第119話 未来はどんな世界?
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バンッ!
奴は思惑通り、開いた扉を狙って撃っていた。しかし、扉を越えてすぐに宙返りした俺には当たらなかった。
「何ッ!?」
俺は空中で体を回転させながらも、匂いで奴の位置を特定し、耳から遠ざけたところでハンドガンを撃つ。
バンッ!
それは奴の前転に避けられたものの、視界を邪魔するほどの害は見られなかった。コロネの声もかすかに聞こえるし、どこに何があるかは聴力由来の空間把握能力ではなく嗅覚で分かる。
同時に地面に着地したコロネと俺は、またハンドガンをお互いに構える。すると、異変に気づいたコロネが話しかけてきた。
「耳栓って、耳が痛いの? それとも、発砲音が怖くなっちゃった?」
「発砲音が怖く感じるような奴に負けたら、それこそ怖いよな」
「ふん、言えてるね」
そうしてお互いに発砲し、お互いに弾を左右に避けた。右手に持ったハンドガンから発射された弾を避けながら、俺とコロネは戦う。周りに人はおり、彼らは発砲音を聞いて逃げ惑っている。その中、俺たちはお構い無しにと戦いを続けていた。
近づきながら撃ち合い、近づき過ぎた場合には拳を交える。至近距離で撃たれないようにするためにも、お互いにあらゆる角度で警戒しながら戦っている。その様子がどこか、戦闘員時代を思い出させた。
「フンッ!」
アジトの近くの路地裏で、障害物に隠れながらお互いに撃ち合う。奴の足元に向けて撃った弾は外れた、それを見た奴は俺の右手に向けて撃つも俺が避ける。奴は俺を路地裏の奥へと追い詰めるように、近づきながら撃ってきた。
「ねえ、ブレイク。このままだとモンタージュの奴らが来る。邪魔者が入る前に、そこ入らない?」
コロネは俺の二つ前にある障害物に身を潜めている。そこというのは、路地裏の先にある古びた廃墟のことだ。ここに人はいない、しかし路地裏で戦えばいずれモンタージュの奴らが来る。なるほどな、良い提案をするじゃないか。
「ああ、分かった。いつものところだな」
俺は障害物を蹴って後転しながらも立ち上がり、そこから飛び跳ねて上に向かった。奴はそんな階段を上る俺を、紛うことなき真剣な目で容赦なく撃ち付ける。
ウォーリアーズのアジトの近くにあり、廃墟で誰も来ない場所、だから俺たちはここを訓練する場所にしていた。森まで行くのは遠いし、ここなら少し大きな声を出しても苦情は来ない。
こんなところにある廃墟が壊されなかったのは、ウォーリアーズの訓練場所だったのもある。恐らくだが、クロガかラーズが根回ししていたんだろう。
俺はいつもの大きな訓練場に向かうと見せかけて、階段の裏でこっそりと待機する。そしてナイフを取り出し、代わりに弾を抜いたハンドガンを左手で持つ。
「ブレイク、いるの分かってるよ」
階段を上ってきた奴は、裏に潜んでいた俺に向けてハンドガンを撃ってきた。気づかれていたか、俺はすぐに壁を蹴って避け、左手に持ったハンドガンを奴の右手に向かって投げる。
「うわっ!」
俺の投げたハンドガンは見事命中し、奴は構えていた自分のハンドガンを落とした。しかし空中で俺の投げたハンドガンをキャッチし、すぐに撃とうとしてきたが……それは無意味だ。
カチャッ
そのハンドガンからは弾を抜いておいた、動体視力のいいお前なら空中で俺の投げたハンドガンを手にすると思って、遠距離武器のハンドガンをあえて失ってでもその攻撃にかけた。
「へえ、捨て身作戦とはね」
コロネのハンドガンは階段の隙間から1階へ落ちていった。そして俺のハンドガンは奴の手にあるものの、奴は替えの弾を持っていないのか装填することはない。代わりに奴はナイフを取り出し、背中を向けずにゆっくりと廊下の方へ歩いていった。
「ナイフで私に挑むなんて無謀だよ」
俺もナイフを構えたまま、ゆっくりと奴を睨んで近づいていく。耳栓を外し、更に感覚を研ぎ澄ませると、奴は俺の変化に気づいた。
「やっぱり、発砲音が苦手になったんだ。トラウマ?」
発砲音を聞きたくないから耳栓をしている、理由は当たっていないがそこを感じ取られたのは意外だな、流石は観察力の高いコロネだ。お互いに低い姿勢でナイフを構えながら、お互いにゆっくりと近づいていく。
「フウッ!」
「フワッ!」
こうしてお互いに声を出しながら、一気に近づいてナイフを交える。奴の突きを避けながら、俺は奴の腹にナイフを差し込む。しかしそれも避けられ、奴は下から蹴りを入れてくる。
ガシッ!
