赤ちゃん、腹痛を起こす
没収したスマホで乳幼児の食事について調べた。
はいはいが出来るから恐らく8ヶ月~10ヶ月くらいの設定なのだろう。
そうなると…ネット検索し画面を表示した。
授乳の回数、多!
載っていたのは一日5回の授乳と2回の離乳食。
食い過ぎじゃね?
チラリと竜一の様子を窺うとお腹がぎゅるぎゅる鳴っている。
そうだよね。会ってから何も食べてないもんね。
一日5食ならお腹空くよね。
とりあえず手ごろで今簡単に出来るのはお粥か。
お粥を作り竜一を私の膝の上に座らせた。
「あっだぶう!あうあうあぶう!【粥ってなんだ!普通のメシ食わせろ!】」
膝の上でこれでもかと暴れ出した。
お前は亭主関白か!
約束も守らないし。
約束事ライフはすでにゼロである。
「そんなに嫌なら食べなきゃいいのよ」
膝から下ろすと「あだぶ…」と呟いたあと、ぷいっとそっぽを向いた。
私もそんな竜一に付き合っていられないと自分もご飯を食べ始めたのだが、竜一の面倒を見るなら赤ちゃん用品を買っておいた方がいいのかなとふと思い立った。
時計を見ると19時を過ぎている。
薬局が閉まる前に買いに行ってくるか…。
「竜一。ちょっと私買い物行ってくるから、大人しく留守番してるんだよ」
相変わらず拗ねている竜一を残して外に出た。
薬局から戻るとふて寝しているのか竜一が横たわっている。
「いい子にしてた?」
不貞腐れていると思われる竜一に声をかけるも部屋の状況を見てすぐに異変に気が付いた。
テーブルにあった私用の食事はひっくり返っており、竜一の傍には吐いたあとが。
「竜一!あんたまさか私のご飯食べたの!?」
「あぶうう…」と痛そうにお腹を押さえる竜一の全身には蕁麻疹が出ていた。
どうしたらいいのかわからずパニックになるも竜一の苦しそうなうめき声に、病院に連れて行こう!と竜一を抱きかかえ家を飛び出した。
病院に到着すると受付で究極の二択に迫られた。
実費orハウス。
「保険証は後日提出でもいいですよ?」
受付のお姉さんがご丁寧に提案してくれたのだが…。
この子保険証ないじゃん!
実費って10割負担だからかなり高額になるよね…。
迷う私の服を小さな手が弱々しく握り引っ張った。
「あうあだう…【寝てれば治るから…】」
そんな竜一の姿に一瞬でも迷った自分を恥じた。
なに迷ってんのよ!
私は受付のカウンターに思い切り頭を打ち付けて顔を上げた。
驚いて「ひっ!」と声を上げるお姉さんに血走った目で迫った。
「実費でいいんでこの子診て下さい!!」
「あ…は…はい。ではこちらの用紙に記入をお願いします」
あまりの形相にお姉さんも保険証に関してはこれ以上ツッコんではこなかった。
ツッコまれても発行できないしね。
もちろん用紙には『生川 竜一』と記入したのだった。
それからはあれよあれよという間に診察が進み、処置の間は廊下に追い出された。
そう、一人になった私にはすべきことがある!
「あの…すみません…」
受付のお姉さんに声をかけると私が余程怖かったのか肩を震わせた。
「ATMに行ってきてもいいですか…」
これには怯えていたお姉さんも同情的な眼差しを向けてくれたのだった。
症状が落ち着いた竜一を抱えてトボトボと夜の道を歩いた。
今月の給料がほとんど空だ…。
医者にも赤ちゃんは何でも口にするから注意するように説教されるし…。
「あっだう…【悪かったな…】」
溜息を吐く私に竜一がポツリと呟いた。
まあ竜一が良くなったならいいか。
「もう二度とこんなバカな真似しちゃダメだからね」
注意すると私の胸に顔を埋めながら「あう…」と返事した。
親が無条件で子供を愛せるのはこういう姿に心揺さぶられるからなのかもしれない。
優しく竜一の背中をさすってやると…。
ぶりゅっぶりゅりゅ…。
激しい音と共に強烈な臭いが…。
「あっぶ…【くっさ…】」
臭いってこれ、あなたから発せられた臭いですからね。
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