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第107話 負けを認めろ

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 魔王は、サイクロップスに埋め込まれた人たちを助けようとしている。


 俺の分け与えた石の力で、どうにかロナやリリーを助け出そうとしているみたいだ。


「そっちの状況は?」


「まだニュークと戦っています。そちらは、取り戻せそうですか」


「時間はかかる、街の全壊までに終わらせるぞ」


 彼は手こずっているようだ、そりゃそうだ。モンスターにされた人間を元に戻す方法なんて、そもそも人間をモンスターにする方法が分からないんだから、簡単に戻せるわけがない。


 それでも魔王の石の力は絶大で、可能性に溢れている。特にその石をずっと持っていた魔王なら、すぐにでも2人を助けられるだろう。さあ、俺はとにかく、ニュークを倒しておかないと。


「ハハハ、無駄な足掻きはよしてくれよ」


 ニュークはどこかまだ余裕そうにしていた。顔面はえぐれ、ほとんどの関節は動かなくなっているというのに、奴は心臓より先に口を回復させていた。反撃も、煽りのための口を選んだのか。


「無駄な足掻きに見えるか?」


「ああ、とてもだ」


「魔王の石があってもか?」


「ああ、そういうことか。お前も魔王に成り果てたんだな」


 奴は関節を回復させ、無理やり起き上がろうとしていたが、すぐに俺の無意識の拳によって地面に倒れた。


「ラーズの新技術とか何だろうが、俺たちには石がある。でも石を奪おうたって無駄だ、石は俺の中にあるからな」


「ハハハ、石を奪おうなんて短絡的な考えをしてると思いましたか?」


 奴は急に口調を変え、ニヤリと笑う。


「助けを呼ぶのか?」


「いいえ、私に助けなど必要ない」


「なら、負けを認めて降伏するか?」


「いいえ、私に敗北など無意味だ」


 なんだ、奴は。負けを認められないだけの弱者じゃないか。このうちにも魔王は、サイクロップスに足止めをしながらも、中に閉じ込められた人間たちを救おうと必死に戦っていた。


 サイクロップスの中にいる人間を救うには、石の力を上手く作用させる必要がある。つまりラーズの新技術によって、石を上回る力で作られたサイクロップスから人間を解放するには、それ以上に力を、器用に使わないといけない。


「ブレイク、策が見えた」


「……助けられるってことですか?」


「ああ、時間はかかる。ただ街の全壊と同時に、兵士がサイクロップスに対し一斉砲撃をするだろう。それまでに、ケリをつける」


 森の付近にいたアンチャードの兵士らは退避していたが、代わりに奥の方に大量の大砲が配置されてあった。恐らくはカービージャンクの救出を名目に派遣されたのだろう。そして惜しくも間に合わなかった、そういうシナリオにされるだろうな。


 大量に配置された大砲、あれを食らえば流石のサイクロップスでも撃沈する。討伐者がほぼ不要となったのも、納得いく。


 巨人襲撃の時は使われなかった、民間人への被害が及ぶし、あえて隠していたのか。これがあれば、レストラド現象だって終わらせることができるというのに。


 まあ、何だっていい。それまでに間に合わせないとな。俺も、それまでにニュークを倒す。


「おっと、そうはさせませんよ」


 関節を傷つけられ何もできないニュークは、口だけを達者に動かしている。


「その体で、まだ抵抗するつもりか」


「いいえ」


「なら、大人しく死ね」


「死ぬことはできない、私は不死身ですから」


 面倒な奴だ、何をやっても痛みを感じないのか、そして俺を煽りたいのか、何度傷つけてもすぐに口だけを回復させてこう喋ってくる。誰かコイツの口を封じてくれないか、もううんざりだ。


「負けを認めろ、世界に全てを話せ」


「いいえ」


 その返答にイラッときて、俺はまた無意識のうちに拳で奴の顔面を強く殴りつけていた。強化された拳は奴の顔面を深くえぐり取る。


「いいえいいえばっかうるさい、早く死んでくれ」


 しかし、奴はすぐに口元を再生させた。


「ええ、ブレイクさん。貴方がそう願うなら、そうさせてもらいますよ」


 すると突然、奴の体がブルブルと震え始めた。ニュークの体はガクガクと動き、再生しきってない顎が歯茎を突き破った。そして少しずつ、肌から骨が突き出てきた。


「何をしている!」


「何って、この時を待っていたんですよ」


「この時?」


「いま、石の力も分散され、魔王も近くにいない。そして何より、私のエネルギーが全て溜まった。この時を、待っていたんですよ」


 奴の体は震えながらも、体を再生させているのか、シューという音と共に煙が出ていた。焦げ臭い匂いも伝わってくる、何なんだ、エネルギーって。


「私の特殊能力は、不死身的な回復能力だけじゃない。というより、そこが目的じゃない」


「どういうことだ!」


 俺はナイフの刃を拾い、奴の心臓に突き刺した。しかし震える体から起こる熱と煙によって、刃はドロドロに溶けてしまった。


「私の能力、それは……高エネルギーによる爆発だ」


「……まずい!」


 魔王の声が耳元で聴こえると同時に、奴の体は強く光り出した。


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「ここは?」


 起きたらそこは、何もない真っ暗闇だった。


「ようやく目覚めたか」


 この声は、魔王だ。だが、魔王の姿が見えない。彼がどこにいるのか、何も分からない。


「休め、体が傷ついている」


 なんだ、そして何か音がおかしい。いつもより、聞こえにくい。深呼吸をして、周りに何があるのか探ってみるも、何も見えない。


 手足は拘束されているが、感覚からして包帯を巻いているんだろう。そして骨が折れている感覚もある、これを固定するために拘束しているだけか。多分、近くに敵はいない。これは能力じゃなく、感覚で分かる。


「魔王、俺……」


「ニュークは、死んだ」


「じゃあ、何でこんなに怪我を」


「最後まで聞いてくれ」


「……はい」


 そして魔王は、深呼吸してから口を開いた。




「ニュークは、サイクロップスと街を飲み込んで大爆発を起こした。爆発範囲はマックスフュー南部の全域に及ぶレベルだった。そして俺たちは、爆発を至近距離で受けたせいで、感覚を失っている」


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