俺は蹴りを足で受け止め、衝撃を分散するように飛び跳ねて後ろを取るも、奴の反射神経で避けられ、右手を蹴られた。
ガチャッ
俺の持っていたナイフは地面に落ち、奴によって拾い上げられた。これで奴は二刀流となった、これは明らかに分が悪いぞ。奴は2本のナイフを連発して襲いかかってくるが、俺はあえて受け止めて、そのナイフを持った左手首に絞め技をかける。
右のナイフは奴の手首ごと踏みつけて動かなくさせる、すると奴は声を上げながら頭に頭突きをしてきた。
ガツンッ!
衝撃の強い頭突きで俺は後退した。そこを見抜いて奴はすぐに突進してくるも、俺はあえて下に避け、後転する要領で突進してくる奴の体を力いっぱいに蹴り飛ばした。
ドンッ!
力強く天井に叩きつけられた奴は、後頭部を打ち付けたからかフラフラとし、そのまま倒れた。
「あっ、ああ」
後転の勢いのままに俺は立ち上がり、壁を蹴って勢いづけながら倒れた奴に迫り、気道を踏んで押さえつける。
「た、たすけて」
ナイフで反撃しようとする意志が見えたため、俺は奴の両手を捻り、ナイフを離させる。そして奴の腰のベルトからハンドガンを奪い取り、弾を入れる。
疲れ果て、その上で手首を捻られた奴は苦しんでおり、抵抗の意志を見せない。俺は首から足を外し、ハンドガンを構えた。すると奴はケホケホと咳き込みながらも、ニヤリと笑う。
「何がおかしい」
「発砲音が怖いんでしょ、ハンドガンなんて使えないよ。戦闘員を辞めたのも、そのトラウマ?」
「クロガのこと、聞いてないのか?」
「知ってるよ、でもブレイクが戦闘員を辞めた理由にはならない。こんなに動けるのに何で戦闘員を辞めたんだろうね、って気になっててね。発砲音がトラウマなら、そりゃ辞めるよね」
コロネはどうやら、大きな勘違いをしているようだった。俺が戦闘員を辞めた理由は、クロガに着いていくためと、戦闘員という職業があまり好きではなくなったからだ。というか、発砲音がトラウマなら、ハンドガンで戦わないだろ。
今の彼らはまだモンスターとの合成実験を受けていないし、レスドラド計画も全てを聞かされてはいないはず。
だから人智を超えた生命体の存在や、この不思議な能力もきっと理解できないだろう。俺はゆっくりとハンドガンを彼女の額に近づけていく。
「ひとつ教えておこう。俺は、未来から来た。俺は追放されたあと、ある能力を手に入れてな。色々あって過去に戻ってきたわけだ」
「へえ、ついに頭がおかしくなったんだね」
「未来のお前たちは強かった、というより人体実験を受けて強くなっていた。まあ、どちらかと言えば今日の方が強かった」
「ふーん、どっちが楽しかった?」
「……今日だ」
「あーそうなんだ、未来はどんな世界?」
「荒廃していた。世界は滅亡寸前だった」
「うん、まあ信じられないけど、信じてみることにするよ」
そうして俺は引き金を引いた。同時に視界が真っ黒となり、何も見えなくなった。
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