第100話 ウォーリアーズの裏切り者
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煙は晴れていて、お互いにお互いの姿が視認できるようになっていた。
ここにいるのは俺とパニッシュのみ、いや、パニッシュといっても奴はブラッドリーで、パニッシュの意識が移植されただけの別物だが、パニッシュとしておこう。
他の兵士は皆、爆発に巻き込まれたり、俺に刺されたりして死んだ。何人かは流れ弾が当たって死んだらしい、統率が取れていない証拠だ。
ちょうど俺の目の前にはには、リリーの営んでいた花屋がある。そして一直線の大通りの先には、パニッシュが立っている。
「ショットガンで撃たれても傷ひとつ付かないとは。それにそのコスチュームも、ヘルメットを貫通する拳も、人間じゃない。まさか、あの時の魔王とやらから力を貰ったのか?」
パニッシュは全身を大きくさせながらも、そう尋ねてきた。
「ああ、そうだ。パニッシュ、お前とは違う」
「ふん、ふざけた真似を。魔王は人類の敵、ダークエイジは真の人類の敵へと成り下がったようだ!」
やっぱりコイツはパニッシュには見えない、ブラッドリーという全くの別の存在として認識しても良さそうなくらいに。パニッシュは坊主頭で、もっとカタブツだった。それが今は、こうやって相手を煽るような文句まで言ってくる。
ウォーリアーズの時は、無口で真面目な坊主って印象だったが、あれは嘘だったのか。
「パニッシュ、お前はいつから知っていた」
「あん、何の話だ?」
「レスドラド計画の話だ、お前らはクロガを監視するためのスパイだったんだろ。ずっと隠していたのか?」
「あー、まあそうだな。人格を移植したのもあって記憶は曖昧だが、少なくともソクザは存在しなかった。お前らを迎え入れるために、全て設定を考えておいたんだがな、あまり聞かれなかったよ」
ソクザ、それはウォーリアーズの前身として3人が活動していたとされる討伐パーティー。百年前に活躍していた討伐パーティーの名前を勝手に借りたもので、それを知った俺たちはすぐに改名させた。
もうその時から、というよりもそれより前から、3人はラーズの部下としてクロガを監視していたんだな。
「てことは、少しはお前も強くなったんだろうなあ!!」
そうして奴は、その大きくさせた拳を振るいながら突進してくる。俺はナックルダスターを展開させて、構える。
「避けるなよ、ブレイク!」
俺は奴の拳を左に避け、すぐさま両方の刃を奴の拳に突き刺す。
「避けるなって、言ったよなあ!」
しかし奴は痛みを感じないのか、俺を片手で持ち上げ、遠くの壁に向かって放り投げる。
ビュン!
勢いよく放り投げられた俺は空中で回転し、勢いを落としてから屋根の上に着地する。刃を深く突き刺したというのに、奴の突進の勢いは止まらなかった。
魔王の力を持ってしてでも、ブラッドリーを止めることはできないのか、いや、そんなはずはない。魔王の力に勝るものなどない、なら、どうして。
「なあ、お前の力はそんなもんか?」
どうやら奴は痛みを特に感じていないみたいだ、その傷口からは血が流れているというのに、気にしていないようだ。
「ブレイク、俺はオークの力を持ったんだ、討伐者のお前ならよく知ってるだろ?」
まさか、オークの痛覚無視の特性を手に入れたのか。オークは確か、痛みを感じにくい特性がある。だから刺されても気づかないし、むしろ刺した相手を攻撃する。しかし、血は流れているし傷ついてはいる。
だが、奴は特別な回復能力を持っている。ニュークにはやや劣るものの、前に戦った時の傷痕が見えないことから、それらの傷も完全に治したのだと考えられる。
「つまり、いくら攻撃しても回復するし、痛みも感じないから勢いを落とすことはないってことか」
「正解だ、流石ウォーリアーズの裏切り者」
それはそれは、とても厄介な能力だ。攻撃力がどれだけ高くても、奴には効かない。
痛覚を無視するなんてとても危険な能力だと分かっているのか、痛みを感じないだけで傷はできているし、回復能力があるとはいえ痛いものは痛い。
ならばまずは、勢いを落とすほどの強い攻撃をする必要がある、それか奴を拘束するなりして、その勢いごと動きを完全に封印させるか。
「裏切り者はお前だろ!」
俺は声を荒らげながらも、ナックルダスターを展開させたまま突進する。
「おお、かかってこい!」
俺は手招きしながら煽るパニッシュの両足の間にすべり込み、同時に足首をその刃で叩き切る。
「うおっ!」
痛みを感じないと言っても、足首を切られたら立てなくなる、特にその体じゃあバランスを崩せばしばらく立てないだろう。俺は奴の背後を取り、後ろからナックルダスターの刃を肩に突き刺す。
ブシャッ!
「ぐあっ!」
地面に押し付けるようにして刃を突き刺されたからか、奴は立てずにもがいている。今がチャンスだ、俺はその刃を勢いよく抜き、続けて首元にグッと押し込むように突き刺す。
ブジャッ!
そして、今度は耳に思いっきり突き刺す。
グサッ! グサッ!
今度は目に刃を突き刺そうとしたが、奴の巨大化させた腕によって止められた。急いでナックルダスターの刃をしまい、強くなった拳で奴の後頭部をなぐりつけるも、三発目は当たらなかった。
ゴンッ!
そして俺は逆に、頭突きを食らってしまった。俺はその勢いのままに後ろに吹き飛ばされる。
「いってえ、随分と強くなったな」
足首を断ち切られているはずなのに、奴は立ち上がった。足元からは煙のような空気が出ている、もしやオークの回復能力を使ったのか。火事場の馬鹿力と言うべきか、最後の最後に急に強くなって回復能力も高くなる、そういうモンスターの特性を使ったというのか。奴もそれなりに追い詰められているんだな。
「前に戦った時とは大違いだな、ブレイク。しかしそれも魔王の力であってお前の力じゃない!」
「お前だって、その力はオークのものだろ、自分の力じゃどうにもできなかったのか?」
「言い返すようになったな、これはまた成長したなあ、ブレイクさんよお」
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