第101話 お前にとってウォーリアーズは何だ?
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「これはまた成長したなあ、ブレイクさんよお」
やっぱりコイツはパニッシュには見えない、坊主頭というところが共通しているだけで、口調も声も体もまるで違う。人格を移植したと聞いたが本当なのか、というよりもウォーリアーズではスパイだったし、この性格が本物なのか?
まあ、何だっていいさ。今のお前は敵なんだ、それに変わりはない。俺は能力を使って、リリーの花屋の二階に何があるかを探ることにした。遠くからでも、見えなくても、何かあるかは空気の流れで大体把握できる。
「ボケっとすんなよ!」
ただし、戦闘しながら同時に能力を使わないといけない。これだと集中力が持たない、だから俺は戦わずに奴から距離をとって、話しながら物を探す。
「パニッシュ、お前にとってウォーリアーズは何だったんだ?」
「ああ、まあそうだな、副業みたいなもんだ。体を動かすのは得意だったし、モンスターといってもゴブリンとか、いってもオークみたいな雑魚ばっか。死ぬ危険もなかったし、金稼ぎにもなったよ」
「親をモンスターに殺されたと聞いたが、それも嘘だったのか?」
「まあな、それは本当だ。家族をモンスターに殺された、でもな、ブレイク。復讐をしたいから討伐者になるとか、そんな単純な話で世の中は回ってないんだよ、復讐なんて子供のすることだ」
ちょうどその時、俺は能力で探している物を見つけた。俺は話を続けながらも、屋根の上で助走をつけてから窓を突き破り、二階からリリーの花屋に入った。
「最後に、お前はいつからそんなに煽るのが上手くなったんだ?」
「ウォーリアーズでは猫をかぶってただけだ、そうだ、討伐者パーティーなのに俺たち、仮面を被って活動してたよな。顔を割りたくないから、とかクロガが提案してた。それは戦闘員仲間にバレたくないというのもあるけど、そうしろとラーズ様に指示されてたんだ、おかげで俺たちは代替可能な存在になった」
「ほう、面白い発想だな」
そうして俺はある物を見つけた、それはロープだ。体が大きくなったパニッシュを倒すには、この方法しかない。俺はコスチュームを変化させるよう念じて、マントやフードを消した。
「おい、ブレイク、どこに消えた!」
「見失うなよ、ここにいる」
俺は花屋の一階から、扉を開けて出ていく。コスチュームの変化に気づいたのか、パニッシュは嬉しそうな声を上げる。
「おいおい、これでこそダークエイジだよ。マントとか邪魔だし見てられないんだ!」
そう、今の格好は昔のコスチュームとほぼ同じ見た目をしている。発言だけ見るとダークエイジのファンみたいでありがたいが、奴はただ煽っているだけ。俺はロープで輪っかを作り、端を右手で持ってから突進する。
「おお、来いよダークエイジ!」
奴からひねり出された拳を、俺は飛び跳ねて上に避け、背後から奴の首にロープの輪っかを通す。それから奴が驚くよりも先に、ロープの端を持ったまま俺は奴の両足の間を通り抜け、更に一回転してロープを巻き付ける。
「おいおい、何のつもりだ!」
奴はまだ固定されてない腕でロープを引きちぎろうとするが、すぐに腕を伝って巻き付け、動けないように固定する。それだけじゃない、足に思いっきり蹴りを入れて、バランスを崩させてからより巻きやすくさせる。
「おお、おお、おお?」
奴は困惑しながらも、腕を伸ばして拳を振るう。俺は固定されてない方の腕から出るパンチを避けながら、ロープをどんどん奴の体に巻き付けていく。頑丈でないロープだとしても、ここまで巻き付けられたら出られる奴はいない。
「いい作戦じゃないか!」
そうして奴はその場で飛び跳ね、ロープを緩めようとするも、俺はすぐに見抜き、ヘルメットを破壊するあの拳で奴の顔面を殴りつける。少しでも出ようとするその意思に、俺が気づかない訳がないだろ。
ブシャッ!
思いっきり顔面を殴られた奴の鼻からは、血が勢いよく噴出している。奴はさっきのように頭突きをして抵抗しようと動くも、俺は見逃さなかった。
バチン!
更に二発目の激しいパンチを、奴の顔面にお見舞いしてやった。流石に衝撃が頭に来たのか、奴はバランスを崩したままその場で倒れる。しかし意識はあるようで、ブツブツと呟いている。
「くそ、ブレイク、覚えてろよ」
「覚えてろよ? どうして?」
「次は必ず、俺がこの手で殺してやる」
その言葉を聞いて、俺は無意識にもフッと笑っていた。
「……何が、おかしい」
「パニッシュ、お前、次があると思ったのか?」
「……はっ?」
「今、この手で殺してやるよ」
そうして俺は、動けなくなったパニッシュの顔面を思いっきり殴りつける。
バチン!! バチン!! バゴッ!!
その拳一撃一撃に、全てが込められている。少しすると、奴の顔面はアザだらけになった。色は見えないが、青黒いんだろう。いや、モンスターと合体しているし、緑色なのかもな。
「や、やめろ」
「ああ、お前が死んだらやめてやる」
そうして更に殴りつける、やがてその鳴り響く強打音も、肉のえぐれ飛び散る音へと変化していった。
グチャ! グチャ! ベチャッ!!
骨が折れたのか、奴の頭はブランブランとしていて、殴っても殴っても手応えがない。意識も朦朧としているからか、奴の目はおかしくなっている。もう回復能力も使えないんだろう、体も少しずつ熱くなっていく。
「パニッシュ、最後に言いたいことはあるか?」
「ああっ、お前、こんな、性格、だった、のか」
奴は言葉を途切れ途切れにしながらも、そう尋ねてきた。俺は両手の親指で一本ずつ指を立て、ゆっくりと奴の目に近づけていく。
「お前らがスパイとして猫かぶってたのなら、俺も、もしかしたら化けの皮を被っていたのかもな」
そうして俺は、立てたその二本の親指を奴の目ん玉に向かって強く捻り込む。
グチュグチュグチュ……グチャ!!
奴は何も悲鳴を上げずに、静かに息を引き取った。俺は飛んできた返り血をそのままにして、ゆっくりとその場から立ち去った。
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