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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
35/100

「畏怖堂々」


 2022年8月24日。

 週の真ん中である水曜日にもかかわらず、午前中からつくもが風車邸へやってきた。

 事前の連絡もない唐突な来訪にいちばん驚いていたのは天平先輩だった。


「学校はどうしたん?」


 もっともなクエスチョンである。

 真面目なつくもらしくない。

 制服姿であるのが尚更おかしさを駆り立ててくる。

 つくもは「学校なんて行ってられるか」と普段のつくもらしからぬ乱暴な口調で言ってのけた。

 天平先輩の表情がこわばる。

 ぼくも右に同じだ。


「サポーター、巻きっぱなしはよくないらしいよ」


 来客にお茶を用意していた総平は両膝に巻いてあるサポーターを見てアドバイスした。

 智司はというと目にもとまらぬスピードで自室に入ったようだ。

 ヒーロー研究課に“仮”所属(あくまで“仮”であると強調させていただきたい)になってから5ヶ月ほど。

 この家に運送業者などのファミリー以外の人間が入ってくるたびに、智司は自室にこもってしまうとわかった。

 どうやら天平先輩とぼくはファミリー認定されているらしい。

 天平先輩は兄の婚約者として理解できるが、ぼくまでファミリーの対象となっているのは光栄でもあり不本意でもある。

 正月に初対面だったとは思えないほどに親密な関係を構築できた。

 天はぼくに二物と祝福ギフトを与えたのである。


「風車総平。あなたには“偽アカシックレコード”の奪還に協力してほしい」

「何それ?」


 キョトンとしている総平に「今日が何日かお分かりなら、協力せざるを得ないでしょう」と追撃を加えてくる。

 つくもの口から“偽アカシックレコード”の話が出てくるとは。

 ぼくの(知恵ちゃんとの継続的な治療のおかげでだいぶ戻ってきた)メモリーによれば、あのとき(河川敷での一件)はぼくの幻覚であり、現実には起こっていなかった出来事だ。


「違う違う。“偽”アカシックレコードってなあに?」


 つまづいていたポイントはそこか。

 噛み合わないトークに、蚊帳の外となっていた天平先輩が「あたしらじゃなくて総平さんをご指名ってどういうことなん?」と割り込んでいく。

 何の“能力”もない(と言うとなかなか失礼だが、この世界における不可思議な力たる“能力”のことだ。誤解しないでくれたまえ)総平を連れていくよりも、天平先輩やぼくを連れて行くべきでは?

 ミッションが“奪還”であるのなら。


「ババアはうるせぇなァ」


 凄まじい暴言を吐いてきた。

 すぐさま「あらやだ。今のわたしは99番なのでした。聞き流してください」と訂正してきたが時すでに遅し。

 この白菊つくもは白菊つくもではない。


「つくもはそんなこと言わんのや。誰やあんた!」

「待って芦花さん! 落ち着いて! ステイ!」


 隠し持っていたスタンガンを取り出して今に襲い掛からんとする天平先輩を総平は抑え込む。

 つくもであるか。

 つくもではないか。

 はっきりとさせるサインをぼくは知っている。

 つくもと初めて会った時のことを思い出した。


「このガールが本当につくもであるのなら、左の膝小僧の裏にタトゥーがあるはずだ」


 現在はサポーターが巻かれていて判別できない。

 判別させないために巻いているのかもしれない。

 ぼくの指摘に、つくも(仮)は「そういえばそうでした。みんなおんなじ顔だからわたしが一体一体丁寧に付けたのでした」と両手を挙げて降参した。

 つまり。

 この子は。


「白菊美華……?」

「そうです! 御明察!」


 挙げた両手でぱちぱちと拍手をしている。

 ならば。

 ぼくが幻覚と決めつけたあの光景は。

 幻覚ではなく?


「つくもは死んでいる?」


 ぼくの質問に、白菊美華はうんざりとした表情をして「あんだけ木っ端微塵になっていて生きていられるんだとしたら、それは能力者超えてバケモンですわ」と婉曲的につくもの死を肯定してくる。

 なるほど。

 わかってきた。


「つくもをあのとき殺して、つくもになりすまして、ぼくたちにコンタクトを取りにきた」


 天平先輩はつくもとメッセージのやりとりをしている、と思い込んでいた。

 責められない。

 ぼくもあのやりとりを見て“つくもは生きている”と誤認してしまった。

 残酷な死を目の当たりにして、その光景をなんとしてでもメモリーからデリートしたかったからだ。

 現実として受け入れがたく、真実として受け止めきれなかった。


「大正解! 99番が泣いて『篠原幸雄を助けて』と頼んでくるもんだから気になっちゃって。……いやー、楽しかったなァ。恋バナしたりごはん行ったり」


 何故笑っているのか。

 人を殺して、人を騙す連中は、どうしてこうも嬉々としていられるのか。

 わからない。

 人の気持ちがわからない。


「そんな話はどうでもいいんです。本題に戻りましょう」

「どうでもいいわけがあるかボケ!」


 騙されていた天平先輩は、総平の手を振り解いて突進していく。

 すると白菊美華は指をパチンと鳴らした。

 ぼくが【疾走】するよりも速い。

 その一動作だけで、勝敗は決している。


「この世界のすべては虚構。過去にしがみつきたい創造主クリスが創り上げた|小さな世界《“偽アカシックレコード”》」


 ぼくに時が戻せるのならこの死を回避できたかもしれない。

 時間を制御できるのでは?

