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第62話 ダークエイジの冤罪

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 翌日、トルティラ地区の一部地域が封鎖された。

 理由は簡単だ、ダークエイジによる治安悪化を防ぐため。


 トルティラ地区付近で同一犯による強姦事件と殺人事件が引き続いて発生した。犯人の特徴は至ってシンプルで全体的に黒い布をまとっている。


 それ以外に知られている情報はなく、顔や身元は不明である。モンタージュも被害者であるため、都市はトルティラ地区の一部地域を封鎖し、徹底的に捜査するとのこと。


 まあ、言ってしまえば、犯人はダークエイジということにされている。いわば”設定”だ、だって真犯人はラーズ・フェイス率いる魔剣四天王が関わっているのだから。


 都市はマックスフューの治安部隊の一部メンバーを編成した、対ダークエイジの軍隊、通称”アンチャード”をカービージャンクに派遣した。少しでも怪しい動きをする人がいたら、奴らが特殊な権利で逮捕し、場合によっては即射殺も有り得るとのこと。


 そう、これはただの軍隊じゃない。治安部隊、つまりラーズ・フェイスの息がかかっているということ。奴らは正義ではなく悪だ、この街の治安はより悪化するだろう。治安部隊、聞こえはいいが結局は犯罪を助長している。


「捜査の邪魔です、早く立ち退いてください」


 リリーさんの店は、封鎖地帯のド真ん中だった。それもそのはず、ダイジンさんの店の前にあるのだから。俺が心配で店の近くに着いた頃にはもう、封鎖地帯となっていて入れなかった。


 そうなると、彼女はどこに行ったんだろうか。封鎖地帯に暮らしていた人はまとめて、他の地区の避難施設へと移り住んだ。そうなると、彼女がどこにいるか特定することはできない。彼女の家は花屋の2階にあるし、実家もない。彼女の父親の家は確かトルティラ地区の外にあったか、それでも彼女は実の父親を頼っているとは思えない。


 まあ、今はやることがある。

 まずは、ダークエイジの冤罪を晴らさないと。


 奴らはダークエイジに全ての罪を擦り付けた。ダイジンさん殺しも、ダイジンさんの娘の件も、マーティンの武器屋再襲撃も、モンタージュの捜査官殺しも。ダークエイジは民間人と警察組織の捜査官を殺したとして、全ての市民から恨まれている。最初はダークエイジの存在を擁護していた人も、現在ではダークエイジに対する批判を行っている。


 そして奴らのせいでトルティラ地区の一部の地帯は封鎖され、彼らの生活は根こそぎ奪われた。そういう奴らの行いが、より市民のダークエイジ批判を加速させる。ダークエイジがいなければ、という声をたくさん聞く。


『ダークエイジは市民の敵だ』


『ダークエイジを総力上げて殺せ』


『先日、ダークエイジによる第三の犯行が確認された。しかしアンチャードの到着により、少しはこの街の治安も元通りになるだろう』


『一方で、ダークエイジは強盗団を殺害している。はたしてダークエイジは何がしたいのか』


『ダークエイジvsアンチャード、この対決は如何に!?』


 封鎖地帯近くの家の屋根の上に登って、人々の声を聞く。すると誰もがダークエイジについて話していた。どれも批判的な内容である、それもそうだ。彼らからすればダークエイジなんて、正体不明の犯人に過ぎない。


「アンチャードはこれより、ダークエイジ討伐作戦を開始する。奴は人間ではなくモンスターだと思え、都市は見つけ次第即刻の射殺を要求している。その場合は民間人の犠牲もやむを得ないものとする」


 封鎖地帯はアンチャードの拠点でもある。だから奴らは大通りに集って、作戦会議をしている。作戦本部はちょうどダイジンさんの家辺りか、皮肉にも。


 ここから数百メートルは離れているため、奴らがダイジンさんの家の中で何を話しているかは聞こえない。あくまでも道のド真ん中で、アンチャードのリーダーと思われる男の声が、耳を通じて脳内に強く響き渡っているだけ。


「それでは討伐作戦を開始する。しかし、その前に。まずは第ゼロ段階の、市民の避難を優先しよう。我々は攻撃だけではない、治安を守る部隊だ」


 そうして奴らは大通りから、各々鉄砲を構えたまま走り出した。それぞれを追跡するのは難しそうだ。それよりも、奴らのどこまでがラーズの部下なのか、何も分からないことが怖い。


 ラーズの力はどこまで及んでいるんだ、モンタージュの捜査官は一部の人間が奴らの配下だった。対して治安部隊はどうなんだ、これが分からない。本当に、誰も信用できないのか。


 よし、今ならコスチュームに着替えても大丈夫だろう。ちょうど服の下にコスチュームを隠しておいてよかった。俺は服を脱ぎ捨て、屋根を伝ってから封鎖地帯の中へと侵入する。封鎖地帯は広いし、アンチャードの兵士もまだ少ないからここでは自由に動ける。


 少しだけ移動し、大通りの近くの塔に身を潜める。すると、作戦本部の中にいる人々の声がうっすらと聞こえるようになっていた。


「さて、ダイジンの娘はどうする?」


「まだ診療所におりますので、夜、動かすことにしましょう」


「ダークエイジに見つかれば大変なことになる。ダイジンの娘は貴重なサンプルだ、実験が上手く行けば”巨人再襲撃”はおろか、”ポータガルグーンの復活”も起こせる」


 やはりな、作戦本部の奴らはラーズの配下か。巨人襲撃を人為的なものだと理解しているのは、俺らと奴らだけ。それに、奴らはポータガルグーンについても言及していた。都市を襲い、リリーさんの故郷を襲ったポータガルグーンも、もしや奴らの仕業なのか?


 ダイジンさんの娘、マリノさんはまだ封鎖地帯内の診療所にいるそうだ。そして、彼女は狙われている。これは、カービージャンクに生まれた子供に特殊な能力が備わっていることに由来しているのか。ここで生まれた子供には、モンスターを操る能力があるとかないとか。


 でもマリノさんはカービージャンクじゃなく、外の村で生まれ育った人だ。カービージャンクで生まれた人間にそういう特性があると聞いていたが、彼女はそうじゃない。なのに何で、奴らは彼女を狙っているんだ。もしや、ダイジンさんの娘をあのタイミングで襲ったのも、診療所に隔離するためなのか?


 どちらにせよ、マリノさんは奴らに狙われている。モンスターを操る能力となれば、放っておけないんだろう。しかし診療所は封鎖地帯の中の方だ、そうなれば彼女の輸送中を狙うか。いや、それだと厳重警備となっているだろう。それなら、彼女が診療所にいるうちに、奴らが回収する前に俺が行くべきか。


 夜なら、このコスチュームで闇に紛れられる。

 名前だって。


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