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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
60/100

「Welcome」


 正門から小一時間ほど歩いた神佑大学の敷地内でも端っこのほうに、火災により使われなくなってしまった別館がある。


 文章だけでは知り得なかったが実際見てみると想像以上に焼け跡だ。


 木造だったら全焼していたのだろう。


 れんが造りだから焦げ目がつくぐらいで済んでいる。




 総平は“立ち入り禁止”の札のかかったトラ柄のロープを無視して進んでいき、別館の入り口の扉のカギを開けた。


 おれも後ろをついていく。




「そのキーはどこでゲットした?」




 おそらくこれが忘れそうになっていた“借りておいた鍵”だろう。


 ぼくからの問いかけに総平は「昨日のうちに事務から借りておいた。借りるのにいろいろ書くものが多くてめんどくさいんだよ」とやれやれといった感じで答えた。


 実際におれの読んだアカシックレコードでも交渉は難航して篠原幸雄と風車智司とで待ちぼうけを食らっている。




 思い出した。


 おれが読んだ時には、この場所には風車総平の弟の智司も共に来ていた。


 もっとも9月のエピソードではなく翌年の夏辺りの出来事だという違いはある。




 おれの行動によって、おれの知っているアカシックレコードと違う事象が発生しているということ?




(確実に未来がチェンジしつつある。


と前向きに捉えようではないか)




 ああ。


 ぼく。


 その通りだよ。




 ポジティブに考えるとその通りではあるけど。


 ネガティブに考えるとここから先にはおれが知らないことばかり起こるんじゃないか?


 ほら、天平先輩のうちに上がったのも本来のルートでは起こり得なかったし。


 この場所に篠原幸雄が来るのは既定路線ではあったけど時期がずれているわけで。




 そうなるとおれのアカシックレコードの知識は無駄どころか判断を遅れさせる原因となりうる。




(安心したまえ。


シンはぼくそのものなのだから、ぼくがパーフェクトでスマートな存在である限りシンもまたビューティフルでクレバーな存在だろう)




 しれっと“シン”って呼ぶじゃん。


 まあ、お前が自信満々にそう言ってくれるからおれも前向きでいられるよ。






 しかしまあ。


 廊下が埃っぽくて咳が出そうになる。


 マスクでもしてくればよかった。


 喘息持ちだったら一発でアウトだぞこれ。


 昨日来たなら掃除しとけよ。




 突き当たりにある扉を開け放ちながら総平は「おはよう知恵ちゃん!」とその部屋の主人の名を呼んだ。




 高校の理科の実験室のような部屋だ。


 教卓にはタワー型のパソコンに新しめのディスプレイ。


 ゲーミング用途にも使えそうなハイスペックなものだ。


 その左右にはスピーカーが構えてある。




「氷見野博士……?」




 ぼくは博識だから会ったことはなくても顔を見たことはあるよな。


 ニュースの写真とか本の著者のところとか。




 いかにも。


 そのモニターの中のゲーミングチェアーみたいなものに座って腕を組んでいる男性こそ、氷見野博士が作った氷見野博士の姿をした“人工知能”。


 なんかこうやって見てみるとゲームに出てくる立体のキャラクターみたいだな。


 ゲームのキャラクターとして氷見野博士がいるみたいな?


 仮想空間のアバターっていうか?




「はじめまして。13かいめのさちお」




 画面に字幕が表示され、スピーカーからは女性の声でその文章が読み上げられる。


 13回目の幸雄か。




「俺は知恵ちゃんにその回で起こった出来事を記録してもらっている。知恵ちゃんは人間ではないから、ループした時にその記録がリセットされることはない」




 やるなあ総平。


 今回のこいつは賢いかも。




 アカシックレコード内では日記をつけていたけど、日記は同居する智司や遊びに来る天平先輩に「なんやこれ」と問い質される危険性があった。


 説明してわかってくれるならいいけどさ。


 そうはうまくいかない設計になってるみたいだし。




 ここなら基本的には人入ってこない。


 万が一誰かが忍び込んでも知恵ちゃんがなんとかしてくれる。




「智司や芦花さんが俺の32歳の誕生日を毎年祝ってくれて、そのプレゼントが家の中に蓄積されていくのを見て気付いたんだよ。人の記憶は消えても、物がなくなることはない」




 ほーん。


 頭いいじゃん。




「自分はもともと、まさひとの“能力者の研究”をつづけるためにまさひとがつくった。つごうのよいきおくそうちあつかいはふふく」


「だから俺が新型の“能力者発見装置”の開発を手伝ってあげている。知恵ちゃんはこの身体だからね。ギブアンドテイクだよ」




 ふむふむ。


 なるほどですぞ。




「じゃあ、この世界の能力者をここに連れてきて『あれはやらない』『これもやらないようにしよう』って言い聞かせれば全滅エンドを回避できるんじゃね?」




 おれは提案する。


 今の“知恵の実”は言うなれば擬似アカシックレコードだ。


 総平からの情報提供しかないから偏ってはいるけど。




 これまでの累積データにおれが読んできたアカシックレコードの知識が合わされば!




「……どうかな」




 なんでそこで弱気になるのさ。


 おい。


 ぼく。


 総平を鼓舞する一言を頼む。




「ミスをリピートしすぎて次もミスするのでは? と悩んでいる時間があるのなら行動するべきだ。成功は弛まぬ努力の先にある」




 おおー。


 いいんじゃないの?




 総平は何か言おうとして「電話だ」とスマートフォンが震えるのを優先した。


 まあ、電話なら仕方ないね。




『篠原くんもそこにおる?』




 天平先輩の声だ。


 音でっか!


 おれにまで聞こえるってどうなってんの。




「芦花さんが幸雄くんを“篠原くん”って呼ぶのも違和感すごいよ……というのはおいといて、いるけどどうかした?」


『キャサリンがつっきーを刺した』




 ???????????????


 え、え?




 刺したとは?




 この展開は知らない!


 どうなってんの!?


 アカシックレコードでは築山がオーサカ支部を燃やして、逃走して、キャサリンが追いかけていって、そのあとの2人の行方はわからなくなったんじゃ?


 あれ?


 ここで死ぬの?




『今は救急車呼んで、それを待ってて、キャサリンはあたしが気絶させといた』




 天平先輩つええー。


 おっと。


 感動してる場合じゃない!




 想定外の出来事、早速起こってるじゃん!




「キャサリンさんはなんて言ってた?」


『なんてって?』


「あの子の仇とか?」


『仇……? ああ、そんなこと言っとったわ。総平さん、なんか心当たりあるん?』


「昨日作倉さんから、キャサリンさんが本部に来たって話を聞いたばっかりで」








【Welcome】


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