第58話 シナリオ
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バンッ!!
ドンッ!!
空気を切り裂く音と共に、ハンドガンから弾が発射された。捜査官の目の前に立っていたダイジンさんは、その捜査官に額を撃たれて死亡した。即死だった、逃げる隙もなかったのか。
何をやっているんだ、アイツらは。モンタージュの捜査官が、無実のダイジンさんを至近距離から撃ち殺したんだ。困惑する暇もなく、俺はその場からすぐに飛び出し、屋根から飛び降りて彼らのいた2階へと戻った。
「何をした」
彼らは俺に向けてハンドガンを構えた。構わず、俺は彼らに問いかける。
「何をしたか聞いている、何をした!」
「何って、撃っただけだ」
「……は?」
「今回のシナリオに、彼の犠牲はつきものだ。ダークエイジはパン屋を襲撃し、彼を殺した。だから、君の代わりに殺しておいただけだ」
ああ、待て、コイツらは、治安部隊の奴らだ。間違いない、まだこの街に潜んでいたのか、奴らは俺をはめるためにわざわざパン屋を襲撃して、無実のダイジンさんを巻き込んだのか。くそ、くそ、くそ、くそ、許さない、許さない、許さない、許さない。
俺は拳に力を溜め、グッと握り締めた。
「おっと、ダークエイジが警察組織に反抗するようだ、ああーたすけてーああ、ダークエイジを殺せ!」
その瞬間、奴らは一斉に俺めがけてハンドガンを放った。7人が狭い空間で同時に発射した弾を、俺は避けることができなかった。
ブシャッ
グチャッ
俺の脇腹と右腕に弾が貫通、経験したことのない激痛が俺の体を蝕んでいく。ああ、ああ、これが奴らの、治安部隊のやり方か!
「おお、痛いだろう? これが苦しみだ」
高らかに笑う男は、俺の額にハンドガンを押し付ける。そして痛みを我慢しながら座り込む俺の耳元で奴は囁いた。
「お前が偉大なる御方を侮辱した罰だ、あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ、あーひゃひゃひゃひゃひゃ!」
奴は気持ちの悪い笑い声を上げ、ハンドガンを左手で押し付けたまま、ナイフを右手に持ちそれをペロリと舐める。偉大なる御方って、まさかラーズ・フェイスのことか。ブラッドリーもアテナも、ラーズの配下の四天王とか言っていた。
奴は俺の真正面に座り込み、笑みを浮かべる。
「強姦の犯人役を押し付けたのに、お前は勝手に犯人を殺した。ブラッドリーも傷つけられた。これはその罰だ。この店の店主が死んだのは、お前のせいだ。何もかもダークエイジがいるからなんだよ」
クソ野郎共め、お前らはどこまでも身勝手な奴らだ。クソ、この手で、俺がこの手で、全てを滅ぼしてやる、覚悟しろ、いや、覚悟する時間も与えずに、俺がこの手で殺す。
グシャッ!!
