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第50話 ダークエイジのせい

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 翌日、パン屋は臨時休業のため閉まっていた。


 ダイジンさんの娘、マリノさんは意識を失っているため診療所で休んでいる。命に別状はないものの、深い傷を負っており、今後も注意が必要とのことだ。そしてダイジンさんは、心に深い傷を負っていた。


 娘が帰ってきたと思ったら、次は裸で男に襲われていたんだ。父親としてはとても不甲斐なく思うのだろう。何よりも娘を襲った相手を殺したい、と彼は思っている。


 何でこのことを俺が知っているか、それは俺が診療所の屋根の上で盗み聞きしているからだ。診療所の医者とモンタージュの捜査官に対して、彼は涙を流し声を荒らげながら、ずっと訴えかけていた。


「ダークエイジを捕まえろ、奴が娘を犯した」


 昨日の夜のことだった。謎の男に殴られて吹き飛ばされた俺は、ボロボロになりながらもその場から逃走した。目撃者も多く、みんな俺が犯行現場から逃げる様子を見ている。だから余計に、彼らはダークエイジを犯人だと思っている。


 何で逃げたか、それは、仕方ないことだった。彼女を襲う人はもういなくなった、それに俺も傷だらけだった。現に、家に帰ってからすぐ、大量の血を吐いた。明らかに内臓がおかしくなっていたんだ。


 いや、待てよ。まず、昨日の奴らは治安部隊の回し者に違いない。治安部隊のことも、俺が戦闘員出身ということも知っていた。それに昨日の男の怪力も、普通の人間じゃ有り得ない。


 デビルズオール社は確か、カービージャンクの子供を使ってモンスターを洗脳しているんだろ。そういう技術を応用して、人に怪力を植え付けたとしたら、このままでは街が大変なことになる。


 何よりも、奴らはマリノさんを襲っていた。マリノさんは家に帰ってから、誰かに会うために抜け出したらしい。会いに行く途中にやられたのか、でも恋人の家ではなかったんだろう。じゃあ、誰に会いに行こうとしてたんだ。


「分かりました。至急、ダークエイジを犯人として捜査本部を立ち上げ、事態解決に全力を尽くします」


 そうしてモンタージュの捜査官らは診療所から出ていった。どうも見ない顔だな、トルティラ地区に近いモンタージュは、一番近くてもトリロジー地区のところか。


 続けてダイジンさんの仲間たちが診療所から出てきた。パン屋の隣の八百屋の主人も、魚屋の主人も、武器屋の主人も、喫茶店のマスターも、トルティラ地区のコミニュティの人たちがみんな揃っている。パン屋の隣の八百屋も、ここにいる人たちがやっている店は全て臨時休業となっていた。


「聞いたか、ダークエイジにやられたらしい」

「悪を殴るダークなヒーローだと思ってたが、これじゃあただの暴漢クソ野郎だ」

「ああ、次は誰の子が襲われるか分からないぞ」


 仕方ない、当たり前のことだが彼らはダークエイジに怯えている。階段を降りながら、うつむいて会話する彼らは、絶望に包まれているようだった。


「再襲撃に続いて、巨人襲撃。生き残った数少ないコミニュティなのに、こうやって外部のクソ野郎に壊されていく。俺たちはどうしたらいいんだ」


「……その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 階段を降りた先には、帽子を深く被った謎の男が立っていた。彼らは怯えながらもゆっくりと近づき、男を囲むようにして立つ。


「悪いが、俺たちはあまり人と話したい気分じゃねえ。とっとと失せろ、じゃないとそのお洒落な帽子を剥がして鼻に拳を食らわしてやる」


「言葉使いが荒いな。この街も落ちぶれたもんだ。もっとも、元気そうでよかった」


 そう言って、帽子を被った男は前に進んだ。男を囲っていたというのに、あまりの気迫に押されたのか、彼らは男のために歩く道を開けていく。


「何なんだ、彼は」


「この口ぶり、もしかして……アイツか」


 何かに勘づいた八百屋の主人は、みんなを引き連れて走っていった。帽子の男を追ったのか、しかし見失ったようで、大通りに出てからはキョロキョロとしていた。何なんだ、あのミステリアスな男は。全てを知っているかのような口ぶりだったな。


 続けて診療所の屋根の上から会話を盗み聞きしていると、ダイジンさんが苛立ちながら診療所から出てきた。彼は診療所の路地裏から行ける小道に入り、頭を抱えていた。


「くそ、くそ、くそ!」


 ダイジンさんの咽び泣く声が聞こえてきて、俺は居ても立ってもいられずに、その場から飛び降りた。そしてすぐさま路地裏から小道に入り、彼の前に立った。


「……何をしに来た、ダークエイジ。目撃者の俺を殺しに来たのか」


 ちょうど人1人分しか入れないくらいの小道だから、彼にとってはより脅しに、より凶悪的に見えるのだろう。俺はすぐに首を振り、距離を取りながら口を開く。


「貴方の娘を襲ったのは俺じゃない、真犯人は他にいる」


「嘘だ! あの時、お前しかいなかった」


「いや、逃げられた」


「……信じられるか、お前は、街の治安を悪くしている。モンタージュが機能していないせいで、俺の娘は襲われた、それも全てお前の、ダークエイジのせいだ!」


 その言葉を聞いて、俺は何も言い返せなくなった。その通りだ、俺はモンタージュに通報することなく、悪人を見つけては殴っている。これではモンタージュは動けなくなった犯罪者を逮捕しているだけで、完全な活動できているとはいえない。


 モンタージュの活動をダークエイジが奪ったせいで、彼の娘は襲われた。そうとも言えるから、俺は何も言えなかった。


「……何も言い返せないのか、やっぱりお前が!」


「それは違う、俺はやっていない」


「なら! なら、犯人はどこにいる」


「……逃げられた。ナイフで刺したが、奴らには効かなかった」


「……甘ったれたことを言うな!」


 そうして彼は、俺の頬を殴った。俺は無抵抗のまま、彼の拳を顔で受け止める。続けて彼は、俺の胸ぐらをグッと掴み、顔を近づける。


「お前が犯人じゃないのなら、その真犯人とやらを捕まえろ、お前が真犯人なら自分の首を自分で絞めて、地獄に落ちろ。娘は一生忘れられない傷をつけられた、二度と消えないぞ、お前が、お前が、アイツを、アイツを……」


 彼はとても疲れていたのか、その場で倒れてしまった。無理もない。娘が消えて、夜中ずっと街を走り回って、ようやく見つけたかと思ったら娘は意識不明となって、更に一生消えない傷をつけられた。ずっと気を張っていたんだ、彼もまた。


 俺は彼を背負って診療所の前に置き、そのまま去った。こうなれば、俺がやることはただひとつ、真犯人を……殺すことだ。


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