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第47話 ウォーリアーズ、活動再開

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「お久しぶりです、リリーさん」


「あっ、久しぶりですね、アークさん」


 俺はまた、花屋に来ていた。血にまみれた体に嫌悪感を覚えたからだ。花屋で、俺は花の匂いを嗅ぐ。そしてリリーさんに会うことで、少しは心が浄化される。


「すみません、まだ金が無くて」


「まあ、無理しなくていいですよ」


 流石に何も買わずにずっと花屋に居座るのはアレだから、少し違う店に行ったりもした。しかしそこの店主らは誰も俺を受け入れようとはしてくれない、当たり前か、頭に包帯を巻いてフラフラしている浮浪者なんて誰も相手にしない。


 俺を受け入れてくれるのは、リリーさんとパン屋さんのダイジンさん、あとそこら辺のコミニュティの方々くらいしかいない。それでも十分だ、俺にとっては。


「リリーさん、またパン屋でも行きませんか」


「いいですね、ダイジンさんも貴方に会いたがってましたよ。栄養不足なのかと疑うくらいの見た目をしているからだそうです」


 こんな姿をしていなければみんな受け入れてくれるだろうが、俺の本質はこっちだ。ダークエイジなんて、敵がいるから存在しているに過ぎない。


「それは大丈夫です、金が入ったのでしばらくは食べて暮らせます」


「ということは、食べれない期間もあるってことですね」


「……まあ、そんな長い期間じゃないのですが」


「なら、そういう時こそダイジンさんを頼ってください。パンの耳くらいは分けてくれるかもしれません」


 初めてダイジンさんに会った時も、彼は俺たちにただでパンをくれた。お人好しだからか、そういうコミニュティだからか、ここにいる彼らは皆優しく、俺を亡き者にせず接してくれる。


 リリーさんが俺に優しく接してくれるからか、ダイジンさんのパン屋も、隣にある魚屋の店主のサガリさんも、その隣の八百屋さんの店主のヨギマさんはとても優しい。心の温もりを感じる、まあそもそも俺が浮浪者であるのがいけないが。


「そうだ、新聞でも読みましょうか。うちの店はウォークアバウトを取り揃えていますので、それならすぐに持ってきます」


「……いや、大丈夫です。ウォークアバウトは……他の新聞ならいいのですが」


 家はある、でもそこは家じゃない。ボロボロで、長くいると肺が押しつぶされそうな感覚に陥る。だから俺は夜になっても、眠ることなくダークエイジとして駆ける。もしかしたらダークエイジは、逃げた先にある救済なのかもな。


「あ、そうだ、ダイジンさんのとこは他の新聞を取っていました。時間もちょうどお昼を過ぎた辺りなので、行ってみませんか?」


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「ほう、『号外 ウォーリアーズ、活動再開』だそうな。よかったな」


 ちょうどパン屋に行った時、ダイジンさんは配達員から号外の新聞を受け取っていた。彼はその新聞を読みながら感心していた。


「おう、カグタの娘さんと……あ、アークさんか。この新聞を見ろ、ウォーリアーズが活動再開するらしい。彼らが活動休止中に巨人襲撃があって、助けられなかったことを後悔していたらしい。良かったな、これでマーベラスも平和になる」


 何をしているんだ、アイツらは。巨人襲撃だってアイツらの仕組んだことじゃないか。それが今になって、活動再開なんて。巨人襲撃の時に活動休止していたのは、カービージャンクをあえて救えなくするためだろ。そこに俺が来たから意味が無くなった、とでもいいたいのか。


「おっ、あの救世主についても書いてあるぞ。『ウォーリアーズのメンバー、ブレイクについては現在行方不明となっており、巨人襲撃を救った男がブレイクを名乗っていたことについて、偽物の可能性もあるとのことなので調査中』とさ。まあ、俺たちからすればこの街を救ってくれたことには変わらない」


 そうだ、ウォーリアーズのブレイクのことを世間の人たちは巨人襲撃の救世主として讃えている。そんな社会の動きを彼らは認めたくないはずだ、どうにかして巨人襲撃の救世主を偽物だと言うことにしたいのだろう。


「ブレイクのイラストだ、目撃情報があったらすぐに連絡してほしいそうだ……アークさんに分かるように説明すると、二重で涙袋があって真っ直ぐな目をしていて、髪は黒くて長いが変わっている可能性があって、鼻も少し大きい」


 なるほどな、巨人襲撃の救世主を意地でもブレイクの偽物、すなわち俺ではなかったことにしたいのか。その救世主は鎧と兜をしていて、素顔は見えない。だから偽物の線は消せないままだ、本物だと証明できる人がいない、本人しか。


「ハンサムの手前といった顔か、しかしこんなのどこにでもいるぞ」


「ええ、私にはハンサムに見えましたよ。特に目の部分が、とてもまっすぐでかっこいい」


「おお、それは見る目がないな。悪い男に捕まるなよ」


 自分の顔についてここまで話してくれるのは嬉しいが、肝心の俺は目を失っていて、その真っ直ぐな目から覗けるものなんてない。視界は常に真っ暗で、時々水のせせらぎのような、ゆるやかな動きがチラつくくらい。


「余計なお世話です、そういえば、マリノはもう帰ってきますか」


「ああ、そうだ、もう帰ってくるよ。ちょうど今日の夜くらいに着く。朝でいいって言ったのに、早く帰って、アイツに会いたいとのことだ」


「あっ、まだ。遠距離恋愛でしたもんね」


「そうだな、今からもっと余計なお世話を言うが、恋人はいないのか? カグタはそういう心配をしない人だろ、だから代わりに俺がしておく」


「余計なお世話です」


 彼らは微笑みながら会話を続けていた。それを聞きながら俺は、貰ったパンの耳を食べる。


「今の恋愛のこととかは何も分からないが、恋人、というよりパートナーはいた方がいいぞ。最も、カグタが一番そういう思いをしている」


 そこで俺は、リリーさんの父親について気になった。ダイジンさんからカグタと呼ばれている、リリーさんの父親について、とても興味が湧いた。


「あの、リリーさんの父親って、どこにいるんですか?」


「……街にはいるが、ここにはいない。アイツは、数年前から心を閉ざしている」


 ダイジンさんが口を開くと同時に、彼女の顔が曇った。うつむいて、唇をギュッと噛み締めている。しかし彼女は、何か言いたげな様子ではあった。少しすると、彼女は口を開いた。


「……”ポータガルグーンの再襲撃”です。あの出来事をきっかけに、父は心を閉ざして家にこもるようになりました」


 ポータガルグーンの再襲撃、その聞き馴染みのない言葉に俺はグッと心を惹き込まれた。ポータガルグーンは聞いたことがある、それって、数十年前にマーベラスを襲った巨大なモンスターの話じゃないか?


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