう、そこまで知っているのか。残念ながら私は答えないぞ。その代わりに後日、お前をラーズ様に会わせてやろう。そしてそこで、全ての真実を話すと約束しよう。真実を知っても、お前は私たちを止めようとするのか、はたまた計画に加担するのか」
やっぱりポータガルグーンは奴らの仕業なのか。最初の襲撃は数十年前で再襲撃は十年ほど前、どちらも奴らの仕業となると奴らは、かなり昔から暗躍していたことになる。俺が子供の頃からラーズは悪の道を進んでいたのか。あの見た目で、じゃあラーズは何歳なんだ?
「それはそうとして、私もここで名乗っておかなければならない。ラーズ様にそう指示を受けているのでね。名を明かしたくはないが、仕方ない」
そうして奴は、不本意ながらも手を広げ口を開く。
「私の名前はニューク・ネイカル。魔剣四天王の一人にして、能力は”不死身”だ」
なるほどな、奴もまた魔剣四天王でラーズの配下となるのか。そして当たり前のように特殊能力を持っていて、それも不死身だというのか。不死身から連想できるモンスターなんていない、不死身な生物なんているわけないんだから。
ぐ、これ以上話していても時間の無駄だ。早くナイフを抜いて楽になりたい。意識が遠のく前に、早く奴を倒さないと。
マリノさんは眠ったふりをしているが、実は起きている。流石にこの状態で寝れるわけがないか。反対に起きればそのまま殺されそうな雰囲気があるため、あえて寝たふりをしているようだ。
マリノさんの眠るベッドを挟んで廊下側に俺が、窓側にニュークが立っている。彼女を挟んでの戦闘は危険だ、ならばこっちに連れてくるしかない。
「名乗ったことを後悔させてやる」
俺は落ちていたナイフを拾い上げ、窓に向かって思いっきり投げる。
ガシャン!!
ナイフは見事命中し、奴の背後にあった窓ガラスが激しく割れた。
「ほう、何のつもりだ?」
「さあ、何だろうな」
答えてすぐ、俺は廊下の方へ向かう。すると奴は挑発に乗ってきたのか、ベッドを乗り越えて部屋から出てきた。奴はヘルメットを脱ぎ捨て、満面の笑みを浮かべながら毒付きのナイフを構える。
俺も同様に、倒れている兵士のベルトからナイフを取り出し、逆手に持ってグッと構える。
「かかってこい、ダークエイジ」
奴の言葉と同時に俺は突撃し、その勢いのままに奴の心臓にナイフを突き刺す。
グチャッ!!
しかし、奴は笑顔を崩さない。それどころか、笑みを浮かべたまま、ナイフを抜かずにゆっくりと前に歩き始めた。続けて俺はナイフを抜いては刺して、抜いては刺してを繰り返す。
グチャッ、グチャッ!
それでも、奴は何もリアクションを取らずにゆっくりと前に歩くだけで、心臓に刺さったナイフは何も気にしていないようだった。俺は奴から距離をとって、別の兵士のベルトからナイフを取る。やがて奴は歩みを止めた後、小さな声で囁いた。
「言っただろう、私は不死身だと」
すると、奴の胸が赤く光り出した。そして少しずつではあるが、赤い光に包まれながらゆっくりと傷口が塞がっていくのが見えた。
くそ、めんどくさい奴だな。心臓にナイフを刺しても死なないどころか、痛みを感じていないとは。心拍数は激しく上下しているが、表情に痛みは一切現れない。心臓にナイフが刺さっているというのに、奴は何も気にしていないんだ。
この治癒能力から察するに、奴は特殊モンスターの力を取り込んだのか。どちらにせよ、ナイフで刺しても意味ないんだ、ならば毒を以て毒を制す、これしかないな。
俺は腕に着いているナックルダスターを展開し、肘の留め具を外した。
「はあ、はあ、はあ、うおおおおおおお!!」
声を荒らげ気合いを入れながら、俺は奴に向かって突進し拳を振るう。
「おっと、無闇な攻撃は無意味だ」
奴は煽りながらも俺の攻撃を次々に避けていく。反射神経も優れているのか、やはりモンスターの能力を持っているからそこら辺も強化されているか。
ガシャン!!
と、その時。どこかからかガラスの割れる音が聞こえた。マリノさんはベッドにいて、リリーさんは別の部屋に身を潜めている。起きた兵士もまだいない、くそ、他の兵士に気づかれたのか?
「隙あり!」
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