第102話 街の解放
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次の日、俺たちはカービージャンクに戻った。
街を不法に占拠していたアンチャードの兵士らは、ダークエイジによって全員殺された。そのためか、街の市民たちはダークエイジのことをヒーローだと認識している。
今まではダークエイジのことを私刑執行人だとか、犯罪者だとか批判していて、ダークエイジ不要論を唱える人が多かったのに、今ではみんながダークエイジを求めている。これは、あまり良くないことだと思う。
俺は最初、手に入れた力を役に立てたくて、それで悪人を殴っていた。その時は追放された時の記憶をショックで失っていたから、まだ正当な理由ではあった。しかしその後、記憶を思い出してからは、俺は復讐のために動いている。
たまたまハードやヒルデヨ部長の目的と、俺の目的が一致しているだけで、俺は最初から復讐のためにしか動いていなかった。だから街の人に批判されようが、どうでもよかった。
奴らは街の子供を誘拐したり、市民に危害を加えていた。だから俺は夜を駆けて、悪人を殴っていた。例え犯人が組織とは関係ないギャングだとしても、結果がたまたまそうだっただけで、それは関係ないことだった。
色々あって、今、市民はダークエイジしか頼れない状況になっている。モンタージュは力が足りておらず、都市は街を裏切った。アンチャードは対ダークエイジの軍隊だったはずだが、市民に対して無差別射撃を行っていた。
つまり、世も末ってわけだ。
少なくとも、この現状は外には漏れていない。ヒルデヨ部長が計画的に、外に情報を漏らしているものの、世間はレスドラド現象の対応に追われており、誰も噂程度の話なんて聞いてくれやしない。
「お集まりいただき、誠にありがとうございます。まずはダークエイジ御一行に、お礼が言いたい」
昼過ぎ、ヒルデヨ部長はトライデンの塔の守衛室に関係者を集めて、現状を報告し合う会を設けた。ここにはヌヤミやハード、カグタはもちろんのこと、治療中のボルトもいる。俺はコスチュームを着たまま、腕を組んで部屋の隅にいる。
「とんでもない、俺たちは何もできてない。全てダークエイジが単独でやったことだ。まったく、街を解放するなら俺たちにも言ってほしいもんだ」
カグタは情報を伝えずに街を解放した俺に文句があるようで、その発する言葉や態度全てにそれが出ている。反論したかったが、流石に周りに人が大勢いたため、無言を貫く。
「まあ、さておき、街には平和が戻りましたが、全世界でレスドラド現象という、撹乱したモンスターが都市を襲う現象が起きており、我々が世界に発信した情報は全て無視されています。が、どうやら、これも全て組織の計画なんですね」
ヒルデヨ部長は新聞を何体か取り出し、机の上に並べた。インクの凹凸から読み取るに、各地で起きているレスドラド現象の出来事が書かれている記事なんだろう。
俺は机の方へ行きながら、答える。
「そうだ、レスドラド計画、あれは現象ではなくラーズやマクガフィンの狙ったものだ。カグタやヌヤミの娘は組織に捕らえられ、モンスターを動かす動力源にされている。奴らはあれで他国を侵略し、特にラーズは、そのまま世界を滅ぼすつもりだ」
話を省略しつつも、俺は彼らに伝える。全生命体をワンにするとか言っていたが、そんなの生命体の絶滅といっても過言ではない。
「どうやら、このままでは世界は滅びるらしいです。各国に情報を漏らしているが、彼らは対応に追われていて、情報を受け入れてくれません。前に捕らえた兵士を国際裁判所に送りましたが、続報は特に何もありません」
やっぱりな、国際裁判所なんてものがあるらしいが、非常事態中に罪を裁くなんてことはできない。まずはモンスターの駆除が最優先事項だ。
「ですが、各国の侵略は収まっているようです。都市は既に陥落していますが、どうやら何者かがモンスターの討伐を手助けしているそうです」
何者か、これは恐らく魔王のことだろう。彼は世界中を飛び回って、モンスターに襲われている市民を助けていると言っていた。
他の国にモンスターが出現することはほぼない、だから討伐パーティーという文化はもう既に廃れている。パーティー制度があるのはこの国、特にマーベラスくらいだ。
「我々はこの情報を上手く、海外に伝えましょう。組織の連中も、予期せぬ救世主に対応を追われているでしょうし、街の復興も考えないといけませ――」
と、その時、急に地面が激しく揺れ出した。
「じ、地震か!」
そこにいた全員が転倒するほどに、とても激しく揺れている。ゴゴゴ、ゴゴゴと山が揺れ、ジリジリと木々の鋭い枝の重なり合う音が聞こえる。俺は棚に掴まろうとするも、その棚は一瞬にして分解され、粉々になっていった。
「なんだ、どうなっているんだ!」
やがて、揺れは収まった。みんな立ち上がり、砂埃を手で払っている時、俺はあることに気がついた。この揺れ、魔王がラーズの元へやってきた時の揺れに似ている。それに、禍々しいオーラもどこかからか感じられる。
「崩壊の危険があるため、まずは塔から離れましょう!」
ヒルデヨ部長が声を上げると同時に、全ての感覚が狂い始めた。激しい耳鳴りと激しい目眩、これによって辺りに何があるか、空間把握能力などが全て使えなくなった。壁によっかかろうとするも、俺が今どこにいるのか分からず、下がっても下がっても壁が分からない。
「みいつけた、久しぶりだね」
少しすると少女の声が聞こえ、能力が元に戻った。そして、分かった。地面の揺れの正体が。
「私から逃げようとしたって無駄だよ、ヒルデヨ」
ヒルデヨ部長の真後ろに立っていたのはラーズだった、さっきの地面の揺れも耳鳴りも奴が起こしたものだろう。ラーズはひざまずくヒルデヨ部長の髪を掴み、ニッコリと笑っている。ラーズの背後には巨大な穴が空いており、そのせいで塔は今にも崩落しそうになっている。
「空が綺麗だな。ヒルデヨ、君を街に異動させたのは優秀だからじゃない、泳がせたかったんだよ。いくらここで言ったって、君の漏らした情報を聞く人は誰もいない。何故なら、世界はもう少しで滅びるから」
「お前は、誰だ、誰なんだよ」
「私の名前はラーズ・フェイス、訳あって少女の姿をしているが、あのラーズと同一人物だ」
「そんな、ことが有り得るのか」
「口の利き方に気をつけろ、若造」
そうして奴は、ヒルデヨ部長の首をグギリと回して折った。即死だった、奴はヒルデヨ部長を俺たちの目の前で殺したのだ。
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