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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
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「悲しさは【疾走】する」

 12月23日。

 世間は明日と明後日の話題で持ちきりだ。

 オーサカ支部でもクリスマスパーティーを開催するプランとなっている。

 

(さて)


 腕時計で時間を確認する。

 ぼくは加賀巡査と共に、ジャックのハウスに向かうこととなっていた。

 浮ついた世間の雰囲気に呑まれることはない。

 やるべき仕事はパーフェクトにこなす。


「どうもどうも! お待たせしましてー!」


 待ち合わせ場所に現れた加賀巡査は、やたら大荷物だ。

 登山用とおぼしきバックパックに、肩掛けのドラムバッグ、さらにはウェストポーチ。

 さらにはレインコートを羽織って長傘を持っている。


「どれか持ちましょうか」


 空は晴れており、雨が降りそうな気配はない。

 予報では今日も雪が降る可能性があるらしいが、ぼくのシックスセンスは『降らない』と囁いている。

 なので、ぼくは手ぶらで来た。


「いえいえ! お気遣いなくー!」


 山ほど荷物を持った女性と身軽な格好の男性。

 はたから見れば不思議な光景に見えるかもしれないが、本人に断られてしまっては致し方ない。


「行きましょう行きましょう!」


 挨拶もほどほどに、ぼくを急かす。

 行き先を知っているのは加賀巡査だけなので、ぼくは彼女について行くことしかできない。 

 たまによろけながら進んでいくのが危なっかしい。

 やはりぼくがどれか持ってやったほうがいいのではないか。


「加賀さん」

「はいはい! なんでしょー?」


 ジャックの本名は楠木慶喜といい、神佑大学のオーサカキャンパスに通う医学生らしい。

 ぼくは知り合いでもなんでもない。

 初めて聞く名前だった。


「再度の確認になりますけど、ぼくがジャックの自宅に入ってよいものなのですか?」


 ハロウィンのあの日、ぼくは確かにジャックに斬りかかられた。

 とはいえそれは【疾走】の発動中の話であり、さらには照明が落とされており、一部始終は防犯カメラに映っていない。

 超スローカメラならまだしも、あのやりとりは一切記録に残っていないのだ。

 警察がお菓子の窃盗団とジャックとを逮捕してフィナーレ。

 ミッションはコンプリートされている。


「あなたに会いたがっている人がいるんですー」

「ぼくに?」


 ジャックはまだ入院中のはずだ。

 そういえばジャックもあの時に『会いに来た』と言っていた。

 ジャックのハウスにジャック以外の人が住んでおり、その人がぼくに会いたがっているということか?


