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赤ちゃん、お別れの時

 それはある日突然やってきた。

 部屋のインターホンが鳴り扉を開けた。


(わたくし)こういう者です」


 差し出された名刺を受け取ると目を通した。


 『人間転生部 悪鬼担当 赤鬼 太郎』


 最初に出た時から分かっていたよ。

 あんたが人間じゃないということは…。



 スーツを着た角の生えた営業マン面の赤鬼を部屋に通すとお茶を差し出した。


「これはご丁寧な対応ありがとうございます」


 鬼って見かけほど怖くないのか?

 竜一が鬼を伸して働かせられたのも少し納得してしまった。


「私は営業担当ですので地獄の鬼達は怖い者ばかりですよ」


 心の中を読まれた?


「この度は竜一様をお預かり頂きありがとうございました。いい子ポイントはまだ不十分ですが転生が可能な状態になりましたのでお迎えに上がりました」


 あのハートメダルっていい子ポイントって言うんだ…。

 想像以上に可愛すぎる名前だ。


 竜一を見ると取り出したメダルは少しだけピンクを残し赤く染まっていた。


「そのいい子ポイントを使用し、竜一様を転生させる予定です」

「ポイントが足りないから虫に転生とか…」

「だぶう!?【そうなのか!?】」

「ご安心下さい。転生先は人間です。早く迎えに来たのは転生先が見つかったからです」


 私と竜一は顔を見合わせた。


「竜一…」

「あうあ…」


 じわじわと感情が込み上げてきた。


「良かった!!」

「あっぶう!!【やったぜ!!】」


 嬉しさのあまりお互い抱き合ったのだった。



 お別れの挨拶の猶予としてお迎えは2日後となった。


「竜がいなくなるなんて嫌だ!!」

「竜ちゃんはずっとここにいるの!!」


 保育園に帰ることを告げると園児達が泣き出した。

 こいつ話できないのになんでこんなに人気なの?


 泣き叫ぶ園児を竜一がポンポンと叩くと園児達は泣き止んだ。


「ばぶうあだぶう【どこにいても友達だろ】」


「竜…」

「竜ちゃん…」


 竜一の言葉に園児達は瞳を潤ませた。


『別れたくないって言ってる!!』


 想いは伝わらず。

 園児達が再び泣き叫び竜一はもみくちゃにされた。



 帰宅後、相沢さんが竜一のためにご馳走を作ってくれるということでお邪魔していた。


「あぶうあだぶう【この美味いメシともお別れか】」


 こいつ私への嫌味か?


「竜一君がいなくなると寂しくなるね」


 私は楽になりますけど。

 もぐもぐと美味しそうにご飯を食べる竜一を見た。

 …でもそっか。もう二度と会えなくなるのか…。



 翌朝。


「あーだ【いただきます】」


 手を合わせて挨拶をする竜一に驚いた。


「竜一…どうしたの?」

【お前の味気ない粥も今日で食べ納めだからな。最後くらいは感謝して食ってやるよ】


 …上から目線なのはどうなんだろう。

 だが今日は竜一の好きなササミが入っている。

 少しは満足してくれるだろう。


「どう?今日はちょっと頑張ってみたけど」

【そうだな…。お前が作った粥の中では一番だ】


 つまりただの粥だと。


【粥に始まり粥で終わる…か】


 遠回しに他の物を食わせろと言っているのだろうか。



 お迎えの鬼が来て竜一を抱っこした。


「ではこれでお別れになりますので」


 竜一の小さな手をそっと握った。


「あっちに戻っても悪さしちゃダメだよ」

「あだ」

「転生してもヤンキーになるのはダメだからね」

「…あ…あだ…」

「それと…」


 この手を離したらもう二度と竜一とは会えなくなる…。

 話しているうちに目の奥が熱くなってきた。


「…元気でいるのよ…」


 目に涙が溜まり竜一の顔が歪んだ。


「あうあ」


 気持ちを落ち着かせようと顔を逸らし深呼吸をすると竜一が私の名前を呼んだ。


「あーと」


 次の瞬間、私の涙腺は決壊し竜一を抱きしめていた。

 この温もりは忘れない。

 竜一は私を優しく叩くと静かに消えていった。




「隣、いい?」


 呆然としながら屋上でサンドイッチを食べていると相沢さんに声をかけられた。

 「どうぞ」と少しずれると隣に腰をかけた。


「竜一君、良い子だったね」


 相沢さんの言葉に竜一との思い出が蘇った。

 最初は赤ちゃんのくせにガラの悪いヤンキーで横暴で我儘で何度追い出したくなったことか。


「竜一にはホント迷惑かけられてばかりでした」


 振り返ればはいはいしながらふてぶてしい顔で現れて。

 偉そうな態度で怒鳴り散らして。


 そんな竜一はもう家にいないんだ…。


 呼んでももう竜一は私の傍に寄ってこない。

 お粥を作っても食べてくれない。

 楽しそうに遊ぶ姿もドヤ顔の姿も見ることが出来ない。


「もっといっぱい色んなことをしてあげたかった…」


 自然と涙がこぼれ落ちてきた。

 相沢さんは何も言わずにそっと私の泣き顔を隠すように抱きしめてくれた。

 その温もりが最後に抱きしめた竜一の温もりと似ていて私は声を上げて泣いた。


 バイバイ、竜一。楽しかったよ。




 あれから2年が経った。


「相沢さん!息んで!!」


 いったーーーーーーい!!

 声にならない声を叫びながら訳がわからずただひたすら指示に従った。


「頭、見えてきましたよ!もうひと踏ん張りですよ。息んで!」


 最後の力を振り絞り息んだ。


「あぎゃああああああ!!」


 ん?ちょっと待て。

 この叫び声、聞き覚えないか?


「元気な男の子ですよ!!」


 助産師さんが連れてきた赤ちゃんの顔を見て叫ばずにはいられなかった。


「なんで竜一がここにいるのよーーーーー!!」


 そのまま失神した。


 まさか竜一の転生を早めたのは私に面倒を見させるため!?


 閻魔大王め!!

 ここぞとばかりに押し付けやがって!!


 夢の中で閻魔大王をフルボッコにする夢を見た。


 そんな私はもしかしたら竜一とは遠い血縁関係にあるのかもしれないと思うのであった。





作者がしばらく多忙になるため迷いましたがエタるよりはいいと思い、完結させることに致しました。

竜一が咲子のもとにやってきて一ヶ月分のお話しでしたが、また気が向いたら最終話は変えずに隙間に話を入れていく…かも?

明日、後日談一話を投稿して一応完結とさせて頂きます。


読んで頂きありがとうございます。

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