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第59話 ダイジンさんの葬儀

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『ダークエイジは悪だった!』


『捜査官とパン屋を襲ったダークエイジ、現在も逃亡中か?』


『ダークエイジは今日未明、トルティラ地区のパン屋を襲撃し店主を鉄砲で殺害後、訪れた捜査官を撲殺した。目撃者も多数おり、モンタージュは今日にも対ダークエイジの治安部隊を派遣するとの意向を示した』


『これは許されない行為だ、ダークエイジの正体を暴き、即刻死刑にしろ!』


 次の日、俺は大犯罪者に成り果てていた。どこの記事もダークエイジを人殺しとして報道している。あのウォークアバウトだって、そうだ。


 昨日、俺は捜査官を全員殺した。奴らはシナリオのためにダイジンさんを撃ち殺した、だから俺がこうやって、怒りに身を任せて全てを破壊したというのに、いや、だからか、奴らはむしろそういう目的だったか。


 奴らは俺に、ダークエイジに捜査官殺しの罪を擦り付けたかったんだろう。実際に、俺は捜査官を殺した。捜査官殺しをさせるために、奴らはわざわざ関係のない市民を巻き込んで射殺した。悪いのは奴らだ、しかし世間の人たちはこの真実に気づいてくれない。


 ああ、俺はどうしたらいいんだ。ダイジンさんだって、俺のせいで死んだ。俺がダイジンさんの娘の件を独自に解決させたから、奴らは怒ってダイジンさんを巻き込んだ。最初からモンタージュに任せていれば、いや、モンタージュも最初からグルだったのか。


 奴ら治安部隊は地下室の件でこの街から撤退していたように見えたが、潜んでいただけでまだこの街に残っていた。そのせいで、今回の事件が起こった。


「くそ、くそ、くそ!」


 俺は家で独り、頭を壁に打ちつけながら叫ぶ。手の震えが止まらない、俺の手で捜査官を殺した、その罪悪感よりも、俺のせいでダイジンさんが殺された、そっちの方がとても苦しくて、悲しかった。捜査官といっても、奴らは治安部隊のスパイだ。


 俺は痛みに耐えながら、ピンセットで貫通しなかった弾丸を体の中からくり抜きつつ考える。痛みに耐えるのは慣れた、しかし味わったことのない痛みには、全く慣れていない。


「どうすりゃいいんだよ……」


 この問題を解決するには、誰かに記事を書いてもらうしかない。この事件の、全ての黒幕を、世間に知ってもらう必要がある。しかし、そんなことはできない。誰も取り持ってくれない、それにできたとしても、次は彼らが殺されてしまう。


 奴らは闇社会のトップに君臨している。少しでも動きを見せれば奴らは速攻で向かってきて、隠蔽という名の殺人を繰り返すだろう。ああ、この都市は変わってないんだな、ずっと前から。


 ハードは全てを知っている、今はウォークアバウトで働いている記者だが、元は治安部隊によって家族を奪われた人間だ。今だってウォークアバウトはダークエイジを批判する記事を書いているが、それは彼の本意じゃないはず。


「く、くそ」


 いや、こんな前向きなことを考えるのも、もう疲れた。今は被害者の家族に向き合わないと。俺は鏡についた血を拭いながら、服を着てリリーさんのお店に向かう。


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「店、やってるんですね」


 リリーさんの花屋は、大通りを挟んでパン屋の向かいにある。パン屋の前には捜査官や記者による人混みができており、花屋もその迷惑を受けていた。彼女は俺を店の中に入れて、扉を閉めた。


「今、閉めたよ」


「俺は客ですよ、何で」


「……ダイジンさん、亡くなったって」


 その言葉を聞いて、俺は少しばかり吐きそうになった。ダークエイジとして接するダイジンさんと、アークとして接するダイジンさんでは、同じ人なのに違って見えたから。彼女の発するダイジンさんは後者の意味で、俺にとってはとても苦しく感じる。


「聞きました。安らかなるお眠りを、お祈りいたします」


「ありがとう。ダイジンさんは、罪もなく殺された。マリノにまだパンを振る舞えてないというのに、ダイジンさんは何も関係ないのに、殺された……こんなの、酷いと思いませんか?」


「……俺も、そう思います」


 俺は少し沈黙を挟んでから答えた。本当は全てを知っている、ダイジンさんを殺したのはダークエイジじゃない。でも、まだ言えない。まだ言う時じゃないから、それに、ダイジンさんを巻き込んだという意味では、彼が死んだのは俺のせいだ。


「ダイジンさんの葬儀があります。あの人は、この地区の、いや、村の人気者でした。誰でも参列できるそうなので、貴方も是非」


 そうして彼女は俺に1枚の紙切れを渡してきた。書いてある文字は読み取れないが、恐らく葬儀の招待状のようなものなんだろう。俺はそれを受け取り、ズボンのポケットの奥に入れる。


「マリノが退院したら、私の方で引き取ります。まだ精神が安定していないので、しばらくは店を休むかもしれません。でも、安心してください。また、店を開きますから。しばらくは会えないかもしれませんが、また葬儀で会いましょう」


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「彼は道半ばで倒れました。しかし、彼の人生はまだ終わってません。神に仕え、神の元で永遠に生きるでしょう。それでは、彼の大いなる眠りに、祈りを捧げましょう」


 ダイジンさんの葬儀には数多くの人が集まっていた。会場はトリロジー地区の中心にある教会で、武器屋のマーティンや八百屋の主人など、村の頃から一緒にいた方たちも参列していた。マリノさんは退院できずに参加できなかったようだが、リリーさんは前列に座っており、弔辞をしていた。


 リリーさんの父親は会場にはいなかったが、会場の外で音漏れした声を聞いて涙を流していた。泣いている姿を見せたくなかったのか帽子を深く被り、誰にも気づかれたくなかったのか、葬儀が終わるとそそくさと逃げるようにして帰って行った。


 俺は、アークという人間としてはお世話になっていた。そこまで期間は長くはなかったが、腹を空かせていた俺にパンの耳をくれた。トルティラ地区に少しだけ馴染めたのも、彼のおかげだ。そしてダークエイジとしては、多大な迷惑をかけた。


 治安部隊の奴らは俺の評判を落とすためだけに、わざとダイジンさんの店を襲い、ダイジンを殺した。そうすれば、俺が捜査官を殺すと分かっていたんだろう。奴らは俺を挑発し、挑発するためにひとりの大事な命を蔑ろにした。その行動に、とても腹が立つ。


 ああ、絶対に殺してやる。奴らの陰謀を止めてやる。治安部隊、デビルズオール社、ウォーリアーズ、強盗団マルゲリタ、ラーズ・フェイス、フェイス四天王、クロガ。敵は多いが、必ずこの手で全てを殺す。地の果てまで、とことん追い詰めてやる。


 そうと決まれば話は早い。俺は杖を強く握り締め、グッと力を込めたまま会場を出た。


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