第52話 俺が相手だ
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「俺が相手だ」
俺はゆっくりと路地に入っていきながら、手首につけていたナックルダスターを起動し、安全用のバンドを外す。奴らは無防備の男を殴って楽しんでいたようで、拳は血まみれだ。
「おお、ダークエイジじゃないか。昨日ぶりだな、気分はどうだ?」
「最悪だ、ここでお前らを殺して晴らす」
「良い意気込みだな。お前ら、ダークエイジを生け捕りにしろ!」
ボスは煽るだけ煽って動かずに、怪我を負った4人の男に命令していた。何よりも手下の4人は、殴られたり地面に叩きつけられたりしても懲りずに、まだ悪をやっているのか。結局、悪は連鎖的で、逃げようにも逃げられない。だから、ここで俺が終わらせてやる。
「うおりゃああああああああ!」
最初にナイフを持って振り回してきた男の腕を左手で払い、右手で顔面めがけて思いっきり拳を入れる。すると、その殴る動作のスピードも相まって、ナックルダスターが起動した。
グサッ!!
ビシャッ!!
45cmもの長さを誇るナックルダスターの刃によって、男の脳天は貫通した。奴は叫び声一つも上げずに、上げれずにそのまま死んだ。辺りには脳天の塊と黒い血が飛び散っている。俺は右腕を押さえながら刃を抜き、元に戻す。
「ほ、ほう、その武器は見たことないな。随分と楽しませてくれるもんだ」
「黙っていろ、偽物め」
続けて向かってきた男のナイフを右手の刃で防ぎ、左の拳で胸を思いっきり叩く。すると勢いそのままに刃が突出し、奴の心臓に深く突き刺さる。すぐに右手で奴の首元を突き刺し、グッとより奥に入れる。
「ぐ、ぐはっ」
奴は真っ黒な血を吐き、そのまま俺の体にもたれ掛かるようにして倒れた。俺は刃を抜き、体をどけてから死体を思いっきり蹴る。これくらいじゃ、彼女の傷は癒えない。一生消えない傷を消すことなんてできないんだよ!
「く、くそ、行くぞ!」
「お、おう!」
残った2人は、両手にナイフを持って突進してきた。前のように自暴自棄にはなっていないが、それでも特攻とはとても愚かだ。ここは、ボスを裏切って逃げればよかったのにな。俺は刃を戻さずに構えて、突進する。
グサッ!!
グサッ!!
45cmもの血濡れた刃は、突進してきた奴らの腹に深く刺さる。奴らはナイフを落とし、苦しそうに悶えている。しかしそんな奴らに構わずに、俺は奴らを刺したまま突進する。
ズサッ!!
ズジュ!!
勢いに身を任せて、奴らの腹により深く刃をねじ込むようにして、前へ前へと突進する。やがて奴らが息を引き取ったところで刃を抜き、また手首に戻す。この光景を見たボスは嬉しそうに手を叩きながら、思いを叫ぶ。
「こういうのが見たかったんだよ! 世の中にはバイオレンスが足りてないからさ!」
「ふざけるな!」
「部下の命を奪ったことに対してはこっちも同じ気持ちだ! しかし、面白かったよ。こういう血まみれの戦いを見れて、何よりだ」
とんだクソ野郎だな、部下が死んでもなおこれを演劇だと思っているのか。なら、このままお前のことを殺してやる。俺にはナックルダスターがある、獣並みの刃がある、これで、殺してやる。
「そうだダークエイジ、ひとつだけ言っておこう。前の攻撃はすまなかった、初戦だったんだ、力の制御ができていなくてね。腹は痛くなかったか?」
「とても痛かった、お前がこれから味わう苦しみよりは楽だったが」
「おっとっと、もっと気楽に来てくれよ。仕方なかったんだ、モンスターとの合成実験明けだったからなあ」
モンスターとの合成実験、その言葉を聞いて俺は歩みを止めた。何だ、奴はモンスターと自分の体を合成したのか、人体実験をしていたとでもいうのか。
「この際、話しておこう。俺は治安部隊から派遣された、ブラッドリー・ルバントン。オークとの合成実験の成功者にして、ラーズ様を支える四天王のうちの一人だ」
な、まさか、この男が人体実験の被験者なのか。というよりも、治安部隊とデビルズオール社は既にモンスターと人間の合成実験に着手していたのか。前の怪力と足跡も、オークとの合成実験の被験体となれば説明がつく。こんなの、あっていいのかよ。
「まあ知ってる通り、この街で生まれた子供には”モンスターを操る”という特殊な能力がある。だから俺たちはここにいる子供を誘拐しては、どこか遠くへと輸送し、その能力を使って人体実験をしていた。俺が被検体となって成功したのも、ここの子供たちのおかげというわけだ」
くそ、コイツらはどこまでも腐ってやがる。自分たちが強くなるためなら、他人の子供まで奪う。誘拐だって、人の生活を根こそぎ奪う最悪なことだ、なのに奴らは自分のことしか考えてない、最悪な奴らだ。
「それともうひとつ、数週間前に巨人襲撃があっただろう。どうして有能な子供のいるカービージャンクを巨人に襲わせたか、それはお前を潰すためじゃない。ブレイク・カーディフを呼び起こすためだ」
何を言ってるんだ、アイツらからすればブレイクがどこにいるかなんて分からないはず、というかそもそもブレイクはあの時襲われて死んだという認識だっただろう。
「ここからはお前も知らない領域の話になるから、具体的なことは避けて言うが、どうやらブレイクは組織を裏切ったらしい。結果的にこの街に行き着いていたことは、ラーズ様の調査で分かっていた。だから巨人襲撃は、お前のためじゃない、ブレイクを表舞台に引きずり出すためにやったんだ」
何故だ、何故そこまでバレているんだよ。ブレイクがこの街にいたことなんてちゃんと隠し通せているつもりだった。ラーズ・フェイス、奴の調査網は俺の想像以上というわけか。それにしても、俺が組織を裏切ったなんて。
俺は最初から組織の一員ではなかった。ウォーリアーズはいつの間にかデビルズオール社の傀儡と成り果てていたらしいが、俺にそんなつもりはなかった。俺は最初から最後まで、ウォーリアーズの一員として、討伐者として戦っていたつもりだった。
「どうだ、もっと知りたくなったか。デビルズオール社の真の目的も、お前の知らないモンスターの秘密も、いつか全て教えてやろう。だから、今日はここまでにし一一」
ブシャッ!!
俺は刃を最大限に引き出し、背後に回ってから奴の首に突き刺した。続けて刃を抜き、背中に何度も何度も刃を突き刺す。
グシャッ!!
ドンッ!!
やがて奴は、大量の血を噴き出しながら倒れた。オークの攻撃力はかなり高いが、攻撃が当たらなければ痛くもかゆくもない。だから、攻撃される前に手を打つ。オークだし、のろまだった、そういうところも引き継いでいるんだな。
「くそ、覚えていろよ……ダークエイジ」
そして奴は倒れた。奴のそばには、何も関係のない一般市民が倒れていた。彼は無防備なのに、ずっと殴られ続けていた。
「た、助けて」
そうだ、俺は彼女を、マリノさんを見捨ててしまった。あの時、彼女をダイジンさんのところまででも連れて行くべきだった。怖いのはみんなそうだ、それでも、痛くても、逃げるべきじゃなかった。俺は、彼を助ける。今まで後始末はボルトに任せていた、そんな日々は、もう終わった。
これからは、悪人を殴るだけじゃない。人を助けるのも、俺の仕事だ。俺は彼を抱え、近くの診療所まで運んだ。
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