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第48話 魔王

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「数十年前、ポータガルグーンと呼ばれる巨大なモンスターがマーベラス全域を襲いました。四足歩行で家を蹂躙していく姿は、まさに”魔王”とも称されていました。ポータガルグーンはその後、姿を消したため完全討伐には至っていませんが、15年前、私たちが南部の村に暮らしていた時、また上陸してきたのです」


 彼女はダイジンさんから貰った飲み物を一気に飲み干して、説明を続けた。


「ポータガルグーンは、絵本で見たものと同じ姿をしていました。キャプロー村、私たちが暮らしていた村はあのモンスターによって破壊されました。私はその時子供で、何もできませんでした。あの再襲撃で、父は妻、私の母を失いました。もちろん、住居も何もかも」


「……あの時、俺もその場にいた。というよりも、トルティラ地区の人間のほとんどが、キャプロー村で暮らしていた人たちだ。トルティラ地区の結束が固いのも、キャプロー村での再襲撃を経験し、共にカービージャンクへと移り住んできたからだ」


 そうか、この地区のコミニュティが結束していて、お互いにお互いを助け合おうとしている理由が分かった。トルティラ地区はそもそも、キャプロー村とかいう別の地域に暮らしていた人たちが移住してきたから作られた地区なのか。


「しかしマーベラスの中心部の奴らは、再襲撃の事実を否定しやがったんだ。『ポータガルグーンは既に討伐した、あれはゴブリンの襲撃だ』と、事実を隠蔽した。あの村には討伐者もいた、その討伐者が、カグタだ」


 中心部お得意の隠蔽か、ポータガルグーンは既に都市によって討伐されたと聞かされていた。そのポータガルグーンが復活して村が襲われたことを世界に共有すれば、都市の今後が危うくなる。


「父は、村と妻を救えなかったことに絶望と憤りを感じていました。そしてトルティラ地区に移り住み、少しすると父は心を病みました。この街に討伐者は必要ない、そう言い残して、家にこもるようになりました」


 ポータガルグーンは巨大な特殊タイプのモンスターなんだろ。それだと、被害の肯定をするわけじゃないが、村と妻を救えなかったのも無理はない。だってあのモンスターは、マーベラスの全域を襲い、全体の三割を壊滅させた、最低最悪の生物なんだから。


「一応、今は記者をしていると聞きました。しかし外に出られない記者なんて。結局、記事は書けてないと思います。というより、外部の情報を遮断しているので。巨人襲撃があった日も、父は家に閉じこもったままでした」


 リリーさんの父親は巨人襲撃に遭ってもなお、外には出られなかったのか。俺だって元討伐者だから、救えなかった時の絶望と憤りは分かる、いや、家族を失った痛みまでは分からない。けれども、あまりにも背負いすぎだ。悪いのは、モンスターと都市なんだよ。


「……まあ、そういうことだ。暗くなっちまったが、アークさんには理解してほしくてな。トルティラ地区の面々は、他所から移住してきた人が多い。それぞれにコミニュティがあって、それぞれが尊重し合っている。アークさんも、いつか受け入れてもらえる日が来るさ」


「……ありがとうございます」


「さあ、もう支度をしなきゃいけなくてな。今日の夜には娘が帰ってくるんだ、とびっきりのご馳走を用意してやらないと。パンの耳は渡しておく、何かあったらまた俺を頼ってくれ」


 そう言って、彼は店の中へ戻っていった。


「ごめんなさい、辛い話ばかり聞かせてしまって」


「い、いえ。元々聞いたのは俺の方ですし」


「そう、聞いてくれてありがとうございます。私も店をもうそろそろ閉めるので今日はこの辺で。ひとりで帰れますか?」


「……大丈夫です、それではまた」


 こうして、俺は家に帰った。とても、良い時間だったな。リリーさんの過去の話も、トルティラ地区の秘密も聞けて、何より久々に自分が元討伐者だという自覚を持つことができた。


 そうだ、ウォーリアーズは腐っていても、俺は討伐者だ。アイツらは、俺が必ずこの手で、復讐なんて、生ぬるいことはしない、この手で、痛めつけてやる。


「よし、そろそろ行くか」


 少し仮眠をしてから、俺はコスチュームを纏い、ダークエイジとして夜を駆ける。今日は、何人殴れるか、楽しみだ。


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「マリノが、いない!」


 トルティラ地区の屋根の上を通った時、ある男が叫んでいた。聞いたことのある名前に、俺はまず足を止め、その男のいる路地の近くに潜んだ。


「どうした!」


「マリノが、まだ帰ってきてないんだ。さっき家に帰ってきて、それからすぐに出ていったんだ。恋人の家に行ったかと思ったら、そこでもないらしい。くそ、一体どこに行ったんだ!」


 人探しをしているのは、ダイジンさんだった。なるほどな、娘のマリノがまだ帰ってきてないのか。荷物を置いてすぐにどこかへ行って、なお恋人の家ではない。そうなると、家出か、それならわざわざ家に帰らないか。


「夜道に娘さんひとりとなると、襲われる可能性がある。ここは手分けして、娘さんを探そう。俺たちは南へ行く、ダイジンさんたちは東へ行ってくれ!」


 トルティラ地区の人たちは協力して、マリノを探そうとしている。よし、ここは俺も手伝おう。何せ俺には、特殊能力がある。パンの耳の借りはこういうところで、


「きゃあああああ!!」


 と、その時。どこかからか女性の悲鳴が聞こえた。とても小さく、か細い声だったが俺には鮮明に聞こえた。声の反射からして路地裏の奥、周りには男がいるのか怯えている声質だ。そうなると、彼女は誰かに襲われている可能性が高い。


「くそ!」


 俺は屋根と屋根の間を跳び、現場へ向かう。彼女は何者かに襲われている、早く助けないと!


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