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第145話 英雄と罪人

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「さっき、夢を見た」


 そこから俺は、石の話をした。胸の中に眠る石について、知っていることを全て話した。いや、この世界が一度破壊されたことだけは言えなかった。ダークエイジとボルト、ハードが以前の世界では仲間だったことだけは、どうしても言えなかった。


 俺が、その荒唐無稽な夢の話を仲間たちに打ち明けた時の、彼らの反応は、俺の予想とは全く違うものだった。


 ハードが、一番最初に声を上げた。


「その剣が本当に作れるというのなら、私のこのペンで世界中の人々の心を動かしてみたいものだ。希望を、決して捨てるな……ダークエイジに希望を託せ、生きようとする力を貸してくれ、と。私が、世界中に呼びかけてみようか」


 彼の瞳は、本気だった。記者として言葉の力を誰よりも信じている、彼の魂の叫びだった。


 次にボルトが、腕を組みながら言った。


「非科学的だが、お前たちの存在そのものが、常識を遥かに超えている。可能性があるというのなら、それに賭けよう。国際治安維持組織に声をかけて、ハードの記事をより遠くに届ける。いや……無線通信も可能だ、エネルギーをどう集めるかは知らないが、呼びかけることくらいはできる」


 彼の言葉にもまた、迷いはなかった。法と秩序の番人である彼が、常識を超えた奇跡に、全てを懸けようとしていた。そして最後に、クロガが壁に寄りかかったまま、鼻で笑った。


「おとぎ話みたいで、反吐が出る。しかも全人類の希望のエネルギーをこいつに託すなんて、無謀だ」


 彼は、そう吐き捨てた。しかし、その口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


「だが、アポカリプスを確実に倒せるというのなら、それで今度こそ世界を救えるというのなら、どんな馬鹿げた話にも付き合ってやるさ」


 その、立場も考え方も全く違う四人の間に、奇妙で、そして何よりも確かな結束が、静かに生まれていた。俺たちは、その日から数日間、アポカリプスをこのカービージャンクで迎え撃つための、壮大な作戦を練り始めた。


 数日という時間は瞬く間に過ぎ去った。ハードのペンは休むことなく走り続け、ボルトは世界中にその記事を拡散させる準備を整えた。俺とクロガは、ハードの家で傷を癒しながらも、来るべき決戦に向けて互いの感覚を研ぎ澄ませていた。


 そして、運命の日は唐突に訪れた。


 カービージャンクの上空に、巨大な雷雲が渦を巻き始めたのだ。街には警笛が鳴り響いた。人々はボルトの指示に従いシェルターへと避難を開始する。だが、その多くはただ怯えて隠れるだけではなかった。彼らは、固唾をのみながら空を見上げていた。


 ハードの言葉が、彼らの心に小さな希望の火を、灯していたからだ。やがて、雷雲からアポカリプスが神のように降臨する。


 戦いの舞台は、ハードたちが市民を避難させた、街と森の間にある広大な平原。未来から来た絶望の王は、静かに地上に降り立った。


 その瞬間だった。


 周囲の森の木々から無数の極太のワイヤーが、まるで巨大な蜘蛛の巣のように、一斉に奴めがけて発射された。ボルトが街の防衛隊と協力し、総力を挙げて仕掛けた、モンスター用の巨大な罠の応用だ。


「……小細工を」


 アポカリプスは鼻で笑い、その身から放つ念動力で、ワイヤーを容易く弾き飛ばす。だが、その一瞬で奴の注意が罠に向けられただけで、俺たちにとっては十分だった。


「今だッ!」


 物陰から、白銀と黄金の二つの閃光が、弾丸のように飛び出した。休息と仲間との再会による精神的な高揚が、俺たちの力をわずかながら回復させていたのだ。白銀の槍ハンニバルを構えたクロガと、黄金の槍バルカを構えた俺。


 カキンッ!


 二人の連携は、かつてないほどに洗練されていた。俺が正面から黄金の槍で陽動し、奴の剣筋を読んで見せる。その僅かな隙を突き、クロガが白銀の槍で死角からアポカリプスの体勢を崩しにかかる。


「……ほう、懐かしい戦い方だな」


 アポカリプスは光雷の剣バエティスで、俺たちの猛攻を巧みに捌いていく。奴の動きには、一切の無駄がない。未来の俺は、俺とクロガの戦い方を全て知り尽くしているのだ。


 だが、俺たちもまた奴の動きを読んでいた。奴が俺自身であるという事実が、絶望であると同時に、唯一の勝機にもなっていた。そして、遂にその瞬間が訪れる。


 ガキンッ!


 クロガの放った渾身の一撃が、アポカリプスの仮面を大きく弾き飛ばした。


 ザクッ!!


 そして、間髪入れずに放たれた俺の黄金の槍の先が、奴の頬を切り裂いた。


 初めて受けた有効打。


 アポカリプスの頬から一筋の血が流れた。それに指でそっと触れた奴は、底知れない怒りをその瞳に宿した。


「……面白い。面白いぞ過去の俺。手加減は、やめだ。貴様らには、真の絶望を与えてやる」


 次の瞬間、アポカリプスの体から、世界そのものが悲鳴を上げるほどのエネルギーが爆発した。


 ドンッ!!


 俺とクロガは、その圧倒的な力の前に抵抗する間もなく、木の葉のように吹き飛ばされた。俺たちが手にしていた槍は凄まじい衝撃で無残にへし折られ、その神々しい輝きを完全に失ってしまった。


 もはや、神雷の槍に合体させることもできない。


 俺たちは、再びボロボロになって地面に倒れ伏した。勝負はたった一瞬で決してしまったかのように見えた。アポカリプスの力は、俺たちの想像を遥かに超えていたのだ。


 だが、俺たちは諦めなかった。

 その時だった。


 ウオオオオオオオオ!!


 突然、街の方から、地鳴りのような音が聞こえてきた。爆発音でも、モンスターの咆哮でもない。それは何百、何千という人々の声が一つになった巨大なうねりだった。


 なんと騒ぎを聞きつけ、シェルターから飛び出してきたカービージャンクの市民たちが、平原の端まで集まり、絶望的な戦いを繰り広げる俺たちの姿を、その目に焼き付けていたのだ。


 彼らは知っていた。フードの男が、かつて自分たちを救ったダークエイジであることを。そしてその隣で戦う男が、世界を裏切った大罪人クロガであることも。全て、ハードの新聞記事やボルトの組織からの情報で知らされていた。


 しかし、彼らの目に映っていたのは英雄と罪人ではない。ただ抗いようのない脅威から自分たちの街を、自分たちの未来を守ろうとボロボロになりながらも必死に立ち向かう、二人の男の姿だった。


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