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第44話 使い捨ての道具

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 夜な夜な、人を殴っていた時、その殴られた男は血を吐きながらあることを伝えてきた。


「お前、”オランド”の手下か?」


 ここはカービージャンクの西にある森を抜けた先にある、街灯もないような真っ暗な村だ。カービージャンクは森に囲まれているから外の様子が分かりにくい、だからこんな場所があるとは知らなかった。一応住所としてはカービージャンクの領域内ということになっているらしい。


 森から外れた、カービージャンクの領域内とはいえカービージャンクとも上の都市とも深い関わりを持っていない村は、めちゃくちゃになるまで荒らされていた。


 一昨日、街に現れた強盗団を撲滅した時、この村を乗っ取って拠点にしていた、というのを聞いた。だから俺はわざわざここまで来て、コイツらを蹴散らしている、ってわけだ。そして今は、この村を乗っ取った強盗団の残党を、自分の意志で潰している。


 なのに、どこかの手下かと勘違いされたら、流石の俺でも腹が立つ。だから俺は、奴の顔面をもう一度殴ってやった。


 ボゴッ!!


 そして奴の胸ぐらをギュッと掴み、体を持ち上げて顔の前に寄せる。


「俺は手下なんかじゃない、自分の意志で動く」


「……は、離せ」


「答えろ、お前らはどこの強盗団だ」


「……はやく、離せ」


「カービージャンクを襲う強盗団が多すぎる。これじゃ埒が明かない、もっと根本を叩き潰したいんだ」


 流石の奴も気絶しかけたのか、一瞬フッと体が軽くなった。危ない、これ以上やってはまた気絶させてしまう。コイツらのボスもやりすぎて、気絶してしまった。だから強盗団の名前とか、詳しい所在地までは聞けなかった。


「ほら、離したぞ。言え」


「……くそ」


「逃げ場は無い、他の仲間は気絶している。あの怪我じゃあ記憶も無くしているかもな」


 ここにいた強盗団の残党は4人、聞いて分かる通り他の3人はもう眠っている。ゴミ箱に頭を突っ込んだ奴もいれば、頭から血を流して倒れたままの奴もいる。奇襲だったからそこまで時間はかからなかった。それにコイツらは休憩中だったか武器を手にしていなかった。


「……強盗団に名前なんてない!」


 と、奴は叫んだが、奴の心拍数は乱れている。つまり、嘘をついているということだ。残念だったな、俺は、全ての嘘を見抜けるんだ。俺は地面に落ちていたクワを手にして、奴の首にそっと添える。


「次、また嘘をついたらこのクワでお前の首を叩き切る。いや、骨があるから簡単には切れないな」


「……」


「叩き切るとなると、それ相応の力と時間が必要だ。そうだな、今は夜だし時間は大丈夫か。それに、力も有り余っている」


 ボギッ!!


「ああああああああああ!!」


 そうして俺は、奴の腕をひねって折った。早く答えなかった罰だ、仕方ない。


「さあ、早く答えろ」


「わかった、言うよ、マルゲリタだ!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は何故か力が抜けてしまった。そしてすぐに、その理由が分かった。ああ、そうだ。あれだ、帳簿に書いてあった奴らだ。ウォーリアーズの取引相手で、帳簿に金の動きがあった。そうか、コイツらはウォーリアーズと深い関係にある奴らか。


 いや、待てよ。そういえば、マルゲリタは帳簿を見つける数日前に逮捕されているんだった。そうなると、コイツらはマルゲリタの名前を騙っているのか?


「それは本当か、早く答えろ」


「本当だ! ボスに口止めされてたんだ!」


「そうか、マルゲリタは捕まったと聞いたが?」


「あんなの一部の連中だ! マルゲリタは100人くらいの組織、一部が捕まっただけでモンタージュの奴らが勘違いしてるんだ!」


 確かにマルゲリタは、プロフェッショナルな強盗団として話題となっていた。他の強盗団とは違って、痕跡も残さなければ警察組織の警備をくぐり抜ける力もずば抜けている。だから捕まった時には大きなニュースとなった。しかしそれも、一部の連中が逮捕されただけに過ぎなかったのか。


 そして何よりも、ウォーリアーズの取引相手がまだ世界のどこかに潜伏しているということだ。100人の組織となれば、俺がこうやって殴ったコイツらも一部の連中に過ぎない。


「そうか、他の奴らはどこに行った?」


「ここには戻ってこない……何故だか分かるか?」


 声は後ろから聞こえた。俺の問いに答えたのは、目の前にいる男ではなかった。すぐに振り返ると、そこには身長の低い女の子が立っていた。この匂い、そしてこのオーラ、もしや前のアイツか?


「久しぶりだ、ダークエイジ」


 倉庫の近くでクロガと話していた、ゴブリンの軍隊の近くで俺と話した、謎の少女。そいつが今、俺の目の前に現れた。


「お前は誰だ」


「今から始まるのは、ギャング同士の抗争だ。お前は下級構成員の準備を邪魔しただけだ、もうすぐこの村には数組のギャングが押し寄せてくる」


「そうか……」


 俺はジメッとした冷や汗を垂らした。これから始まるのはギャングの抗争だ。強盗団と繋がりのあるギャング、いや、むしろ、ギャングが強盗団なのか。


「お前は、カービージャンクの救世主とか、災いをもたらす殺人者とか呼ばれている。そのダークエイジを見かけたら、ギャングはどうすると思う?」


「……俺を襲うのか」


「そうだ、お前はギャングの敵となる。彼らはお前を倒すために団結するだろう。いいや、そもそもギャングの抗争が全て仕組まれていたとしたら?」


「……まさか」


「ギャングの抗争も、全てダークエイジを殺すために仕掛けられた罠だとしたら、大変だな」


 ふざけるな、奴はギャングをも利用しているのか。何よりも俺はハメられた、というよりギャングごと騙された。面倒なことになったな、クソ野郎。


「ゴブリンの軍隊で襲っても良かったが、それではゴブリンが無駄になる。モンスターは今や貴重だ、それならギャングの闘争心に細工するしかない。人間なんてもはや、使い捨ての道具だ」


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