俺は右手のナックルダスターを起動させ、目の前にいた奴の顔面を4本の刃で切り裂いた。続けてすぐに左手のナックルダスターも起動させて、左にいた男の心臓を刃で貫く。右の刃を抜き、左の男の脳天に刃を思いっきり突き刺し、力のままに持ち上げる。
「撃て、撃て!」
奴らは両手が塞がれた俺を容赦なく撃ってくる。俺は刃で貫かれた男を盾にして、ゆっくりと前に進む。盾を貫通した弾が俺に当たろうとも、顔面をかすろうとも、動じない。この手で、腐ったお前らを殺すために、これくらいの痛みで悲鳴なぞ上げるわけがない。
「は、は、弾切れだ」
次の弾を装填するには時間がかかる、その隙に俺は刃を抜き、盾を落としてから攻撃する。目の前にいた男の右手を刃で切り落とし、肘で顔面を突いてから転ばせ、腰に差していたナイフに重力の勢いを加え、心臓に刺し落とす。
グサッ
そしてショットガンを装填しようと部屋の隅に逃げていた男の首を、ヌンチャクで巻き上げ、そのまま窓ガラスに突っ込む。あまりの勢いに、顔面にガラスの破片が刺さった奴は何も言えずに、そのまま転落していった。
バタッ
そのまま2人の男に向かって、刃を突き出したまま突進する。奴らがハンドガンを撃とうとトリガーに手をかけると同時に、俺は奴らの腹に向かって刃をぶっ刺した。刃は貫通し、奴らはハンドガンを地面に落とした。それでも、俺は許さない。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
俺は叫びながら壁に向かって突撃し、奴らの腹に思いっきり刃を突き刺した。グッ、という感触と共に刃は壁に突き刺さり、奴らは息絶えた。腕のベルトを外しナックルダスターを取ってから、残った1人の元へゆっくりと歩み寄る。
「来るな、来るな」
男はナイフを振り回しながら階段を降りようとしていた。しかし、甘い。俺はナイフを蹴り上げ、奴を階段から突き落とす。そしてすぐに、そのナイフを拾って奴の心臓に突き刺す。
グサッ
「く、くそ。ダークエイジ、死ね!」
本当の最後の1人は、まだ生きていた。背後からショットガンで殴ろうと向かってきていた。しかし、俺は背後も見渡せる。俺は左にスっと避け、ショットガンを奪い取り、それで奴の顔面を思いっきり殴る。
グシャッ!
「ぐ、痛えよ、この野郎!」
奴は抵抗しようとハンドガンを取り出したが、それも俺が奪って顔面を突く。コイツは、ダイジンさんを撃ち殺した張本人だ。4本の刃で顔面を切り裂いたものの、傷がつくだけでまだ生きていた。顔面が血まみれになっている奴は、フラフラとしながらも立ち上がる。
「ダークエイジ、ここで死ね!」
俺は痛みも構わず、奴を思いっきり突き飛ばし、ベランダの手すりに奴の体を押し当てる。
「やめろ、押すな、壊れる」
「壊れてもいい、この手で殺す」
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ガシャン!!
あまりの騒音に、ある少女が目覚めた。彼女は目を擦りながらもカーテンを開き、窓を開けた。するとそこには、混沌とした光景が広がっていた。
「死ね、死ね、死ね!」
大通りの前で、黒ずくめの男が捜査官を殴っている。ドンッ、ドンッ、ドンッと生々しく重い強打音が街に響き渡る。その音によって起こされた人々は、次々にカーテンを開けて、この混沌と化した大通りを目撃していった。
バタッ
殴られている捜査官は確実に意識を失っていて、それどころか死んでいる可能性もあるのに、黒ずくめの男はなりふり構わずに捜査官を殴り続ける。それはまるで、暴力そのものの具現化だった。大人でも気分が悪くなるほどの、残虐で野蛮で、血も涙もない暴力行為がそこにはあった。
グチャ、グチャグチャ!
やがて血まみれの捜査官の顔面からは、内臓らしき赤黒い何かが噴出した。殴りすぎた、にも関わらず黒ずくめの男は気づかずに夢中になって男を殴り続ける。
「殺してやる、殺してやる」
目の前の男はもう既に死んでいる。誰も黒ずくめの男の暴力を止められなかった。理由は簡単だ、下手すれば自分も巻き込まれるから。それに、この一連の行為は、どこか演劇のようにも感じられた。この世で起きていることではない、そう思わせるくらいに、暴虐で非人道的な瞬間だった。
少しすると、黒ずくめの男は立ち上がり、辺りを見渡した。真っ暗な夜だったが、銃撃音や何かが崩壊する音のせいで、みんな目覚めていた。その人々に、男は目撃されていたのである。黒ずくめ、いや、返り血にまみれた男は、そのままパン屋の方へ戻って行った。
(目撃者の証言より引用)
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