 このぼくは、それほどまでに強大な力を持っているはずだ。

 知恵ちゃんもそう言っていた。


「先輩! 先輩!」


 そうだ!

 この場所にいなければ、殺されずに済んだかもしれない。

 遠くへ行こう!

 海でも山でもいい!


「99番と同じように、即死させましたから。呼びかけても無駄ですよ」


 だから。

 起きてくれ。

 嘘だと言ってほしい。

 起き上がって、ドッキリだったってことにして、笑ってほしい。


「話戻しますけど。みんな作り物なので、殺してしまったことに対して罪悪感はないのです。反省も後悔もありません。が、風車総平はどう思います?」

「13回も見ていると慣れちゃったな。それで、その“偽アカシックレコード”は今どこに? 本だよね?」


 何事もなかったかのように会話を続ける総平は、いつも通りに見える。

 昨日と変わらない。

 婚約者が殺されたのに、殺した相手と平気な顔をして会話している。


「本! それがさ、なんでか知らんけど秋月千夏が持ってて、クリスが交渉してるところ」

「秋月さんの家?」

「そう!」


 以前から総平は人の死に対しての反応が薄く、本人も“おかしい”と語っていた。

 それにしても程度というものがあるだろう。

 総平だって天平先輩を愛していたはずだ。

 そうであってほしい。


「幸雄くん、これから秋月さんの家へ行くよ」


 あっさりと目的地を告げる総平を、ぼくは信用していいのか。

 ぼくはまた騙されているのでは?

 二度あることは三度ある。

 もしくは、総平も他の何者かによってすり替えられているかもしれない。

 一縷の望みをかけて「総平は何も感じないのか?」と問いかける。


「そりゃあ、」


 言いかけた言葉を飲み込んで、総平は天平先輩の身体を抱きかかえているぼくから視線を逸らした。

 そして「……『今回でこの世界との決着をつけよう』と決心したからには、前だけを見ていないといけない」と自らに言い聞かせるように唱える。

 総平は総平だ。

 ぼくがぼくであって、ぼく以外の何者でもないのと同じく。


「ふーん。つまり、もう、風車総平“は”わたしを憎んでないってことで? 天平芦花の死にも慣れちゃったし?」


 白菊美華は人差し指をくるくると回しながら煽ってくる。

 そうではないと言ってほしい。

 慣れてなんかいない。

 口ではそう言っているだけで、総平はそこまで非情になりきれる男ではない。

 そのはずだ。

 総平が答えてくれないのが気に障ったのか、次にぼくを指差して「あなたはどうなんです? 大好きな“天平先輩”まで殺されて、怒りに打ち震えていないんですか?」と訊ねてきた。


「ぼくは」


 怒っているのか?

 相手の感情はわからない。

 自分の感情はどうだ?

 自問自答する。


 すなわち、この感情の正体が“怒り”なのか?

 大切な人を殺されたことへの怒りか。

 裏切られたことへの怒りか。


「ヒーローさんよォ。その怒りで正義を行使しろ。白菊美華(わたし)という“悪”を滅ぼ」


 セリフが中断される。

 ぼくではない。

 ぼくはまた、ただ見ていただけだ。

 ただただ、セリフを聞いていただけにすぎない。


(どうして)


 この家にいるもう一人の男は白菊美華の真後ろから包丁を突き刺していた。

 引き抜いて、再度、全体重をかけて深々とめり込ませていく。



(どうして、人が人を殺すのか)

「やったよ! やったよ兄貴ぃ! やったー!」

(こんなのは間違っている)

「兄貴ぃ! 褒めて! 俺を! 俺を褒めて! 兄貴ぃ! こいつは悪いやつなんすよね!」

(どうしてみんな人を殺すんだ! どうして!)



 総平を見た。

 もしかしたらぼく以外が正しくて、ぼくが間違っている可能性がある。

 ぼくはパーフェクトで常に正しいはずなのに。

 おかしな話だ。


「悪いやつは殺してもいいんだ! 勝手に俺たちの家に入ってきたこいつは悪いやつなんすよ! 俺は正しい! 兄貴ぃ! そうすよね!」


 智司すらおかしくなってしまった。

 ぼくの知っている昨日までの智司は女の子を背後から刺すなんてことはしない。

 戻ってくれ。

 時間が戻ってくれ!


「智司、ありがとう。36年間も俺の“弟”でいてくれて」


 返り血も意に介さず、総平は智司を抱きしめる。

 総平は32歳で智司は23歳だ。

 計算が合わない。

 いや。

 計算は合っているのか。

 ぼくは“13回目”という数字を総平の口から聞いたのだった。


「これからも兄貴ぃは俺の兄貴ぃすよね!」


 智司が同意を求めると、総平は智司から離れつつ「そうしたかったよ」と過去形で答えた。







【死は或いは泰山より重く或いは鴻毛より軽し】


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