2 葬儀
セー君は九歳で、本が好き。
セー君のお父様が元々本が好きで、本当は学者になりたかったみたい。
屋敷にある図書室へ案内してあげると、目を輝かせたセー君は色々な本を読んだ。
難しい字や言葉があったら教えられるように、わたくしがいつも一緒に本を読んだ。
セー君は文学や歴史書、化学や、冒険小説と色々な本を読んだ。
最初はお母様にべったりだったセー君も、屋敷で一年過ごすうちにだいぶ馴れて来たみたいだ。使用人にも挨拶ができるし、ちょっと言葉を交わせるようになった。
なにより、わたくしのあとをカルガモの子どもみたいについてきてくれる。
その愛らしさに胸がドキドキして、一日に一回はセー君を抱きしめずにはいられない瞬間があった。
二人で雪だるまをつくったり、雪合戦をしたりもした。
お父様が領地の視察に出かける時、一緒についていって、領民のみなさんと話したり。
お父様も、セー君が跡取りとして色々なことに興味を持ってくれることが嬉しそう。
でもそんな幸せな時間は長くは続かなかった。
お母様とセー君がハヴェット家にやってきて、三年。
お父様とお母様は旅行の最中、馬車もろとも谷底へ落ちてしまった。
二人の亡骸は見つからず、空の棺での葬儀がはじまった。
葬儀が終わると、セー君と二人きりで空の棺のそばにいた。
セー君は泣くこともできず、無表情だった。
何を話しかけても反応を示してくれなかった。
わたくしは悲しくて悲しくて影で何度も泣いたけど、姉としてセー君の前で絶対に泣かないと決めていた。
「セー君」
反応をみせないセー君を抱きしめた。
反応が返ってこなくてもいい。でも心が壊れないように抱きしめた。
「お姉ちゃんが、お父様とお母様の分まで、セー君を守って幸せにしてあげるから。だから……大丈夫だからね」
その時、かすかな息遣いを感じた。
はっとしてセー君を見ると、瞳がうっすらと膜が張ったように潤んでいた。
「お、ねえ、ちゃん……」
ぽろぽろとその冬の湖のように水色の瞳から、涙がこぼれる。
「セー君」
強く強く抱きしめる。セー君はぽろぽろと涙を溢れさせ、わたくしの背中に腕を回して、抱きしめ返してくれる。
泣いてくれることが嬉しくって、同時に、やっぱり悲しみを我慢できなくて、一緒に泣いた。
二人で声をあげて泣いた。
何もかも悪い夢であってくれればいいのに。
お父様とお母様がひょっこり、何事もなく戻ってくれたらいいのに。
でも、これはまぎれもない現実。わたくしたち、姉弟が残された。
でも一人じゃない。
わたくしにはセー君が、セー君にはわたくしが、そして使用人のみんながいてくれる。
(お父様、お母様、どうか、セー君をお守りください)
祈るような気持ちで、セー君を抱きしめた。
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