赤ちゃん、迷子になる
今、俺の目の前ではカオスな状況が繰り広げられている。
「ママ~ママ~…」
「お家帰りたいよ~」
一人のお姉さんが一生懸命あやしているもみんなつられて泣き出したのだ。
そう…俺は今、迷子センターにいる。
ことの始まりは数分前。
「竜一。トイレ行ってくるから少しここで遊んでいて」
「あだ」
咲子とデパートに来ていた俺はキッズルームなる子供の遊び場に放たれた。
とくに遊びたいわけではなかったが、トイレなら仕方ねえと隅の方で咲子の帰りを待っていた。
すると警備員のおっさんが俺の傍に来て俺を抱きかかえるとそのまま迷子センターへ直行されたのだ。
断じて俺が迷子になったわけではないことだけは言っておく。
今日は休日ということもあり、迷子の子供が多いようだ。
先程からずっとこの調子で泣き続けている。
疲れないのか?
しばらくすると新たな迷子がやってきた。
「ママどこ行ったの~」
今にも泣き出しそうな迷子に俺はやれやれと鼻息を吐いた。
新たな迷子に振り返るとそこにいたのは。
「あっだう!?【たっくんか!?】」
「あれ?竜?竜も迷子?」
「あだうあだぶう!【俺は迷子じゃねえ!】」
俺の言葉など分からないたっくんは俺の傍で体育座りをした。
知り合いがいたお陰か少し落ち着いたようだ。
「ママ迎えに来てくれるかな?」
不安そうに呟くたっくんの足をポンポンと叩いた。
「あぶだ。あばぶうあぶぶう【大丈夫だ。捨てられていなければ必ず来る】」
「竜はいいよな。何も分からないから…」
「あぶうあっだぶ!?【喧嘩売ってんのか!?】」
しかしその闘争心も不安そうに顔を伏せるたっくんの姿に消失した。
「あばぶう…あだ、あばぶ【しょうがねえなあ…オラ、付いて来い】」
俺がはいはいでたっくんの前に立ち顎で『付いて来い』を表現するとたっくんは立ち上がり俺に付いて来た。
俺が連れて行ったのはおもちゃがある場所だ。
積み木を手に取るとそれを重ねていき俺の城!とドヤ顔でたっくんを見た。
「俺の方がもっと凄いの作れるから!!」
闘争心に火が付いたたっくんが一生懸命積み木を積み上げて俺より高い城を完成させた。
それを見ていた周囲の子達も面白そうだとつられて遊び始めた。
あやしていたお姉さんもホッと安堵の表情を浮かべている。
俺、育児の才能あるんじゃね!?
保育士もいいな…社内保育園の保育士達を思い出した。
いや。ないな。
ガキの面倒を見るなんて俺の性に合わねえわ。
しばらく遊んでいると「拓也!!」と呼ぶ声をとともたっくんを抱きしめるおばさんが。
「ママ!!」
こいつ拓也って名前だったんだ。
「竜!またな!」
「あだ」
母親に連れて行かれるたっくんに手を上げて挨拶した。
他の子供達も次々に親が迎えに来て笑顔で去って行った。
子供が何故泣くのか。今の俺には少し分かる気がする。
今まではどんな強ええ奴もこの拳一つで黙らせてなんでも出来る気になっていた。
けれどこの姿になって自分一人では生きていけないことを知った。
飯一つ用意できなければトイレにも行けねえ。
伸した奴等の財布も没収出来ねえから生きるための金もねえ。
だから子供は助けてくれる人間が傍にいないと不安になるんだ。
どうやって生きていけばいいのかと…。
「ちょっと!竜一!探したんだからね!!」
咲子の声がして振り返った。
「だぶうう!きゃばぶう!!【遅えじゃねえか!バカ野郎!!】」
俺は咲子の足にしがみついた。
「あんた…泣いてんの?」
【泣いてねえ!】
「竜一君。泣かずに他の子達と遊んであげていたんですよ」
迷子センターのお姉さんの言葉に咲子がニヤついた。
「へえ…あんたがね」
【うるせえ…】
恥ずかしくて抱き上げる咲子の胸に顔を埋めた。
「子供の面倒を見てあげるなんて、あんたもいいとこあるじゃん」
そんな咲子の言葉に返事はしなかったが、なんだか悪い気はしない。
そんな俺の胸のメダルがまた光っていたのだった。
このお話しを書くにあたり迷子センターについて調べたのですが、最近は偽の親が迎えにくることもあるとか…。
物騒な世の中になりました。
読んで頂きありがとうございます。




