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第11話 綺麗な目

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「……ここは?」


 俺は、とある場所で目が覚めた。聴力は戻っており、空間を触らずに把握する能力も使えるようになっていた。俺が寝ているのはフカフカなベッドで、ここは二階建ての建物の二階、部屋には俺だけしかいない。少なくとも、宿ではない。扉の向こうに何人かいるのは分かるが、彼らの声は聞こえない。


 さっきのは何だったんだ。耳がおかしくなって、体の震えが止まらなくなった。今は何とか治ったものの、時々重低音が耳の中で響く時がある。さっきみたいなことがあったら、今は通行人に突き飛ばされるくらいで済んだけど、もしも戦っている時に発症していたら……死んでいた。


 謎の耳鳴りは、さっきのようにストレスを強く感じた時に発症することが分かった。現に、ここは安全な場所で、ここではストレスを感じていないからか耳鳴りは起こらない。多分、扉の向こうにいる何人かの団体が助けてくれたんだろう。誰かは分からないし見えないが。特に危険も感じられない。


 ベッドから立ち上がり、体を触って傷を確認する。うん、大丈夫、突き飛ばされたくらいで、特に外傷は無い。このまま部屋の外に出ようと思ったが、誰かが部屋の扉に近づいてきた。良かった、人の足音は聞こえる。俺はすぐさまベッドに戻り、横になった。


「……大丈夫ですか?」


 ここで、とある女性が部屋に入ってきた。身長は俺より少し低いくらいか、というのも彼女の情報はほとんど分からない。情報なんてものは大体見た目に収められている。髪型だとか髪色だとか表情だとかは、全部見た目に関すること。俺が分かるのは、大まかな形と声だけ。奴らと戦っていた時はもっと詳しく分かったのにな。


「……何とか」


「良かったぁ……」


 彼女はホッとしたのか笑みを浮かべ、拳を握りしめた。ガッツポーズをしたいんだろう、感情がすぐ表に出るタイプなんだろうな、その方が分かりやすくてありがたい。


「……ところで、目どうしたんですか?」


 彼女は俺の目のことを知っているのか……まぁ、んな道のど真ん中で杖を持って震えて倒れていたら、普通の人ではないと思うだろう。杖を持っていたんだから尚更。


「……あっ、答えづらかったら答えなくて大丈夫です! ただお父さんが目に光当てても反応しないって言ってたので……何か別の病気だったら心配なだけなので!」


 そうか、目に光を当てることで見分けられるのか。その時、俺は深い眠りについていたから、光に気づくことが出来なかった。今なら薄らと光が見える。とは言っても何色かは分からない、太陽の光というのは分かるけど。


 普通の人なら何も隠さず「俺はウォーリアーズの一員で、不正を告発したら追放され、その帰りに奴らに雇われた強盗団によって目を切られたけど、不思議な力によって回復して、今は襲われる前よりも強くなった」と言えるだろう。


 しかし、俺は普通の人ではなくなった。ここはマーベラス、ウォーリアーズを知っている人が大半だ。


 もし彼女に本当のことを言えば、噂はあっという間に広まってしまう。不正を告発できたとしても、あっという間に揉み消される。奴らは強盗団を雇っていた。そう簡単に奴らを潰せる訳がない。闇が深い奴らだ、俺が想定している以上に。


「モンスターに襲われた時に、目もイカれました」


「それにしては、随分と綺麗な目をしてますね……」


「……モンスターの体液が目にかかりました。それで目はそのままですが、視力だけを失って」


 彼女は俺を疑っているのか、それすら分からないが、実際に物体の効力を体液で抹消するモンスターがいる。名前は"ドラッグドライア"、人間の何十倍もデカいモンスターで、奴の体液は薬に使われることもある。まぁ、モンスターの体液なんて飲みたくない人がほとんどで、今は売られていない。


「すみません、変なこと聞いてしまって」


 彼女はペコッと軽くお辞儀した後、水を取りに行った。開いた扉から、奥にいる人達の"かたち"が見える。1階に水を取りに行った女性に対して、奥にいる人達は俺のことを不審がっている。小さな声で話し合っているのも見える。多分、彼女の両親だろう。それと、下からインクの匂いが伝わってくる。彼らは何の仕事をしているんだ?


「水、どうぞ」


 俺は彼女から差し出されたコップを受け取り、中に入っている水をゴクゴクと飲み干した。水を飲んで一呼吸おくと、聴力はみるみる回復していった。耳を遮っていた謎の重低音も響かなくなり、奥で話し合っている彼女の両親の話も聞き取れるようになった。


「絶対役所に届けた方がいいわよ」

「そう簡単に取り合ってはくれない」

「厄介事には関わりたくないのに」


 彼らは俺のことを不審がっており、特に母親の方は俺を今すぐ追い出したがっているように聞こえる。


 マーベラスはそれなりに栄えている都市、だからこそ厄介な物には触れたくない。モンスターだって、後処理をするだけで討伐行為には直接関わってこなかった。討伐パーティーとかいう文化が数十年前にはあったと聞いた、でも今はない。誰もモンスターなんかと戦いたくないから。人を襲うモンスターなんていう害獣とは。


 それでいて浮浪者にも厳しい。他の都市とは違い、治安を売りにしている。それで、家も所得もない人々はそのまま放置される。そのまま餓死し、そのまま処理される。「浮浪者は都市が直ちに保護する」なんていう法律もあるが、結局は口だけ。


「見えないふりをしていたらどうするの」

「それはない、彼の目に光を当てた」

「最近は強盗だってねえ……つい最近も酒屋が襲われたでしょ」

「だとしても……こんなボロボロな人を見過ごす訳にはいかないんだ」


 彼女の父親は俺を疑いつつも、助けようとしている。しかし、俺はここにいすぎると彼らに迷惑をかけてしまう。だから……もう帰ろう。


「ありがとうございました。俺はもう大丈夫なんで」


 俺はコップを机に置いて、杖を伸ばしてから立ち上がった。彼女と彼女の父親は止めようとしてきたが、逆に彼女の母親は道を開けた。部屋から出て3人に軽く会釈をしてから、手すりに掴まり階段を降りようとしたところで、彼女の父親がとある言葉を発した。


「……外は危険だ。役所も頼れない、昨夜も八百屋が襲撃された。私も君の遺体を見たくないんだ」


 彼は俺のそばで、昔あった事件を語り始めた。


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