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第1話 真実を知った青年

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「これ、うちの帳簿だ」


 俺は、拠点の中にある帳簿を発見した。倉庫の奥深くに眠っていた昔の帳簿には「機密」と書かれていたが、俺はこのチームのメンバーであり、サブリーダーだ、多分、開けてもいいだろう。というか、こんな帳簿なんて見たこともない。ホコリを被っているし、昔のものなんだろう。


 中を見てみると、そこには想像を絶する数字が何個も書かれていた。とある企業と取引しているのか、何百万の金が簡単に動いているのを見るに、これは普通の帳簿じゃない。そもそも、俺は何も知らない。この企業のことも、企業と取引していたことも。帳簿は去年の夏で書き切られていた。


 俺は"モンスター"と呼ばれる、悪魔のような生き物を討伐するためのチームに所属している。チームの名前は"ウォーリアーズ"で、俺はそこのサブリーダー。モンスターってのは厄介な生物で、人間を喰い殺そうと襲ってくる。だから俺たちはそれを阻止するために戦い続けている。


 ウォーリアーズは、この都市・マーベラスで最も有名な討伐チームで、色々な人達からの支援の元活動している。モンスターを討伐できる人は限られているからか。100年前くらいは討伐者という文化が栄えていたらしいが、今はもう廃れてきている。それでもモンスターは森から出てきて、人間を襲って喰い殺す。そのためにも、俺たちは存在する。


 なのに、この帳簿には有り得ない程のお金が動いているのが記されていた。俺には、いや、俺たちには無縁な程に。1つの村どころか、都市、国を動かせる程の金だ。何で、それがウォーリアーズの倉庫の中にあるんだ。宛先は確かにウォーリアーズだ、もしかして、ウォーリアーズが裏で何かしているのか?


 いや、そんなことは無いはず。ここまでの金を、俺を除いた4人だけで管理しているとでも言うのか。でも、もし本当なら、ウォーリアーズは悪魔のような、それくらい恐ろしいことをしている。だって、取引の中には、最近捕まった強盗団の名前も書かれている。新聞で読んだ、強盗団は裏では"マルゲリタ"と名乗っていた。そのマルゲリタという名称がこの帳簿にも載っている。


 それだけじゃない、"カルメン"と呼ばれる闇取引商人や"ハルメール"という名前の都市とも裏で取引している。後者はともかく、前者とは絶対に取引してはいけない。なのに、彼ら4人は行っている。これは、俺に内緒で悪事を働いていたってことか?


 なら、今日。彼らが帰ってきた時にこの帳簿を叩きつけて言ってやらないと。こんな悪事を許すことなんて出来ない。それにしても、何で帳簿をわざわざ倉庫に残していたんだ?


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「これ、何で俺に黙っていたんだ?」


 俺は4人の前に帳簿を叩きつけ、色々と尋ねた。左から、金髪のクロガ、黒髪のコロネ、赤髪のハルート、坊主のパニッシュ。どこかでモンスターと戦ってきたのか、みんな汗だくだったが、俺は彼らが外に出る前に問い詰めることにした。下手に逃げられても困るから、これは只事じゃないってのは伝わってくる。


「さぁ、知らないな」と、クロガ。彼はウォーリアーズのリーダーで、恐らく帳簿を記していたのも彼だろう。普段の文字とそっくりだし。しらを切るつもりなんだろうけど、俺には通用しない。


「何でこの量の金が動いてるんだ?」


「さぁね。落書きなんて放っておいて。私たちはお腹が空いているの」と、コロネ。彼女は主に装備の調達や整備を担当しているが、戦闘力も抜群。でも、嘘をつくのは下手だ。長年一緒にいたから疑いたくはないけど、明らかに怪しい。


「マルゲリタって、最近話題になった奴だろ?」


「私そんな新聞とか読まないんだよね。目、疲れちゃうし」と、ハルート。戦闘はピカイチ、それに彼女は普段から新聞を読まない。でも何でマルゲリタが新聞に載っていたと知っているんだ。情報を得る手段なんて新聞以外にもあるのに。


「気のせいだ。お前はどうかしている」と、パニッシュは肩を掴もうとしてきたが、俺はそれを振り払った。誰よりも力の強いパニッシュは、モンスターと戦う時も頼りになった。それなのに、彼の目には炎が走っている。俺のことを、モンスターを見る目で見ている。


「よし、分かった。確かに帳簿はウォーリアーズの物だ。でも、お前が思っている以上にこの事柄は厄介だ。だから俺たちが黙ってやった。それでも欲しいか、この書物が?」


 クロガは机に置いてあった帳簿を取り、それを持ったまま俺の前に立った。彼はさっきとは違って、俺のことを見下すようにして睨んでいる。猫のように尖った目をしており、彼の方が身長も高いからか、より恐怖心が増していった。ウォーリアーズとして活動してから3年、個人では5年くらいの付き合いになるが、こんな厳しい顔をした彼を見るのは初めてだった。


「あぁ、その帳簿が欲しい」


 それでも、俺は負けていられなかった。彼らが悪事に手を染めているってことは、その身振り手振りから何となく伝わってきた。それなら、すべきことはただひとつ。通報する、然るべき場所に伝えて、彼らを悪事から救い出してみせる。


「……勝手にしろ」


 クロガから帳簿を受け取り、俺はウォーリアーズの拠点から去ろうとしたが、そこで彼らに止められた。


「これから何をする気だ?」


「決まってる」


「……ブレイク・カーディフ。お前をウォーリアーズから追放する。意味は分かるよな?」


 こうやって、俺はウォーリアーズから追い出された。でも、そんなことはどうだっていい。金とか仕事とか、それよりも俺は仲間を優先する。だから、俺はこの帳簿を然るべき場所に届けに行く。今すぐにだ、明日なんて待ってられない。


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