第45話 ウォーリアーズの取引相手
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「人間なんてもはや、使い捨ての道具だ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は無性に腹が立ってきて、理性を失いそうになった。目の前に立つ少女を殴ろうかと思った、しかし手が出なかった。何故だろう、怯えているのか、俺は。少女とはいえ、敵であることに変わりはない、そのはずなのに。
「ふふ、殴ることすらできないなんてね。根は優しいのか、しかし私は子供ではない。見た目だけで判断しては、いつか悪い大人に騙されるぞ」
奴は俺が殴れないことを見越して、煽るように近づいてきた。その心拍数はとても早い、なんというか、子供のそれだ。本当に奴は大人なのか、子供ではないと言う割には、見た目も何もかも子供だ。
「じきにギャングが来る、ここから逃げたって無駄だ。ダークエイジの存在は既に知らせてある。街に逃げれば、追っ手が街に行く。そうなれば、この村のように市民が巻き添えになることだろう」
「待て、ここの村人は避難したんじゃないのか」
「そんなわけがなかろう、ここの村人は全員、私がこの手で殺しておいた」
それを聞いて、すぐに俺は奴の顔面を殴ろうとした。しかし、また手が出せなかった。何故か、振るおうと突き出した拳が止まってしまう。
「言ったはずだ、人間は使い捨ての道具だ、とな。ここを決戦の地にするのに村人は必要なかった。安心してくれ、墓はまとめて後で作っておく」
駄目だ、完全にイカれてやがる。奴は人の命の重要性を分かっていない。それに俺は墓の有無を気にしているわけじゃない、人間を使い捨ての道具だという間違った認識をしていることに腹が立っている。村人は全く関係なかったのに、コイツらが勝手に巻き込んだ。
「この街には脅威という名の邪魔者が多くてね、巨人襲撃でまとめて滅ぼそうとしたが、かえって脅威が増えてしまった。ブレイク・カーディフといったか、彼に会ったことはあるか?」
急に俺の本名が奴の口から出たために、俺は動揺してしまった。しかしグッと堪え、震えを消す。
「俺は悪人を殴る人間だ、お前らと違って彼は悪人ではないから会ったことはない」
「そうか、ウォーリアーズのメンバーかつカービージャンクの救世主だから、みんな彼を讃えている。しかし、彼は組織の裏切り者。ウォーリアーズから機密情報を盗み出した、極悪非道の罪悪人だ」
そうだな、奴らからすればそう見えるだろうな。俺はウォーリアーズから帳簿を持ったまま追放され、行き場を失った。悪い目線を持てば、そういう見方もできるだろうな。しかし知っている、ウォーリアーズの方が悪人だということを。
「ブレイク・カーディフはこの街に潜んでいる。悪人を殴るお前も、一度ブレイクに会うべきだと思う。ともかく、脅威は増えた。これはボスの意向じゃないが、やむを得ない事情があったから仕方ない。だから、お前をここで始末しておこう。おい、そこのお前、鉄砲を私に渡してくれ」
そうして奴は、俺の近くで黙って話を聞いていた男から鉄砲を受け取った。
「ありがとう、君は何歳だ?」
「お、俺ですか、俺は24歳です」
「そうか、なら享年も24か」
バンッ!!
そうして奴は、男の顔面を撃った。突然のことで、理解ができなかった。
「これは私とダークエイジ、ふたりだけの会話だ。邪魔者は必要ない」
「……だからって、殺す必要は無いだろ」
「私の部下を殺したお前に言われる筋合いは無い、それに人間は使い捨ての道具だ」
奴は、会話を聞かれたくないからとかいう理由だけで仲間を撃った。正確に言えば部下だが、いくら何でも命の扱いが悪い。人間は道具、そこから考えられるように、奴は人間の命を何とも思っていない。代替可能な物体だと思っている、何ならモンスターの方が貴重だと言っていた。
「邪魔者もいなくなったし本格的に話そうと思っていたが、どうやらギャングの到着が近い。だから最後に、自己紹介をしておこう。お前からすれば私は、白髪の少女でしかないからな……私の名前は、ラーズ・フェイス。強盗団・マルゲリタのリーダーだ」
ラーズ・フェイス、まさかダリアが言っていた奴か!
ダリアの雇い主で、彼はラーズという名前を叫んだ後、自殺した。そうか、そこで繋がっていたのか。何よりも、ラーズはマルゲリタのリーダーらしい。クロガと話していたのも、そのためか。
結局は何もかもデビルズオール社と治安部隊に繋がってくるのか、この国の闇社会を知った気になっていたが、知らないだけで闇社会は奥が深い。もちろん、悪い意味で。色は分からないため、奴が白髪だったなんてのも知らなかった。
「今はピンと来ないとは思うが、いずれ分かる。さあ、戦え、ダークエイジ! みんなの平和を守るんだ! 村を襲ったギャングどもを蹴散らしてくれ!」
そう言って、奴は姿を消した。一瞬にして、俺の視認できる範囲から消えたのだ。どうなってんだ、とにかくラーズ・フェイスが誰なのかやっと分かった。問題はここからだ。
「おい、いたぞ!」
面倒なことに、奴らはもう到着していた。村にダークエイジがいることは既に知っていたからか、奴らは村を囲うようにしてジリジリと迫り寄ってくる。ざっと20人くらいか、思ったより少ないが、しかし気迫と鋭い殺意が全員から感じられる。もしや、ギャングの精鋭を集めたのか。
「俺たちの連合で、ダークエイジを潰すぞ!」
「ここで仕留めないと、俺たちに未来はない!」
より面倒なのは、本来なら抗争していたはずのギャングどもが、俺を共通敵として団結していることだ。皮肉なことに、悪を殴るダークエイジの存在が逆に悪を強くさせている。
「ダークエイジを殺せ!」
「行くぞ、うおおおおおおおお!!」
奴らは腰からナイフを取り出し、一斉に突撃してきた。くそ、これは戦うしかないようだな。俺は脳天を撃たれて死んだ男の腰からナイフを奪い、深呼吸をしながら構える。
どこに誰がいるか、空間を把握しつつ戦う。それが俺の戦闘スタイルであり、特技だ。
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