赤ちゃん、デパートに行く
「あだだだだだだだだだだ…あだぶあう、あばぶう。…あだぶっ!!」
悪役まで演じるんだ…。
今、竜一が何をやっているのかって?
昔流行った漫画の主人公が悪役を倒して決め台詞を言って、悪役がやられるところまでを演じているらしい。
私は読んだことないけど。
【やっぱ、かっけーな。俺も昔憧れて真似てボコった時があんだけど、どいつもこいつも100発前に気絶すんだよ】
それは相手がご愁傷様です。
「そういえば戦隊ヒーローもののイベントがデパートであったかも…」
スマホで調べていると竜一が鼻で笑った。
【戦隊ものって子供が見るあれだろ?俺がそんな子供騙しのようなショーで喜ぶわけないだろ】
おつむも見た目も赤ちゃんのお前が何を言っている。
【やべえ!あいつ浮いてるぞ!!】
子供騙しのショーに喜ぶ赤ちゃんが一人。
「ちょっと!観るなら大人しく座って観てよ!」
夢中になり過ぎて身を乗り出そうとして私の顔を蹴りまくっているのだ。
喜ぶわけないと言っていたのはどこのどいつだ!
【あのアクションかっけーな!俺も取り入れてみるか。いや、あれだと背中ががら空きになるか?】
一体どこで取り入れる気だ。
【あの壁伝いに走って相手から避けるアクションもいいな!今度試そ】
ここにいる間は絶対止めろよ!
怪我でもしたら大変なんだからな!…私の財布が…。
【思ったよりも楽しめたぜ】
どこがだ!
そのセリフボロボロになった私の顔を見て言ってくれます?
ショーが終わりご満悦の竜一に呆れしか出なかった。
ちょっと休憩したいとフードコートに寄り、竜一を赤ちゃん用の椅子に座らせると後ろから声をかけられた。
「あれ?咲子ちゃんだよね?」
この馴れ馴れしい呼び方は…。
嫌々振り返るとそこに立っていたのは予想通りの南条さんだ。
「…こんにちは…」
休日にまで会いたくないのだが…。
「君が噂の竜一君か!」
空気の読めない男は私が座る予定だった竜一と向かい合わせの席に腰を下ろした。
ってかどっか行けよ!
「あはは。なかなか鋭い目をした子だね」
鋭い?
南条さんの言葉に竜一の方を見ると…めっちゃ睨んでる!?
「あだあだぶ…【なんだこいつ…】」
相沢さんには愛想良かったのに…南条さんは嫌いなのかな?
「ぷにぷにお肌が可愛いね」
「あだう!【触んな!】」
竜一の肌をつんつん指で突いている南条さんの指を竜一が噛みついた。
はむはむはむ…。
「ご飯と勘違いしたのかな?」
南条さん、ノーダメージ。
歯がないからね…。
でも指は涎でべとべとになったから一矢報いたのか?
「そういえば咲子ちゃん。今度飲み会する予定なんだけど、もちろん参加するよね?」
若干語尾が強制っぽいが。
「私は竜一がいるので参加するのは難しいかな~って…」
「大丈夫だよ。この子、大人しそうだし」
今、あなた噛みつかれていましたよね。
「タバコとかお酒の席に赤ちゃんを連れて行くのは…」
おい!そこの赤子!目を輝かせるな!
「タバコは外で吸わせるようにするし、子供が遊べるスペースのある居酒屋だから大丈夫だよ」
なんでそんなに用意周到なんですか…。
それと赤子、舌打ちするな!
「…じゃあ…少しだけなら…」
ここまで言われて先輩の誘いを断る度胸は私には無い。
ちなみに竜一。目を輝かせているが…酒、飲ませないからな!
読んで頂きありがとうございます。