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第41話 街を救った英雄

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「逃げろ逃げろ」

「もうダメだ!」

「諦めるな!」


 向こうからは大量の人が走りながら逃げてきている、肝心の巨人はというと……口を血まみれにしながら暴れていた。くそ、コイツは上級モンスターの中でも特別な個体か。人間を襲うだけでなく、食い散らかす方の、特殊個体。


「東の巨人は倒した、早く逃げろ!」


 それだけ言ってから、西の巨人の方へ向かう。30mもあるんだ、少し暴れるだけで甚大な被害をもたらす。それにコイツは特殊個体、人を明確に食べ物だと思っている。剣の切れ味も落ちてきている、だから早めに倒しておかないと。


 くそ、怪我だってまだ治りきってないのに。それでも、戦うしかない。討伐者のはずのクロガは、今ではモンスターを従えるようになった。この騒動だって、モンスターじゃなく奴らの仕業だ。こんなの、いつまで続けるつもりなんだ。世界を完全に掌握するまでか、それはいつなんだ?


 サラサラッ


 巨人の眼球を思いっきり突き刺すのには、それなりに耐えられる硬い剣が必要だ。しかし今持っている剣はもう壊れそう、これだと目に突き刺すことはできても、奥の心臓部分まで通るか分からない。弱点があるのは片目ではなく両目だから、どちらもちゃんと刺さないといけない。


「借りるぞ」


「えっ」


 俺は警察官の腰に差してあったナイフを借りて、巨人の元へ走る。これでナイフが2本、対モンスター用ではないがいけるはずだ。


「うおおおおおおおおお!!」


 俺は声を荒らげながら、血を垂らす巨人の足に剣を突き刺す。そしてそれをすぐに抜いて、体勢が崩れたところで今度は耳に突き刺して、巨人の平衡感覚を失わせる。最後に、腰に差しておいたナイフを取り出し、倒れた巨人の目に思いっきり突き刺す。


 ブチュ……ブチュブチュ


 しかし力が足りないのか、対モンスター用ではないからか、一向に上手く刺さらない。両手で必死に押しても、力が反発して跳ね返される。


 足元には血まみれの口がある、だから急いで倒さないと、このままだと俺も食われてしまう。くそ、早く、早く、早く、早く、早く、うおおおおおお!!


 ブチッ!!


 ブシャアアアア!!


 はあ、はあ、はあ、何とか上手くいったようだ。両目にナイフを刺された巨人は、そのまま息を引き取った。これで、カービージャンクの平和を脅かす奴らは居なくなった。まだ完治してないというのに走り回ったからか、腰がとても痛い。何なら背中の傷は開いたようにも思える。


 俺は巨人の目からナイフを抜き、先端にべったりと付いた血を布で拭う。そして、巨人の遺体に手を合わせる。人を食うモンスターなんていくらでもいる、けれども人を食う巨人なんてあまり聞いたことがない。


 上級モンスターかつ特殊個体というわけか、いや、そもそもコイツらは奴らによって操られていた存在だ。モンスターなのに、洗脳によって軍隊と化していた。コイツらもまた兵器として、カービージャンクを襲ったのだろう。


 ひとまず、巨人の襲撃は終わった。


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「まさか、巨人を討伐したのか、それもひとりで」

「彼はこの街を救ってくれた」

「ありがとう、討伐者さん」


 巨人の血にまみれた俺は、カービージャンク中の市民から祝福された。カービージャンクに三方向から迫っていた巨人は全て、俺の手によって死んでいった。そして市民は、その活躍っぷりを目で見ていた。


「ありがとう」

「ありがとさん!」

「本当に、ありがとうございます」


 さっきの広場で体を休めていたところ、多くの市民が俺に声をかけてきた。感謝の言葉だ、最近は貰ったことがなかったな。普段なら早急にこの場から立ち去るところだが、今はとてもそんな気分じゃない。それに、感謝されるのは良いことだ。


「討伐者さんがたまたまこの街に来てくれて良かったよ、おかげでカービージャンクは救われた」


「とんでもない、皆さんが無事でよかった」


 顔を隠していても何も言われない。まずウォーリアーズが顔を隠していたし、それに街を救った英雄に失礼なことは聞けないんだろう。それでいい。


「あの、貴方の名前は何ですか?」


「……名乗るほどの者ではありません。しかし、あえて言うとしたら、俺の名前はブレイク・カーディフ。この街に手を出したら、俺が許さない」


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「この街に手を出したら、俺が許さない……か。彼もまた挑発的なコメントを残したね」


「……」


「それで、君はブレイクが生きていたことを知っていたのかい?」


「……知りませんでした。てっきりあの日殺したものだと」


 薄暗い倉庫で、少女と青年が2人きりで話している。白髪の少女は、背の高い青年の周りをクルクルと回りながら話を続ける。それを青年はじっと見つめるのみ、上下関係からして逆らうことはできないのだろう。


「知らないで済むと思ったか?」


「いえ、この度は私のミスです」


「君のチームの部下に不正がバレた、そういう状況で、何故その場で殺さなかった。君の手で殺していれば、彼も苦しまずに済んだ」


「……戦闘員の同期なので、抵抗され」


「負けるのが怖かったのか?」


 少女は立ち止まり、青年の背後から強い口調で問いかける。その問いに、青年は答えられずに震えるのみ、長い沈黙が流れる。やがて、少女は諦めたのか、やれやれと言わんばかりに首を振りながら口を開く。


「ウォーリアーズのクロガ、いや、今は活動休止中だし、ただのクロガか。君にとっておきのミッションを与えよう。カービージャンクを潰せなかった君に、尻拭いのチャンスだ」


「……ありがとうございます」


「その前に、君にも力が必要だ。ブレイク・カーディフ、ハード・ブランドン、ダークエイジ。あの街には脅威が複数人存在している。彼らを殲滅するには、何が必要だ?」


「……力、ということでしょうか?」


「そうだ。君に必要なのは力と進化だ。ブレイクの暗殺を戦闘員に任せたのが君の失敗だった、だから今度は君自身の手で、ブレイクを殺せ」


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