赤ちゃん、恋を語る
「あうあ。あぶう【咲子。そこに座れ】」
竜一が床をバシッと叩いた。
言われた通り、竜一の前に正座で座った。
「あだぶ、あだうあっぶう?【お前、眼鏡の事どう思ってるんだ?】」
「どうって…優しい良い先輩だけど?」
「ばぶう!【そうじゃねえ!】」
納得がいかないのか竜一は床をバシバシ叩いた。
前にも思ったけど、赤ちゃんに説教される絵ずらってなかなかシュールだよね。
【あいつは良い奴だ】
さっき私そう言ったよね。
遊園地以降、竜一を時々預かってもらっているのだが、どうやら竜一は相沢さんを気に入っているみたいだ。
たぶんメシが上手い!これに尽きていると思うが。
【あいつは料理も洗濯も料理も出来る】
今、料理を二回言ったよね。
【料理も家事も料理もいまいちなお前とはピッタリだと思うんだ】
色々ツッコみたいけど、とりあえず粥に不満があることだけは分かった。
【あいつは奥手だ】
相沢さんもモテてたことに気付いてもいないお前には言われたくないだろう。
【お前が押し倒せば結婚出来る…かもしれない】
人を痴女扱いしないでもらえます。
「あの…一ついいですか?」
挙手をすると「あだ!」と返事しながら私を指差した。
「相沢さんにも選ぶ権利があると思いますが…」
【これだから恋愛に疎い奴は…!】
制服の上着を奪われた事にも気付かない奴にだけは言われたくないから。
竜一が変な事を言い出すから妙に意識してしまう。
仕事中、隣で仕事をしている相沢さんが気になって仕方がない。
確かに相沢さんは優しいし、頼りになるし、面倒見もいい。
あの竜一が懐いているくらいだ…半分はメシの影響かもしれないが。
というかあいつ、上手いメシが食べたくて私と相沢さんをくっつけようとしているんじゃないだろうな!?
大いにあり得る。
「咲子ちゃん。ちょっといいかな?」
ぬっと私の横から出された顔に嫌悪感を抱いた。
そういえば相沢さんだけかもしれない、一緒にいて安心出来る相手っていうのは。
「この前話をしていた飲み会の件だけど、日取りが決まったから教えておくね」
そういえばそんな話したような。
相沢さんも参加するのかな?
チラリと相沢さんの方を見ると…っていねえし!
どうやら昼休憩に行ったようだ。
「じゃあ咲子ちゃん。当日はよろしくね」
全く話を聞いてなかった…竜一が暴走しなきゃいいんだけど…。
その日の夜、部屋のインターホンが鳴り、出ると相沢さんが立っていた。
「これ、作り過ぎたからお裾分けに来たんだけど、竜一君も食べられると思うからどうかなって…」
「ありがとうございます。助かります」
これで竜一に文句言われなくて済むわ。
相沢さんから鍋を受け取ると竜一がはいはいで歩いて来た。
「あだう!」
眼鏡!ってあんたちゃんとお礼言いなさいよ。
「竜一君、こんばんは。ご飯持ってきたから食べてね」
「きゃあう!あだぶばぶうう【やるな!さすが俺の下僕】」
こいつには私手作り粥だけを提供しようかな。
「じゃあ僕はこれで…」
【メシくらい誘えよ。出来ねえ女だな…】
副音声がうっせえ。
「相沢さん。良かったら一緒にご飯食べませんか?」
といっても相沢さんの持って来てくれたおかずオンリーだが。
「え?でも…迷惑じゃ…」
「だぶう」
竜一が相沢さんのズボンの裾を引っ張った。
「大したものは出せませんが竜一もこの通りなので相沢さんさえ良ければどうぞ」
「あぶぶうあっだあばぶう」
「竜一君も誘ってくれているみたいだし、お邪魔して行こうかな」
…こいつ本当に粥だけ食わしたろうかな。
【大した物も何ももらったおかずしかでねえけどな】って…間違ってないだけになんも言えねえ!
「そういえば相沢さんは今度の飲み会参加されるんですか?」
竜一の口にスプーンを近付けながら相沢さんを見た。
「僕はお酒とか飲めないから不参加にしたんだ。良かったら竜一君預かろうか?」
チラリと口をもぐもぐさせる竜一を見ると、俺は行くぞという目で訴えられた。
連れて行かないとたぶん相沢さんの家で大暴れするんだろうな…。
「キッズルームとかある居酒屋みたいなので、たぶん大丈夫だと思います」
こいつがお酒に手を出さなければだけど。
でもそっか…相沢さん不参加なんだ…。
なんだか残念な気持ちになった。…と同時に不安になった。
私一人で竜一の暴走を止められるだろうか…と。
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