第60話 捜査官のドッグタグ
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その日の夜、俺はトリロジー地区のモンタージュ施設の中にある遺体安置所にダークエイジとして訪れた。
警備はザルだったから、何人かを眠らせるだけで簡単に中に入れた。遺体安置所には用があって来た、それは俺に殺された捜査官どもの遺体を確認するという目的だ。
奴らはただの捜査官じゃない、ラーズ・フェイスによって派遣された偽物の捜査官か、もしくは本物の捜査官であっても治安部隊のスパイだろう。俺によって殺された捜査官もダイジンさんも他殺だから、捜査の一環として遺体はここに保管されているらしい。これは葬儀の会場で、捜査官同士が話しているのを盗み聞きした。
その捜査官が治安部隊のスパイだった可能性はある。しかしその時はコスチュームを持っていなかったのと、近くに知り合いが多かったこともあって聞くことはできなかった。しかし、トリロジー地区の捜査官であることは分かった。
「誰だ!」
俺の存在に気づいた捜査官の頭に向かって、俺はハンドガンを放り投げる。
ガンッ!!
「うわっ」
見事、鉄の塊が頭に命中した彼は、意識を失ってその場に倒れた。俺は彼に駆け寄り、胸に付いている名札を触る。紙に書いてある文字を読み取ることはできないが、名札の凹凸から書いてある文字は調べられる。どうやらこの男の名前は”コリーン”らしい。小太り気味の中年の男性か、まあ名前だけでも覚えておこう。
今まで眠らせてきた捜査官の名前も記憶している。5人くらいだったか、奴らの暴走を防ぐためにはこういうことをするしかない。
ダンッ!
いつものように扉を蹴破ってから、遺体が置かれている部屋に入る。ここにある遺体の数は6、何故か1つだけ足りないが、恐らくは全員治安部隊の奴らなんだろう。
カチャカチャ
その証拠に、胸ポケットから金属のこすれる音がする。試しに、ある遺体の胸ポケットに手を突っ込むと、中からドッグタグが出てきた。文字の凹凸とその形状から、恐らくは他の国の物だ。治安部隊のあったナラティブとマックスフューは同じ言語で、都市出身となれば訛りも少ない。
奴らの遺体の中に入っていたドッグタグは、遺失物として別に保管されていなかった。つまり奴らが治安部隊、そして隣国の元戦闘員であったことは、同僚にはバレていないんだろう。
モンタージュも結局は奴らの手下だったというわけだ。あくまでも一部の捜査官が治安部隊のスパイであるだけだが、しばらくは誰も信用できない。そりゃそうだ、誰かを助けても、後処理でやってきた警察組織が被害者を殺し、俺を加害者にする。
「……くそ」
今回のシナリオです、奴らはそう言っていた。奴らは警察組織でありながら事件を捏造した。もう誰も信用できない、警察組織なのに奴らは正義からかけ離れた存在となった。ダイジンさんも、奴らのせいで亡くなった。やっぱり、この拳を振るうしかないのか。
ここ一連の事件で学んだことがある。ひとつは、奴らを徹底的に潰す必要があるということ。奴らはただの人間ではない、それに数も多い。治安部隊は強大な組織だ、下手すれば南国の方にある小国の人口を軽々と超えるだろう。ウォーリアーズですら奴らの配下にあったなんて、最悪な気分だ。殺さないなんて、甘ったれたこと言ってられない。必ず、この拳で潰す。
そして、奴らは俺の大切なものを壊してくること。ダイジンさんを殺したのは娘さんが関係するだろうが、娘を襲ったことは偶然だろう、奴らからすればダイジンさんも娘も一市民だから。でもその偶然によって、彼らは被害者となった。
とにかく、奴らを信頼してはいけない。この街を守るのは、俺だ。モンタージュじゃない、奴らは悪だ。俺だって、悪かもしれない。それでも、この街を守るにはこの力が必要だ。
「お前をウォーリアーズから追放する、意味は分かるよな?」
クロガの言葉が脳裏に焼きついている。ウォーリアーズだって、強盗団の手下だった。意味は分かるよな、これは脅しの言葉で、奴らは間接的に俺を襲ってきた。
それから事あるごとに俺はクロガと対話してきた。奴は俺のことをあの時追放した元メンバーだとは認識していないだろう。それでも、何回か話した。それで、分かった。奴は腐りきっていた、俺が気づかなかっただけでウォーリアーズの時から裏では暗躍していたんだろう。クロガだけじゃない、他のメンバーも。
何で俺だけ何も知らなかったんだ、俺はウォーリアーズの副リーダーだったというのに。それにクロガはいつから闇社会に浸かったんだ。生まれた時からか、ウォーリアーズを結成した時か、それとも……戦闘員時代のあの事件がキッカケか?
「ダークエイジ、捜査官を襲った行為で逮捕する!」
ああ、捜査官が事の重大さに気づいたようだな。奴らはハンドガンを構えて、遺体の安置室の手前まで来ている。数は10人程度といったところか。扉は蹴破っておいたから、明かりの漏れ具合と影の位置から奴らがどこにいるかは分かる。
別に戦うつもりはない。上の換気ダクトから外に出られることは知っている。それに奴らは、善良な捜査官かもしれない。俺は悪じゃないから、善良な捜査官を殺すようなことはしない。あくまでも、悪を殺すだけだ。
俺は遺体の胸ポケットに入っていたドッグタグを奪い、天井についていたダクトの蓋をこじ開ける。そこからヒョイっと登り、ダクトの蓋を戻してから別の部屋へと移動する。
「突入……って、消えた!」
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