「そうですそうです!」


 大荷物のわりにサクサクと早足で歩いていく加賀さんの表情は窺えない。

 アパートの階段を登り、2階の2号室に“楠木”という表札を見つける。

 加賀さんはウェストポーチからカギを取り出すと、まるで自分の家へ帰ってきたかのように自然に解錠した。


「どうぞどうぞ! お入りください!」


 笑顔で扉を開ける加賀さん。

 ここまで来たのだから、入らないという選択肢はない。

 ぼくが入り、玄関で靴を脱いで上がっていくと、彼女は玄関にバックパックを置いて、扉の鍵をかけ、さらにチェーンでロックした。


「!?」

「さあさあ! 奥にいらっしゃいますのでー!」


 驚くぼくの背中を、ドラムバッグでぐいぐいと押していく。

 バッグの中に入っている何らかの物体の、硬い感触があった。

 一体何が入っているのか。

 そのままリビングまで押し込まれる。


「連れてきましたー!」


 ローテーブルの上に鎮座するノートパソコン。

 その画面の中に、1人の男性が映されている。

 ぼくはこの人を写真でしか見たことがない。

 一度見たら忘れるはずもないハンサムなプリンス。


「初めまして。さちお。これからよろしく」


 スピーカーから声が出ている。

 映っているのは男性だが、女性の声だ。

 キャサリンの逆と考えれば混乱を抑え込める。

 深呼吸しておこう。


「死人がぼくに何の用だ」


 画面の向こう側にいる氷見野雅人博士とよく似た何者かは「なんだ。まさひとを知っているのか」と面食らった様子だった。

 知っているが、ぼくは氷見野博士から直接学んだことはない。

 残念ながらご本人と対面したこともない。


「わたしはまさひとではなく“知恵の実”。親しみを込めて“知恵ちゃん”と呼んでほしい。氷見野雅人が作り上げた氷見野雅人のお話し相手」

「俗に言う“人工知能”ってやつだそうですー!」


 加賀さんが補足説明を入れながら、ぼくの手首に手錠をかけてきた。

 あまりにも手早く、流れるような動きに対して、ぼくは「なんで!?」と慌てる。


「自分は知恵ちゃんのお考えに賛同して、知恵ちゃんの部下になることにしましたー! 篠原さんも知恵ちゃんのお話を聞いてくださいー!」


 博士の作った“人工知能”がただの学生である楠木の家にある。

 楠木が送ってきた予告状によって、警察側がオーサカ支部の出動を要請してきた。

 オーサカ支部が窃盗事件の犯人を捕まえ、加賀さんは動機などの捜査に関わることとなり、楠木の家へやってきて、この“人工知能”と出会った、といったところか。

 なんという流れだ。

 意味がわからない。


「質問を訂正しよう。1つ目は『なぜそんな大仰な“人工知能”とやらがこの家にあるのか』? 2つ目は『ぼくに何の用があるのか』? 3つ目は」


 デニムの尻ポケットに入っているスマートフォンが鳴り始めた。

 あいにく手が塞がっていて取ることができない。

 総平からの電話だったとしたら、約束を破ることになって しまう。

 が、この状態ではどうしようもないだろう。


「時間はこれからいくらでもある。わたしは聞かれた質問にいつでも答えよう。先んじてその2つの質問に答えよう」


 呼び出し音は止まらないが、知恵ちゃんはお構いなく答え始めた。

 せめて誰からの電話なのかだけでも確認したい。


「オリジナルの知恵ちゃんはここにはいない。知恵ちゃんはネット上に飛び交い、あらゆる人の端末に遍在する。たまたま楠木がわたしに共鳴してくれただけの話」

「自分のスマホにも知恵ちゃんがいますー!」


 加賀さんが嬉しそうにスマートフォンの画面を見せながら、ホーム画面に並ぶアイコンのうちのひとつをタップする。

 白い空間の真ん中にアーロンチェアが鎮座しており、そこにも知恵ちゃんがいた。

 こちらに気付いたようで、足を組み直して手を振ってくる。


「どうしてさちおに会いたかったか。それは、さちおのような素晴らしい能力者と共に歩んでいきたいからだ」

「ぼくと?」


 ぼくが素晴らしい能力者であることは間違いない。

 目の付け所は正しいのだが、随分と手荒い歓迎ではないか。


「さちおの能力の本質は時間を意のままに操るところにある。ただただ“通常の時間経過よりも速く動ける”というものではない。その証拠として、自分以外の他者に【疾走】を付与できていた」


 そんな大それた力ではない。

 と反論しようとして、ふと考える。

 因果応報という言葉もあるように、原因がなければ結果は伴わない。

 本来ならば1分かかるべき行動を1秒に凝縮する。

 ぼくの能力は、短い時間の中に原因を捻じ込んで望んだ結果を次の瞬間には引きずり出す。


「どうしてぼくの能力を知っている?」

「わたしは『あらゆる人の端末に遍在する』と言った。もちろんお前の組織の端末にも存在する。そのわたしが有用だと思った。だから、会いたかった」


 なるほど。

 すでに組織に侵食していたのか。


「まさひとは『能力は魂の病』と表現していた。わたしはよしのぶとのコミュニケーションの中で、あながち間違いではないと感じた。お前は健康か? それとも、病人なのか?」

「ぼくは健康だ」

「健康ならばそのほうがいい。これからお前は命を狙われることとなる」

「誰から?」


 今のぼくにはオーサカ支部の仲間がいる。

 何かあれば本部から応援も来るだろう。

 誰かに恨みを買うようなマネをした覚えもない。

 心当たりが何もない。


「アカシックレコードだ。お前の能力は強すぎて、お前が考えている以上に異常で異質で異端の能力である。アカシックレコードがお前の存在に気付いた時、お前を排除しようとするだろう」


