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第110話 魔王の復活

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「トドメを刃を避けられるとはね」


 奴は悔しがっていた、何故なら盲目の俺が飛んできたナイフを避けたから。表情は見えなくても、口調で感情は何となく分かる。


「そんな悪足掻きしたって無駄だよ、ほら、早くロナとリリーのいる世界に行こう」


「名前を出すな」


「へえ、怒らせちゃった?」


「ずっと怒っているだろ見えねえのか!」


 奴はロナとリリーの名前を口にした。それが俺は許せなかった。この行為は、2人を馬鹿にしているんじゃない、俺や彼女らの父親を含めた、みんなを馬鹿にしているんだ。


「てめぇは二度と喋んじゃねぇよ!」


「あらら、怒っちゃったね」


「二度と喋れねぇ体にしてやるよ」


「変態ね、私の体をどうするつもりなの」


「殺すに決まってるだろ!!」


 自分でも分かるくらい、驚くくらいに怒りをあらわにしたその時、耳元でかすかに声が聞こえた。


「集中しろ」


 この声は魔王だ、まさか魔王が能力を使って耳元で教えてくれたのか。この声が聞こえたということは、能力は少しだけ戻っているってことだ。


「さっきのナイフを避けたように、耳をすませて集中すれば必ず勝てる」


 魔王の言葉を信じて、俺は一旦深呼吸をした。体に刺さったナイフを抜くと、次々に粉々になっていく。それは奴が能力を使っているからだ。なるほどな、武器に再利用させてくれないってことか。


「じゃあ、今度は倍増させて行くわ。絶対に避けないでよ」


「上等だ、かかってこい」


 真っ暗な闇を切り裂くナイフからは、かすかにだが金属音と風を切る音が鳴っている。さっきは狙われた部位が耳の近くだったから、音を聞いて避けることができた。


 キュルキュルッ


 だから聞こえる範囲を大きくすればいいんだ、俺は使い物にならない目を閉じて、より暗闇の音に集中する。


「さあ、行くよ!」


 ビュンッ!


 こうして奴はナイフを投げた。金属同士の重なり合う音がかすかに聞こえる、合計15本くらいか。それが一斉に、だから放射状に放たれた。つまりさっきよりは、どこに向かうかが見える気がする。


 ヒュンッ!


 1本目、耳の真横を通るナイフの風切り音が聞こえた。まだだ、いける。真っ暗闇でも、避けられる。


 カキンッ!


 僅かに、1m先から金属の音が聞こえる。よし、見えるぞ、見えないけど見えるぞ。俺は下半身を動かさずに、上半身を回してナイフを避ける。


「えっ?」


「俺の方が上手だ」


 俺は避けたナイフを手に取り、痛みに耐えながら突進する。自分の足音で周囲の状況を確認するために、あえて大きく鳴らす。次は右から来る、そう思ったらすぐに左に避けて、次に左から来る時は右に避ける。


 カンッカンッ!


 ビュンッビュンッ!


 何本同時に来たって構わない、もう見えるようになったから。見えるというか、聞こえるようになったわけでもない、でも反射神経が少しだけ戻ってきた。音が鳴ったらすぐに反対方向に避ければいい、これが攻略のカギだ。


 考えるより先に感じればいい、こういうことか。


「決まった」


 奴の目の前に到達した俺はそう呟き、手に持っていた刃を振り下ろす。しかし、それも奴の能力によって粉々になった。


「カッコつけちゃって」


「それはどうかな?」


 俺はすぐさま右に転がり、魔王の手を取る。すると、魔王の手から強い熱を感じ取れた。


「何をしているの?」


「見たら分かるだろ」


「なに? ただの握手が?」


「違う、復活だ」


 俺は魔王から、前に預けた石を受け取った。その瞬間、体が強くみなぎった。エネルギーが全身を光のように走っていく、そんな感覚に襲われた。相変わらずとして周りは見えないし、感じ取ることもできない。それでも、力は少しだけ戻ってきたようだ。


「戦おうぜ」


 俺はすぐさま奴に飛びかかり、拳を振るう。奴は攻撃を防ぐために刃を作り出すも、勢いに負けた。


 パリンッ!


「何っ!」


 勢いよく振り出された拳によって、奴の作ったナイフは粉々になった。続けて、俺は奴の顔面を強く殴りつける。


 ドゴッ!


「……なんなのよ」


 たった一撃で、奴は死に際まで追い詰められていた。少しだけ奴の呼吸音が聞こえるようになったが、これは死にかけている証拠だ。サイクロップスの中に入った人間を救うために魔王に石を預けていたが、それを取り戻しておいてよかったな。


 しかしその石は、魔王のガワの老人の延命装置でもあった。早く返さないと、魔王はこのまま死んでしまう。


「次こそは容赦しないよ」


 奴はとても鋭くて長い槍と、細かいナイフを作り出した。そして鋭い槍を俺の方めがけて真っ直ぐ投げてきた。


 ヒュンッ!


 しかし、今はさっきまでの俺じゃない。少しずつ空間を掴めるようになった俺は、槍がどこにあるかとか、刃をどこに隠したかとかを理解できるようになっていた。


「そこだ!」


 俺は放たれて空中にある槍をキャッチし、それを構える。この光景を見たアテナは、ポケットに隠していた刃を取り出した。やっぱり、焦っているんだな。


「あんたじゃ分が悪いわ、先に魔王を殺さないと」


 そうして奴は魔王に向かって刃を投げた。まずい、ここから行っても間に合わない。そう思いつつも魔王に向かって走り出した時、魔王は静かに囁いた。


「槍で奴を突き刺せ」


 そして次の瞬間、地面に横たわっていたはずの魔王は飛んできた刃を見ずに掴んだ。高速で投げられた刃をキャッチするなんて、流石、魔王だな。


「終わりだ」


 魔王がキャッチした刃を投げ返すと、奴は驚いたのか能力を咄嗟に使えず、そのまま刃は奴の手のひらに深く刺さった。これはチャンスだ、俺は魔王の言葉通りに槍を構えたまま飛び跳ね、奴の心臓めがけて思いっきり投げた。


「や、やめて!」


 ブシャッ!


 手のひらを怪我して能力を上手く使えなくなったアテナの心臓には、アテナの作り出した刃が深く突き刺さっていた。続けて俺は能力でナックルダスターを作り、傷ついた奴の顔面を更に傷つける。


「ぎゃあああああああああ!!」


 コロネとハルートを組み合わせたであろう顔面は、ボロボロになっていく。縫い目もはがされ、血とともにヌメヌメとした液体が噴き出している。無理やり2人を合成したラーズは、とても悪趣味だったんだろうな。


「ここで死なれては困る、トドメは外でやれ」


「ああ、分かった」


 魔王の忠告通りに、俺は汗と謎の液体でビチャビチャになったアテナを引っ張り出し、誰もいない外で殴りつける。


「やめて、やめて、やめて!!」


「ああ、死んだらやめてやる」


「わかった、死んだ死んだ死んだ!」


「喋ってるから死んでねえよ!!」


 俺はナックルダスターの刃を出したまま、ゆっくりと奴の目に近づけていく。


「最期の言葉は?」


 アテナは死に際にも関わらず、ニヤッと煽るような口調で返事をした。


「地獄に落ちろ、ブレイク」


 ブチャッ……!!


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