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第56話 討伐者を辞めた男

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 そこから数日後、リリーさんは元気そうに店の前に立っていた。父親との問題は解消されたのか、それはよく分からなかったが、ともかく彼女は笑顔で店前に立っている。これなら当分は大丈夫そうだな。


 あの後、リリーさんの父親は、彼女の言葉を聞いて無言でその場を立ち去った。正論を言われたから逃げたのか、詳細は屋根の上からだと何も分からなかった。まあ、彼女が笑顔なら何でもいいか。


 リリーさんが元気な理由はもうひとつあると考えられる。それは、彼が復帰したことだ。


「よし、今日も張り切るぞ」


 ダイジンさんは腕をまくって、パンをこねている。娘を襲われ、病によって倒れてからしばらくは店を休んでいた。妻は離婚していてここにはいないため、パン屋を開店することはできなかった。しかし病から復活した今、ダイジンさんはやっと店を開くことができた。


「ふう、やっぱりこういう日が一番だ」


 彼は楽しそうに、汗水垂らしながらも客と会話をしている。従業員も雇っているが、彼らはトルティラ地区の人間ではないようで、店長が病に倒れたというのに見舞いにも来なかった。ドライな関係性だが、店との雇用形態にお見舞いに行くとかいうオプションは付いていないんだろうな。


「よし、一旦休憩にするか!」


 そうして彼は白衣を脱いだ後、大通りを渡ってリリーさんの営む花屋の前に立った。


「見ろ、この通り俺はピンピンだ!」


「ええ、お勤めご苦労様です」


「俺は捕まってないぞ、ははは……父親が帰ってきたって本当か?」


 彼らはジョークを飛ばしながらも、急に真面目になって話を始めた。こう見るとダイジンさんとリリーさんはとても相性がいいな、反対にリリーさんと実の父親のカグタさんでは、相性が悪いというか、不思議な関係性だと思う。


「ええ、家に引きこもっていたのではなく旅に出ていたようで。家に行きましたが、また鍵がかかっていて、中には入れませんでした」


「そうか、くれぐれも気をつけろ。カグタの家は治安の悪いところにある。大通りに面した武器屋が襲われたんだ、あそこはもっと危険だ。マリノの件は解決したが、心の傷は癒えない。リリーには、うちの娘と同じ気持ちを味わってほしくない」


「……分かりました。父には会いません、というより彼から会いに来ます。それと、父は巨人襲撃について知りたがっていました。今更帰ってきて、どういうつもりなんですかね」


「……分からないが、君の父親、カグタは再襲撃と都市の対応を憎んでいる。だから巨人襲撃にも再襲撃の可能性があることを予想しているんじゃないか。ポータガルグーンの再襲撃を揉み消されたように。彼も一応は記者だ、真実を追い求めることが彼の仕事なんだろう」


 カグタさんは討伐者を辞めたあと、記者となったが家に引きこもっていたと聞いた。しかし外の世界で旅に出ていたとしたら、彼は記者としてのセカンドライフを謳歌していたのか。そして巨人襲撃の記事を見て、遠くからはるばる戻ってきたと。


 ポータガルグーンの再襲撃によって故郷と大切な人を失い、それすらも都市によって揉み消された。その彼が真実を求めて記者となり、外の世界で調査をしていたとしたら辻褄が合う。


 しかし彼は、リリーさんを置いていった。もう大人になっていたとはいえ、彼はリリーさんを独りにした。


「よし、休憩終わりだ。お前も頑張れよ!」


 そうして彼は大通りを渡り、自分の構える店に戻った。この一連の会話を俺は、路地裏から聞き耳を立てて聞くことしかできなかった。彼らの前に姿を現すことが、いつの間にか怖くなっていた。だって俺は、明確に言えば部外者なのだから。


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 ガシャン!!


 その夜、どこからかガラスの割れる音がした。これは、強盗団の襲撃に違いない。俺はコスチュームを着て、急いで音のした方へと向かう。


「た、たすけてくれ」


 そこにはなんと、ダイジンさんがいた。強盗団に襲われたのはパン屋だった。俺はパン屋の屋根の上に降り立ち、こっそりと中の状況を把握する。強盗団は全部で5人、前より少ないがナイフの形状からして前の強盗団と近い関係なのだろう。


 そうなると、コイツらはブラッドリーに雇われた強盗団ということか。それにしても、何でパン屋を狙ったんだ。まあ、今はどうだっていい。早く助けないと。俺は腰からヌンチャクを取り出し、ナックルダスターの安全ベルトを外した。


 パン屋のカウンターの前に3人、裏口の前に1人、2階に1人と縄で縛られたダイジンがいる。ならば真正面から突撃して、階段を登った方が早いか。


 ふう、ふう、はあ、はあ。


 少し深呼吸をしてから俺は屋根から飛び降り、割れたガラスを踏みつけながら真正面から突撃する。


「くそ、ダークエイジがもう来たぞ!」


 奴らはまるで俺が来ることを予測していたかのように叫び、ハンドガンを取り出した。ああ、お前らがハンドガンを持っていたことくらい知っている、だから俺はヌンチャクを持っているんだ。俺はヌンチャクを振り回し、上手く奴らの右手に当ててハンドガンを地面に落とす。


「死ねッ」


 そしてすぐさまナックルダスターを起動し、刃を突き出す。すると刃は真正面にいた男の腹を貫通し、カウンターに突き刺さる。


「くそおおおお!」


 2人の男は左右に分かれ、双方向からナイフを持って向かってくる。俺は刃を引き抜いて反撃しようとしたが、あまりの威力で刃がカウンターから抜けなくなっていた。くそ、刃を磨く時に再調整したからか、もう少し緩めておくべきだったな。


 ガッ……ガッ……


 刃が抜けないせいで反撃ができない。こうなったら、無理やり力技で行くしかないか。俺はまず左のナックルダスターを起動させ、左から来た男の腹に刃を突き刺す。これで両手が動かせなくなったが、足は自由だ。


「うおりゃああああ!」


 声を上げながら向かってきた男の首元に蹴りを入れ、よろけた隙にナックルダスターを腕から外す。そしてすかさず、足を奴の腹に入れる。壁にグッと押し付け、逃げられなくさせたところで、拳で奴の顔面を何度も何度も殴る。


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