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7 新しい住居

 馬車は下町を過ぎ、貴族専用の区画へ向かっていく。

 下町とは違って通りが行き交う人々でごみごみしていることもなく、しっかり手入れが行き届いて塵一つおちていない。

 道行く人々の足取りはゆったりとして余裕があり、身綺麗だ。少なくともわたくしのように繕いだらけの格好で歩いている人は誰もいなかった。

 馬車が豪邸の前で停まった。

 噴水のある広い庭園、そして鳥が翼を広げるような形をした白亜の豪邸がでんっとある。


「姉さん」


 セー君にエスコートされながら馬車を降りると、呆然と豪邸を見つめる。


「すごい……。こ、ここが?」

「そう。俺たちの屋敷」


 扉を抜け、庭を横切る。

 お上りさんのようにきょろきょろと辺りを見回してしまう。

 こんなに大きな大邸宅ははじめてだ。

 ハヴェット家の屋敷でさえここまで大きくはなかった。

 先を歩くセー君が玄関を開けてくれる。

 ただただ恐縮しながら屋敷に入った。


「エレノアお嬢様、お待ちもうしあげておりました」

「!」


 使用人たちの先頭に立ったアンナが深々と頭を下げてくれる。

 アンナだけではない。そこにいた使用人にはみんな、見覚えがあった。


「みんな!」


 自然と笑顔になる。それは、かつてハヴェット家に仕え、わたくしたちを守るために叔父に意見をしてくれた使用人たち。


「どうして……」


 セー君がにこりと微笑んだ。


「見ず知らずの使用人より、長年ハヴェット家に仕えてくれていた人たちのほうが、姉さんも落ち着けると思って、アンナに頼んで集めてもらっていたんだ」


 目頭が熱くなる。


「お嬢様」


 アンナが渡してくれるハンカチで目尻を伝う涙をぬぐう。


「みんな、これから、またよろしくね」

「はい」


 全員が深々と頭を下げてくれる。


「アンナ。姉さんを着替えさせてくれ。そうしたら夕食にしよう」

「分かったわ」


 アンナに連れられ二回へ続く大階段をあがり、部屋へ。

 そこもすでに家具がおかれ、まるで昔訪れた王宮のようにキラキラしていた。


「こ、ここが、わたくしの部屋?」

「左様でございます」

「……ハヴェットのお屋敷よりもずっと、すごい」

「それだけ、セーラム様が戦争で活躍されたということです。なにせ王国を勝利に導いた白銀の英雄ですから」

「それ、セー君のことだったの!?」

「左様です」

「……すごい」


 いろいろな意味で。


「今やセーラム様のことを知らない人は王国にはいませんよ。商店では、セーラム様の肖像のブロマイドが販売されているくらいですから。セーラム様の気品が、王国中の女性を虜にしているんです。巷では、白薔薇の貴公子、とも呼ばれていらっしゃるようです」

「すごい……」


 そうとしか言いようがない。


「でもどうして白薔薇なの?」

「グリムストンの紋章が薔薇であるということに由来しているようです」

「なるほどー」


 たしかにセー君が女性に大人気なのは、理解できる。

 セー君が人気だと聞くと、わたくしの心まで弾んでくるから不思議だ。

 たしかにセー君は昔から可愛いと、領民たちからの人気も高く、伯爵家に仕える貴族からも是非、うちの娘をセー君の嫁にという声もたくさんあったくらいだ。


「ドレスですが、どれになさいますか?」


 侍女たちによって十着を越えるドレスが運ばれてくる。


「こんなにたくさん?」


 下町暮らしでは汚れても目立たない黒を中心とした服ばかり着ていたから、鮮やかな色やフリルのついたドレスが眩しい。


「どれも素敵で目移りするわ」

「でしたら、右から順に着ていくというのはどうでしょうか?」


 悩んでいるわたくしを見かねて、アンナが助け船をだしてくれる。


「そうね。それがいいわ」


 ということで、今日はローズピンクでふんわりとすその広がったドレスにする。

 他の侍女も手伝ってくれてドレスを着る。

 ドレスに合う、イヤリングとネックレスもアンナが選んでくれた。


「こちらでいかがでしょうか」


 姿見に自分の姿を写す。


「……なんだか昔に戻ったみたい」


 思わずそう呟いてしまう。


「本当に」

「すごく素敵。みんな、ありがとう」

「では、食堂へ」


 一階の食堂にはすでにセー君がいた。


「ど、どうかな」


 私はその場でくるりと回ってみせる。

 セー君は目を見開くと、笑顔になる。


「姉さんにすごく似合ってるよ」


 セー君も軍服からジャケットにスラックスという私服に着替えていた。


「ありがとう。セー君も軍服姿もとても凛々しかったけど、他の服もすごく似合うね」


 きっとスタイルがいいせいだろう。

 そんな簡素な服装も、ばっちり着こなせるはず。

 次々と運ばれてくる料理に舌鼓をうって、デザートまで平らげた。

 久しぶりにお腹がいっぱいになるくらい食べられた。


 ――う。お腹がちょっと苦しい。食べ過ぎちゃったかな。


「こんなに豪勢な料理、本当に久しぶり。お腹がびっくりしちゃう」

「今日から毎日、食べられるから」


 それから食後の紅茶を飲みながら、この三年のことをセー君に話した。

 近所の猫が子猫を出産したことだったり、口うるさいマーサおばさんが孫が出来たとたんデレデレになって、性格まで丸くなったり。

 戦争のことはあえて聞かなかった。セー君にとってもあまりしたいような話ではないだろうから。


 ――セー君には一刻も早く、日常に戻ってきてほしい。


 軍人の中には戦場が忘れられず、なにもない日常に溶け込むことができずに酒に溺れたり、心を病んでしまったりする人もいると聞く。

 セー君を見る限り、そういう心配はなさそうだけど。


 ――セー君はすっかり成人したし、伯爵家の当主様だものね。お姉ちゃんとして守るとは言ったけど、今のセー君にはわたくしは必要ないのかも……。


「姉さん?」


 暗い顔を、セー君はすぐに気付いたみたいだった。


「ううん、なんでもない」

「もっと姉さんの話を聞きたいよ」

「うん、それじゃあ……」


 セー君と離ればなれになっていたこの三年間のことを話し続けた。

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