赤ちゃん、スマホを触る
とりあえずこのガラの悪い竜一赤ちゃんよりこちらが優位に立つ必要がある。
「これから家で暮らしたいなら最低限の約束事は守ってもらうわよ」
「あぶ!?」
「当たり前でしょ。あなたは居候なのだから」
「…ぶう…」
不満なら余所に行ってくれ。
「あぶ!あだぶ!あぶぶあっだぶう!【分かった!俺も男だ!約束くらい守ってやるぜ!】」
行かないのか…。
「じゃあまずは、我儘を言わない」
「あぶ!」
分かったって…絶対分かってないよね?
いまいち信用出来ない返事を疑いながら次の約束事を提示した。
「次は…私の言う事に逆らわない」
「あぶ!」
もしかしてこれは…右から左に聞き流している?
そんな芸人いたよね…。
「最後は叫ばない怒鳴らない暴れない」
「あぶう!」
楽勝!じゃねえ!
絶対守る気無い奴の返事だよ!
信用ゼロだが一旦様子を見る事にした。
竜一の事で忘れていたが晩ご飯がまだだった。
「う~ん。このくらいの歳の子ってやっぱり離乳食かな…?」
スマホで乳幼児の食事について調べていると竜一が興味深そうに覗き込んできた。
小さな手で私の手を掴みながら一生懸命身を乗り出そうとする姿は…ただの赤ちゃんだ。
「あぶぶ!?あだあぶう?【なんだこれ!?指で動いてるぞ?】」
「スマホだよ」
画面をスライドすると竜一は「あきゃあ!」と目を輝かせた。
もしかしてスマホを知らない?
「これは携帯電話が進化したものなんだよ」
「あだあっだぶうだぶ?【携帯電話ってショルダーフォンのことか?】」
ショルダーフォンって…何?
首を傾げる私に竜一がぶぶぶ…と笑った。
「あぶうあぶぶう?あっぶ【お前知らねーの?ダッセ】」
赤ちゃんの笑いでもイラっとする。
スマホでショルダーフォンを検索するとデカい持ち運びが出来る電話の画像が出てきた。
「あぶあぶ!」
「…なにこれ。ダッサ」
「あ…あだぶう…【お…俺の全盛期が…】」
この時代の人だったんだ。
竜一は床に手を付き打ちひしがれた…はいはいの姿になっているだけだけどね。
「仕方ないな…使い方を教えてあげるからこっちおいで」
私が呼ぶとはいはいで歩いてきて私の膝の間にちょこんと座った。
ちょっと可愛いかも…。
悶えながらスマホを竜一にも見えるように床に置くと電話のかけ方やネットの使い方を説明してあげた。
竜一は終始目を輝かせながら手の平でペチペチと画面を叩いている。
…指、使えないからね。
竜一がスマホに夢中になっている間に晩ご飯を作ろうと台所に立つと、ものの数分もしないうちに「あっだー!!」と怒るような声とともにゴドンと嫌な音が響いた。
慌てて様子を見に行くとスマホが竜一から離れた場所に落ちている。
こいつ、投げたな。
当の本人は知らないフリを決め込もうとしているのか私とスマホに背を向けている。
それで誤魔化せると思っているあたり赤ちゃんだな…おつむも体も。
スマホはカバーのお陰で無傷ではあったが…こいつどうしてくれようか?
しかも早々に約束も破られた。
「りゅ~う~い~ち~…」
竜一の前に立ち、仁王立ちで見下ろすと竜一が反論してきた。
【だって全然思うように動かねえし!】
指じゃなくて赤ちゃんの手だからね。
「だからってスマホを投げていい理由にはならないでしょ」
静かな怒りをぶつけると竜一は少し反省したのか私の足元に寄ってきて…私の脛に右手を置いた。
反省…って猿か!!
世のお母さん達のスマホがボロボロな理由が分かった気がする今日この頃であった。
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