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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
23/100

「スターの目覚め」


 オフィスはものの見事に爆散してしまった。

 平日の昼間にマンションの一室で爆発騒ぎとあって、消防車は何台も駆けつけ、周囲は騒然となる。

 火元にいたぼくらは命からがら逃げ出すことに成功し、幸いなことにケガ人は1人も出なかった。


(解散か……)


 ぼくは生活の拠点であるキャサリンの自宅へと帰ってきた。

 ちょうど落ち着いたタイミングを見計らったかのように、それぞれのスマートフォンにメールが届く。

 オーサカ支部は解散。

 次の所属が決まるまでは自宅での待機を命じる、といった内容だった。

 本部も緊急事態が立て続けに起こっていて混乱しているのだろう。

 ぼくらのことは後回しというわけだ。


「さみしいねぇ」


 キャサリンがぽつりと呟く。

 築山の目論見通りだ。

 ただ、決まってしまったものは仕方がない。

 上の決定には従うしかないのが組織というもの。

 ぼくだってさみしい。


「ダーリン、キャサリンはグランマに聞きたいことがあったんだぁ」


 キャサリンの言うグランマは築山蛍つきやま ほたるのことだ。

 思い返せば、ぼくは築山のことを“支部長”というステイタスでしか認識していなかったのかもしれない。

 パーソナルな部分については無関心だった。


「グランマは飛行機事故の生き残り、でしょう?」


 そうだ。

 一度向こうから昔話をされたことがあった。

 スマートフォンを取り出して、その事故に関する記事を検索する。

 ニューヨークへ向かった飛行機が飛行中に爆発した事故。


「キャサリンのガールフレンドが巻き込まれた、と聞いた」


 ぼくがこの事故を知ってから、この事故に関する質問をキャサリンに投げつけたことはない。

 キャサリンはキャサリンだ。

 過去にどんなアンラッキーに出くわしていたとしても、現在のキャサリンの魅力が増減するわけではない。


「誰からぁ?」

「築山が、ぼくに話してきた」


 キャサリンは築山と同じくオーサカ支部のスターティングメンバーである。

 あのときの築山は『ぼくとキャサリンとの仲を見て、ぼくにキャサリンに関する情報を提供したかった』のだと思う。

 何一つとして疑問を抱かずに築山の話に耳を傾けていた。


「キャサリンはね、あの事故は事故じゃなくて事件だと思うの」


 事故ではない?

 手荷物検査があるというのに?

 あれだけ大きなものを爆破できるような爆発物を機内に持ち込む手段が?