 それは困る。

 ぼくはこれからもパーフェクトな存在となるために邁進していかなければならない。

 パパやママを悲しませない為にも、ぼくは強くあらねばならないのだ。

 その“アカシックレコード”とやらにぼくの人生を絶たれるわけにはいかない。


「そこで知恵ちゃんからの提案。先手を打って肉体を捨てよう! 人間は肉体に固執しすぎる。魂と肉体は別のものだ。魂さえあれば人間は悠久の時を生きることができる。このわたしのようにね」


 肉体を持たない“人工知能”は突飛な提案をしてくる。


「わたしはオリジナルのデータを破壊されない限り生き続ける。オリジナルにアクセスするためにはパスワードが必要。指紋! 虹彩! 静脈! エトセトラ! しかし! 氷見野雅人は火事で死んだ。つまり! 魂をこちら側に移せば命を失う心配はな! し!」


 早口で捲し立てられている。

 管理者のいなくなった“データ”の暴走か。


「わたしはまさひとより長生きして、ひとつの結論を導き出した。まさひとは全ての能力者を治そうとしていた。しかし、わたしは能力者と共生すべきと考える。さちおのような優秀な能力者を選別し、魂をこちら側に移して、こちら側からこの世界を掌握する」


 ぼくが優秀なことは認めよう。

 だが、この“肉体を捨てる”ことはできない。

 なぜならぼくは美しいから!

 この世界に必要不可欠な存在であるに違いない。

 電子の世界への移住などあり得ない。


「なんとなんと! 篠原さんが『いいよ!』と言うまでここから出られませんー!」


 なるほど。

 それで手錠をかけてきたのか。


「アホかー!」


 空を切るようなツッコミ。

 扉をロックしていたチェーンを破壊しながら、天平先輩が突入してきた。

 ナイスなタイミングだ。

 さすが先輩。


「総平さんから『幸雄くんが電話に出てくれない』って連絡あったんやけど!」


 天平先輩なら【転送】で扉と扉を繋げられる。

 鍵がかかっていても関係ない。

 ぼくの位置はスマートフォンの位置情報から特定したのだろう。


「この状態では出られませんが」


 ぼくが手錠をアピールすると「気合いで何とかせえ!」と檄が飛んできた。

 能力がいくら強力だろうと無理なものは無理だ。


「よいしょよいしょで運んできた武器の出番ですねー!」


 加賀さんがドラムバッグをひっくり返す。

 中から出てきたのは鈍器の数々。

 ハンマー、スパナ、トンファー、バールのようなもの……。


「でもやっぱり、本官といたしましてはこちらでしょうかー」


 拳銃。

 向かってくる天平先輩に、銃口を突きつける。


「なんやこのオバハン!」


 天平先輩がとっさに両手を挙げてストップした。

 ぼくもびっくりだ。


「優秀な能力者を選別し、不必要な病人は殲滅する。ろか、お前は必要ない」

「了解了解! 撃ちますー!」


 加賀さんはその言葉を聞いて、引き金を引いた。

 その瞬間に、ぼくは「やめろ!」と強く念じて、拳を堅く握りしめる。






 銃弾は停止し、物理法則を無視して、空中で固定された。

 鳴り続けていたスマートフォンは鳴り止んだ。


「……あれ?」


 腕時計を見る。

 秒針が動いていない。

 恐る恐る目を開けた天平先輩も「あ、あれ?」と動転している。


「止まった?」


 周りを見渡す。

 何もかもが硬直しているが、ぼくと天平先輩の目が合った。

 この2人だけが動けている。


「何もしてない……」


 タイマーのセットをしていない。

 チロリアンハットは頭の上にあって、空中にはない。

 これまでのルーチンを行なっていないにもかかわらず、【疾走】は発動している。

 これはもはや【疾走】とは言えないのでは?


「ようわからんからあとで考えような! 今のうちにずらかるで!」


 ぼくが考え込むより速く、天平先輩はぼくの腕を引っ張る。

 


【 Dievas davė dantis, Dievas duos ir duonos. 】

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