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第118話 俺は強い

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「でも、勝つ自信ならある」


 歯を食いしばった表情でそう言うと、コロネは驚いた表情で返してきた。


「えっ、ここから?」


「俺はお前らに勝つ、俺は強い、俺は強いんだ!」


「すごっ、根拠のない自信じゃん!」


 蚊帳の外のように、ひとりだけ戦闘にも参加せず何もしていないコロネは、そんな俺の発言に驚愕していた。


「当たり前だ、俺は強い!」


「ならば、俺に勝ってみろ!」


 そうしてパニッシュは突進してきた。この間に腕は回復させておいたぞ、無策で喋ってる訳がないからな。俺は両腕を地面につけ、そこから思いっきり立ち上がった。


「おおっ!」


 ハルートの足の拘束を解いて、俺は倒立をし、そのまま勢いよく前転して着地した。そしてそのまま、ノールックで勢いよく、後ろへと飛び跳ねる。


 ドンッ!


 後ろにいたハルートに、俺は後頭部で頭突きをし、壁に押し付けた。奴はハンドガンを右手に持ち、撃とうとするも、引き金に俺が指を入れているため、撃てないでいる。


 そしてハルートを壁に押し付けたまま、後頭部で避けられない頭突きをしながら、左に移動する。奴はその頭突きの衝撃から逃げられない、頭を前にぶつけては後ろにぶつけ、ハンドガンを撃とうにも、指が邪魔で撃てなくなっている。


 流石に状況を見たコロネが参戦しようとハンドガンを構えたのを確認して、俺は部屋の角からハルートを前に持っていき、盾にした。ハルートの持っているハンドガンから弾を全部抜き取り、無理やり奪い取ってから、手でグリップを握る。


「私はいいから撃って!」


 弾のないハンドガンをどう扱うか、答えは簡単だ。


 ドゴッ!


 ハンドガンの固い金属の部分で、俺はハルートの顔面を殴りつけた。ただの拳で殴るよりも、こうして拳に金属を装着した方が威力が上がる。ナックルダスターと同じような原理だ。


 ブシャッ!


 俺のコスチュームはハルートの返り血によって染まっていく。その上でハルートを盾にしているために、コロネはハンドガンを撃てない。


「よくも!」


 怒りに満ちた顔で突進してきたパニッシュの顔面に、そのハンドガンを投げつけるも、奴は避けて俺の首を掴んできた。しかし、俺はあえて壁際に行って、奴の体の重心をグッとこちら側に持ってきた。


「うおっ!」


 バランスを崩した奴は体重移動を上手くできずに、俺の方へと転がり込んできた。今がチャンスだ、そう言わんばかりに俺は奴の股間に膝を強く入れる。


 ボスッ!


 股間を蹴り上げる音は意外にも軽かった。いわば男の弱点を集中的に蹴り上げられた奴は、股間を押さえながら悶絶している。この痛み、他の奴らには分からないだろうな。


 ボスッ!


 ブチッ!


 俺はバランスを崩した奴の股間に向けて、更に膝を入れていく。奴の威勢は無くなっていき、徐々に衰えていくのが分かった。以前、ブラッドリーとなった奴を倒した時、俺は奴の目を狙った。


「ぐ、ぐふふふ」


 しかし、目を狙う必要は無かったみたいだ。奴は股間を数発蹴られただけでとても苦しんでいる。その上で泡を吹いているのか、奴の口元は汚れている。


 バタン!


 派手な音を立てて、パニッシュは地面に倒れた。その様子を見たコロネは静かにハンドガンに弾を装填していた。俺もその音を聞いて、こっそり弾を確認する。


「随分派手にやってくれたね」


「それが俺の仕事だからな」


「ウォーリアーズも結局は戦闘員の集団、だから成績が良かったの。ブレイクは、気づくのが遅かった」


 そうしてコロネはハンドガンを構えた。そうだな、ウォーリアーズが討伐パーティーの中で優秀だったのは、討伐パーティーの数が減っていたことと、戦闘員で元から戦闘力が高かったことが要因となっている。


 いま考えれば違和感だらけだが、当時は気づかなかったし3人も気づかせなかった。だからこそ、この場で終わらせてやる。


「言ったはずだし、見せたはずだ。俺は強いぞ」


 俺もコロネと同じようにハンドガンを構えるも、引き金に指をかけることはできなかった。


「そうね、でもさっきより明らかに弱くなっている。ラーズ様にお会いして、発砲音が聞こえてから」


 コロネは観察力の高い人間だ、これでモンスターの弱点も全て見極めてきた。やっぱり、見抜かれていたか、力が失われたのを。


「引き金に指もかかってない、もしかして、ハンドガン触るの怖い?」


「そんな訳がないだろ」


 俺は奴の煽りを受けながらも、指を引き金にかける。奴はそんな俺を見て少し微笑みながら、ゆっくりと扉に近づいていく。


「ブレイクとこんな形で戦えるなんてね、ワクワクしてきたよ」


「……ああ、俺もだ」


 そうして奴は引き金を強く引いた。同時に俺もハンドガンを撃つ。


 バンッ!


 すると、撃つと同時に耳鳴りが起き、俺の視界は真っ白になった。まずい、やっぱりこの時間軸だとハンドガンは使えないか!


 俺は何も視認できない中で壁を蹴り、勢いづけてキッチンに潜り込む。少しすると視界が晴れてきて、どこに何があるのかが分かるようになった。コロネはどうやら、扉を開けてアジトの外へ逃げたようだ。


 俺がハンドガンを使えなくなった理由、それは発砲音にあるだろう。耳の近くで大きく鳴り響く発砲音は、繊細で感度のいい耳を傷つける。それで空間把握能力が害され、何も見えなくなったと推測できる。つまり、今の俺に鉄砲の類いは使えない。


 ショットガンをなるべく耳から離して撃つくらいか、しかしここにショットガンに装着できるサプレッサーは無い。前に能力を手にしてから倉庫で撃った時は、恐らくサプレッサーが着いていた。今はそれがないから、ハンドガンを使うことはできない。


「なんだ、これ」


 と、その時。俺はある耳栓を見つけた。これは射撃の際に耳への害を抑えるために装置される物だ。一般人ならこれを付ければ解決するが、俺には意味がない。そう考えながら付けてみると、やっぱり視界が悪くなった。


 だが、どこか集中できる。真っ暗闇で、何も音が聞こえない空間だが、地面を踏んだ感触は直に伝わってくる。情報を遮断した戦いは経験済みだ、それも相手はアテナ、コロネとハルートを組み合わせた化け物だった。


 あの時は耳も聞こえにくかったし、感触もほぼ無かった。でも、魔王のおかげで倒せた。今は魔王がいない、しかし奴を倒すには……この方法しかない。俺は耳栓を付けたままハンドガンに弾を装填し、ゆっくりと立ち上がった。


 耳栓をしている状態でも、奴の匂いから奴がアジトの外にある階段を降りたことが分かる。そして今、閉められた扉に向けてハンドガンを構えていることも分かる。


 俺は扉に手をかけ、強く踏ん張る。そして深呼吸をし、思いっきり扉を開けると同時に宙返りをする。


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