第54話 武器屋の襲撃
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「いやはや、申し遅れました。私はアルバート、ここの八百屋の主人をやっております。噂には聞いておりますよ、アークさん」
別に初対面でもないのだが、こうやって2人きりで話すのは初めてか。
「アーク・コータイガーです、最近トルティラ地区に来たばかりですが、よろしくお願いします」
「ええ、ところで、リリーちゃんとはどういったご関係で?」
「店と客です。それ以外の何物でもありません」
俺は間髪入れずにそう答えた。彼女は店の店員で、俺は客だ。もっとも、まだあの店で花を買ったことはない。収入源がまだちゃんとは見つかっていなくて、花を買う余裕すらない。パン屋で貰ったパンの耳で何とか生きながらえていたんだぞ。
「そうですか。なら、それでいいです。カグタはリリーちゃんを置いてひとりで旅に出ていた。その時リリーちゃんは大人だったとはいえ、親を失った状態で彼女は孤独でした。周りは手助けできることならと、頑張っていましたがそれも限界で。聞いたと思いますが、この地区は他の村からの移住者ばかりで、若い者は少ない。久々ですよ、この地区に若い者が来たのは」
そうだったのか、確かにトルティラ地区に若い人は少ない。診療所の先生とモンタージュの捜査官といった、外部から派遣されている人たち以外はほとんどが店を構える主人で、親世代の年齢だ。大通りから若い人たちも見えるが、彼らは別の地区の人々で、この地区に若い人はそう多くないらしい。
だからか。俺が来た時にダイジンさんが受け入れてくれたのも、巨人襲撃で半壊した地区に若い人が来てくれたからか。トルティラ地区は少ないが、巨人襲撃によって損傷を受けた地区の人々は、より損傷の少ない地区へと移住している。
その中、俺は家賃が安くなるため、トルティラ地区へと移り住んだ。少しは繋がった、コミニュティの輪が広がったのも、こういうことだったのか。
「言ってしまうと、貴方は盲目で世界が不便に感じることも多くあるでしょう。しかし、トルティラ地区はみんな貴方を受け入れてくれるはずです」
そうして彼は、俺を送り届けてくれた。こういう閉鎖的なコミニュティは、外部の人間を受け入れない、もしくは受け入れても自分たちの良いように変化させることが多い。しかし彼らは、村の住民ではなくトルティラ地区の人間として、俺を少しずつ受け入れてくれている。
ダイジンさんの件があったんだ、それなのに。なら、俺も頑張らないといけない。アークとしてじゃない、ダークエイジとして。言ったはずだ、俺の名前はダークエイジ、アークなど偽名に過ぎない。ブレイクは、まだ分からない。
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その夜、武器屋が襲撃に遭った。それはパトロールとしてトルティラ地区の屋根の上を渡り歩いていた時のことだった。
パリンッ!
突然、西の方からガラスの割れる音が聞こえた。急いで音のした方に向かうと、そこは例の武器屋だった。間違いない、これは強盗団の仕業だ。俺は急いで飛び降り、静かに着地して路地に潜む。すると強盗団共の話し声が聞こえた。
「早く、武器を探し出せ」
「おい、店主はどうする」
「どうでもいい、殺しとけ」
なるほど、あの店主はまだ店内にいるのか。空気の流れからしてこの建物には地下室があり、その中で強盗団は暴れている。店主もそこにいて、縄で縛られているのか身動きが取れてない状況だ。大きい地下室が一つだけあり、武器屋の奥の部屋から階段で繋がっているのか。
武器屋の方には3人、地下室には5人か、強盗団にしては人数が多いな。それに武器を探しているようだ、これは何かの襲撃に備えての武器屋襲撃なんだろうな。まあ、何だっていい。手首につけていたナックルダスターの安全用バンドを外し、いつでも突き刺せる状態にしておく。
ふう、ふう、はあ、はあ。
少しだけ深呼吸をして、ゆっくりと入り口の方へと向かう。武器屋の方はまだ何とかなるが、地下室となれば逃げ場はひとつ、階段しかない。その階段を塞がれてしまえば逃げ場はなくなる。向こうからしても、俺からしても、逃げ場がない状況は避けたいところ。
「だ、誰だ?」
俺は隠れることなく姿を見せつける。3人の男たちはすぐにナイフを構えた。しかし、刃渡りはこっちの方が圧倒的に長い。俺は走って刃を出しながら、奴らめがけて突進する。
「だ、ダークエイジだ!」
気づいた時にはもう遅い。3人のうち2人は、刃によって心臓をグサリと貫かれた。そしてそのまま、思いっきり刃を引き抜き、倒れた男らの顔面を強く踏みつける。残った1人はナイフを持って構えるも、体が大きく震えている。
「あっ、あっ、あああああああ!」
怯え叫んだ男の眉間には、4本の刃が奥深くまで刺さっていた。引き抜くと、赤黒い内臓がブチャッと生々しい音で飛び散るから、とても気持ちが悪い。しかしこれもカイザーナックルとかいう、強化されたナックルダスターのせいだ。使い勝手はいいが、一方で刃が少しずつ削れていっている。
「くそ、見つかったか!」
地下室にいる奴らは、こいつの悲鳴のせいで俺の存在に気づいたらしく、慌てて周囲を警戒している。今更警戒したところで、後はもう殺されるだけ。俺は布で刃についた血を拭い、腕に装着し直した。
「出てこい、ダークエイジ!」
言われなくても出ていくぞ。俺はカウンターのガラスの下にあったヌンチャクを取り出し、腰のベルトに差し込んだ。更に小型のブーメラン型ナイフをポケットに入れ、太もものベルトにナイフを入れる。武器屋の主人は、思ってた以上に武器を隠し持っているようだ。どれもこれも、販売されてない物ばかりだ、彼も随分と悪い奴だな。
コンッ、コンッ、コンッ
俺は足音を鳴らしながら階段を降りる。そうすれば奴らはより警戒心を高める、すると見えない敵にもっと怯えることになる。あえて足音を鳴らすことで相手を不安にさせる、これも戦闘員時代に習った。
「くそ、来るな!」
奴らの仲間のうちの1人が、恐怖に耐えられずに持っていたショットガンを乱射した。階段に向かって撃っているが、そこに俺はもういない。こうやって足音を鳴らした後は、暗闇に紛れて居場所を誤魔化す、これでワンセットだ。
「地獄に堕ちろ」
ショットガンを乱射していた男の背後に回り、そっと呟いてからナイフで首筋を掻き切る。そしてすぐに持ち替え、ひっそりと逃げようとする男の脳天にナイフを投げて突き刺した。
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