第57話 魔剣四天王の一人
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ボコッ……ボコッ……ボゴッ
あまりの音に裏口で見張りをしていた男がショットガンを手にしたままこっちに向かってきていた。しかしそれも知っている、扉が閉まっていても向こう側で何が起こっているかは見えるんだ。
俺は太もものベルトからナイフを取り出し、扉が開くと同時に向こうへと放り投げる。
ザクッ!
ナイフは壁に反射して、扉の先に立っていた男の脳天に突き刺さった。これで残り2人、うち片方は今俺に殴られている。もう1人は拘束されたダイジンさんの前にいるらしいが、どうやらそいつは女のようだ。性別も年齢も関係ないが、こういう組織で女とは珍しいな。
ボゴッ……グチャッ……ベチャ!!
やがて男は倒れた。何度も何度も顔面を殴られて、挙げ句の果てには頬骨が見えるくらいには顔をえぐられていた。仕方ない、ダイジンさんの店を襲った罰だ。そう簡単には、逃がさない。
俺はナックルダスターと刃を回収し、階段を上って2階へと向かう。扉の先にはダイジンさんと女がおり、その女はショットガンを手にしている。ということは、最悪扉を開けた瞬間にショットガンを撃つ可能性がある。それなら、扉を開けると同時に、ショットガンを無効化すればいい。
バタンッ
俺は扉を開けると同時に、ブーメラン型のナイフを奴の右手めがけて放り投げる。すると奴は油断していたのか、ナイフによって右手を痛めつけられ、ショットガンを床に落とした。俺はすぐにショットガンを奪い、奴の顔面に突きつける。
この女は仮面を被っており、ローブを着ているためか姿は見えなかった。それでも髪を結んでおり、体つきからして女性だということは分かる。
「お前ら、ブラッドリーの手下か?」
「ふふ、ブラッドリーを知ってるんだ」
「答えろ!」
「いいわ。私はブラッドリーの手下じゃない、彼と同じく、ラーズ様の配下よ。”魔剣四天王”の一人、アテナ。よろしくね」
そう言って、奴はショットガンを両手で掴んだ。その瞬間、奴に掴まれたショットガンは一瞬にして粉々になった。サラサラと粉が地面に滴り落ちる、何だ、奴も合成実験の成功者なのか?
触ったものを分解するモンスターなんて聞いたことない、ただし推測されるのは、触れたものを凍らせるアイスマンくらいか。でもこんなにも粉にするなんて、普通のモンスターじゃありえない。
「そうね、ブラッドリーはオークと合体した。私は違う、アイスマンとスケルトンの能力を合成したの。私の能力は、触れた物体の細分化。どう、驚いたでしょう?」
そうか、スケルトンは死ぬと骨が粉々になる。まさか、スケルトンの死ぬ時の特性とアイスマンの能力を合成したのか。そんなことができるのか、オークと人間を合成するだけでなく、2つの能力を合成できるとは。まさに人智を超えた生物だ、お前らは。
「今日はここまでにしておくよ。今回は君への顔合わせだ。そうだ、ラーズ様が君を気に入っていたよ」
「それはブラッドリーからもう聞いた」
「あらら、情報が行き届いてなかったみたいで」
「まさか、それを伝えるために彼の店を襲ったのか」
「うーん、まぁ他にも理由はあるけど今はそういうことだと思ってもらって構わないよ。いずれ君も全て理解できるようになる。その時は、いつでも待っているよ」
そして奴は、消えた。一瞬にして、俺の視認できる範囲から逃亡したんだ。さっきまで目の前にいたはずなのに、サッと窓の外へ歩いたかと思ったら、もうどこにもいなかった。
とりあえず、今は目の前の人を助けないと。俺はナイフを取り出し、ダイジンさんを縛る縄を切った。
「はあ、はあ、助かった」
「怪我はないか?」
「……何だ、ダークエイジか。早く失せろ」
「その前に、モンタージュの奴らを呼んでからだ」
モンタージュの奴らは騒音をききつけ、既にこちらに向かっていた。彼らがここに来るまでは、俺はここに残るべきだと思う。アテナとかいう奴も、戻ってくる可能性があるし。
「勝手にしろ」
こうしてモンタージュの捜査官が来るまで、俺は部屋の隅っこでじっとしていた。またいつ彼が襲われるか分からない、だから捜査官が来て平和がもたらされるまではここにいることにした。すると彼は、手首を押さえながらも口を開く。
「お前は何でこんなことをする」
「こんなこと、とは何だ?」
「自警活動だ。悪人を倒すなんて、捜査官や治安部隊に任せればいいだろう。一般人がやる必要はない」
「捜査官程度じゃ力が足りない。犯人を捕まえることはできても、裏の力で奴らはすぐに外に出てくる。こうやって殺さないと、奴らは何度も過ちを繰り返す。闇社会は想定以上に根深い」
「……闇社会か」
「都市は何でも揉み消す。俺がこうやって戦っているのも、都市に買収された強盗団や暗躍する組織を取り締まるためだ。俺がやらなかったら、誰がやる」
その言葉を聞いて、彼は黙った。色々と思うところがあるんだろう。ダイジンさんの村も、ポータガルグーンの再襲撃も都市によって隠蔽された。俺も彼も、時代は違えど正義を振りかざす悪によって傷つけられた。
ダークエイジを認めてほしい、とは思わない。ただ、聞いてほしい。俺は治安部隊とデビルズオール社を倒すために戦っている。奴らはウォーリアーズと協力していて、ウォーリアーズもまた悪の組織と成り果てた。俺は、俺を追放した組織を、必ず潰す。
「ダイジンさん、大丈夫ですか!」
少しすると、モンタージュの捜査官らが店に入ってきた。俺の役目はもう終わりだ、後は彼らに任せよう。俺は2階の窓から手すりを使って屋根の上に渡る。事件の後始末は、モンタージュに託した。
「怪我はありませんか?」
「ええ、何とか」
俺は屋根の上で、ナックルダスターを調整しながら彼らの会話を聞く。また武器屋に行って、刃を磨いてもらわないとな。抜けなくなってしまっては、どうも戦いにくくなる。
「死者4、逃亡2、これで合ってますか?」
「ええ、1人は女性、1人はダークエイジでした」
「ほう、これはダークエイジによる犯行ですね」
「いえ、ダークエイジが私を助けてくれました」
彼が答えるのと同時に、少しだけだがあの場の空気が不穏になっていった。何だ、この異様な空気は。捜査官たちは扉の方へ近づいていき、ゆっくりと深呼吸を繰り返している。
「そうですか、貴方は混乱している」
「は、はい?」
「ダークエイジはひとりでパン屋を襲撃、店主は抵抗むなしく銃で射殺されてしまった。これが今回のシナリオです」
バンッ!!
その瞬間、ダイジンさんの前に立っていた男がハンドガンを抜き、そのまま彼を撃ち殺した。
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