「ある」


 数時間前に見たばかりだ。

 オフィスには築山の能力【粒状】により、BB弾サイズに縮まった爆弾が台所にセットされていたのだろう。

 手持ちのカバンに爆弾を忍ばせて旅客機に搭乗していたとしたら、いとも容易く残虐な行為が実行できてしまう。

 起爆したのちに自身は【粒状】で避難すればいい。

 そうやって飛行機事故からも生き残ったのだろう。


「キャサリンは、グランマを追いかけたい」


 拳を握りしめて、キャサリンが宣言した。

 事故は事故として処理されて築山を疑う者はいない。

 奇跡の生き残りであり、実行犯と糾弾できるだけの証拠はなかったからだ。

 今は違う。

 ぼくたちは気付いてしまった。


「しかし、何の為に」


 ぼくが納得できずに顔をしかめていると「有名になるためかなぁ」とキャサリンは首を傾げた。

 それほどまで承認欲求が高いのであれば他にも手段があっただろう。

 他人を巻き込んで、道を踏み外してまですることではない。


「このまま放っておいたら、また事件を起こすかもしれないし……キャサリンはキャサリンみたいな人を増やしたくないから、グランマを追いかけたい」




 ――と、ここまでは先週の話だ。

 今朝、キャサリンを空港まで見送ったぼくはその足でトウキョーのとある芸能プロダクションの本社ビルの前にやってきた。

 これから、ぼくはパパに会う。

 アポイントメントは取ってあるので、ぼくが日付や時間などのミスをしていなければ間違いなく社長室にいるはずだ。


「辞めるのか?」


 本社ビルの前はちょっとした公園のようになっていて、近所の保育園の子どもたちが保育士とともに砂場やブランコで遊んでいる。

 アジサイが植えられた花壇の手前の青いベンチに、見知った顔があった。


「どうしてこんなところに?」

「気分転換だ」


 時間にはまだ余裕がある。

 少年――クリスさんはあやとりから目を離さずにぼくの問いかけに答えた。

 ぼくはあやとりの心得がないので何を作ろうとしているのかは残念ながらわからない。

 ただ、どことなく楽しんでいるように見える。

 考えてみれば。

 作倉部長が亡くなった現在クリスさんは組織の代表で、全ての責任がのしかかってくるポジションだ。

 公園へ“気分転換”しにきていてもおかしくはない。


「俺は作倉と違って、誰が入ってきて誰が辞めようとも人数が増えた減ったの違いぐらいにしか思っていない……だが、辞めてここに入るよりはマシな待遇は約束するが」


 誤解されているようだ。

 ぼくは芸能人になるつもりは毛頭ない。

 はっきりと否定しておこう。


「いえ、ぼくはパパに挨拶しに来ました。トウキョーへリターンしてきましたので」


 クリスさんは眉ひとつ動かさずに「ここにお前の父親はいないが」と呟いた。

 息子であるぼくの約束をまさか反故にはしないだろう。

 いないはずはない。

 何らかの聞き間違いということにしよう。


「それで、挨拶?」


 指を動かすのをやめて、キョトンとされているので「ぼくは以前から折を見てパパに挨拶しに行っています」と説明した。

 特段不思議なことでもないだろう。

 オーサカ支部に異動してからは行けていなかったから、約半年ぶりになってしまうか。

 この半年分の成長は伝えなくてはならない。

 話したいことがたくさんある。

 たくさんあるが、手短にまとめてコンパクトに報告する。

 面会時間は3分にも満たないだろう。

 挨拶するとはいえ、ぼくはパパの仕事を邪魔をするわけにはいかないからだ。


「俺から篠原に話しておきたいことがあるんだ」


 こう前置きして、クリスさんは真っ直ぐにぼくの目を見上げると「お前はこの物語のヒーローだ。ヒーローには前だけを見ていてほしい」と告げた。


「ぼくが?」


 クリスさんが両手を合わせてからパッと開く。

 あやとりのひもはなくなり、代わりに装飾が施された木箱が現れた。

 バニティーポーチほどのサイズだ。


「そうだ」


 悪い気はしない。

 過去に、総平と似たような話をした覚えがある。

 その時は“ヒーローの条件”だったか。

 総平には悪いが、やはりエクセレントでビューティフルな存在こそヒーローにふさわしい。


「素晴らしいパパとママの間に生まれたパーフェクトなぼくこそが、この世界で唯一無二のヒーローであり、新たなクロニクルをクリエイトするに違いない存在だろう」

「そうか。そう思うんならそうなんだろうが……」


 先ほどは“ヒーローだ”と断言していたというのに今度は歯切れが悪い。

 クリスさんとこうやって面と向かってトークする機会はそうそうないのでまだ話はしたい。

 が、そろそろ移動しなければなるまい。

 ぼくにはパパとの約束がある。

 クリスさんもリスペクトの対象ではあるが、パパには及ばない。


「13回目にして『嘘をつくな』(NOT to LIE)とも言われてしまったから、本当のことを話そうか」

「なんでしょう?」


 腕時計で時間を確認する仕草が、わざとらしく見えてしまったか。

 手のひらの上に乗せていた木箱を膝の上に置きながら「ヒーローには悲惨な過去がつきものだ」と語り始める。


「例えば尊敬している両親が実の両親ではなかったり、性的な虐待を受けていたり、集団から排斥されたり」

「ぼくの話ですか?」


 どれも記憶にない。

 そもそもぼくのメモリーは、強烈な思い出以外に残っていない。

 クリスさんが嘘をついているようには見えないが、まさに“身に覚えがない”の読んで字の如く。


「その腕時計や帽子をもらったのはいつのことだ?」

「それは……」

「大事にしているのなら思い出せるはずだ」


 クリスさんのおっしゃる通り、ぼくが大事に毎日欠かさず手入れをしていつでも身につけているのに“パパから腕時計”“ママからチロリアンハット”をいただいた、というリザルトしか出てこない。

 プロセスは一切思い出せない。

 ぼくの中で重要度の低いメモリーとして消滅してしまったのか。

 いや。

 そんなはずは。


「お前はそれでいいんだ。今のお前に過去はいらないからな、必要なのは未来だけだ」


 クリスさんが木箱のフタをずらすと、そこにはハンドガンが入っていた。

 どこのメーカーのなんという銃なのかはわからない。

“知恵の実”信者の加賀さんが所持していた拳銃とは異なる形はしている。

 こういうどうでもいいような細かな事柄は思い出せるのに、パパとママとの思い出は忘れてしまっているぼく自身を殴りたい。


「……それでいいんでしょうか」

「お前の言う“パーフェクト”な両親を盲信していたいのなら、勝手にすればいい。俺は俺の話を信じてもらえなくて悲しいとは思うが、信ずる神は自由だ」


 光が強くあればあるほど影は濃くなる。

 過去が足枷になるのなら忘れてしまえばいい。

 そう思う。

 でも、ここまで何もかも忘れてしまっていていいのか。

 寒気がする。

 パパやママと過ごした楽しいエピソードが綺麗さっぱり消えているのは、脳に異常があるかもしれない。

 今度検査してもらったほうがいいだろう。

 木箱から取り出したハンドガンをカチャカチャといじりながら「このビルから飛び降りようとしていたお前を助けたのが作倉だったってことぐらいは覚えていてほしかったが……」とクリスさんは呟いている。


「それは本当にぼくの話ですか?」


 まずぼくは飛び降り自殺なんてしようとしない。

 百歩譲って自ら命を絶つなんてことがあれば、このビルをわざわざ選ぶなんてことはないだろう。

 パパに迷惑がかかってしまうではないか。

 ゆえにぼくの話ではない。

 うむ。

 そうだとも。


「覚えていないか」

「ええ」


 おそらくクリスさんは他の人の記録とぼくの記録を取り違えているのだと思う。

 きっとそうだ。

 だから嘘はついていない。

 話し相手が異なっているだけであって。


「それで“パパ”には会いに行くのか?」


 腕時計を再度確認する。

 予定の時間まであと3分か。

 長いこと話していたように思ったが、案外経っていなかった。


「もちろん」


 ぼくが答えると、クリスさんは頷きながらハンドガンを木箱にしまい直して「神のご加護があらんことを」と十字を切った。






【禍福は糾える縄の如し】


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