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クロレキシ  作者: 赤森千穂路
第一章 天使暗躍編
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第32話 ケチ

 ゴールデンウィークが明けてから初めての登校日。教室内はいつもより数割増しで騒がしくなっていた。


「やれやれ……あっという間の5日間だったな……」


 涼真は退屈そうに机の上で頬杖をついていた。

 舞は明日香や雪たちと休みの間のことを話している。だが、一昨日の事は話していないようだ。明日香たちに心配をかけないためだろう。涼真もそれが最善だと思った。


「なぁ涼真、お前宿題やってきてねーだろうな?」


 前の席の哲人が後ろを振り返って訊いてきた。


「いや、やってきたよ。ゴールデンウィークの2日目と3日目に必死こいて終わらせた」


「はぁーー!? テメェ、裏切りやがったなぁーー!!」


 哲人は涼真の服の襟元を掴んで涼真をブンブンと前後に揺さぶる。

 揺さぶりがワリと激しかったので涼真は哲人に手を離させた。


「裏切りって……何の話だよ?」


「お前、やらないって言ってたじゃねーか!」


 そういえば、連休に入る前にそんなことを言っていたような気がする。


「あー……そんなこと言ったっけ?」


 涼真はとぼけることにした。


「テメェェェェェ!!」


 哲人は噛みつきそうな勢いで身を乗り出してきた。


 しかし、


 ギュウううう


「いででででで!!」


「うるせーぞ哲人、静かにしろ」


 いつのまにか教室に入ってきていた担任の八神が哲人の耳を引っ張った。

 八神は哲人の耳から手を離すと、いつものように教卓に手をついた。


「えー、みんなおはよう。そして久しぶり。連休は……うん、楽しめたな。お前らの顔を見りゃ分かる」


 八神は一呼吸おいて話を続ける。


「えー、先生はこの連休をうまーく使って沖縄に行ってきました。なので今からみなさんに……」


 そう言うと八神は左手で持っていた紙袋の中を漁り始めた。

 クラスメイト達から期待の声がチラホラあがる。


「じゃじゃーん、先生の家族の写真をプレゼントしまーす」


 八神が紙袋の中から数枚の写真を取り出した。

 すぐさま教室中からブーイングが起こる。


「ふざけんなー!」

「お土産はー?」

「期待させやがってー!」


「ははは、冗談だ、じょーだん。お土産はちゃんと買ってきてあります」


 そう言って、袋の中からお菓子の箱を取り出した。

 すぐさま教室中から八神を称える声が聞こえてきた。


「やったー!」

「先生、神ー!!」

「先生が担任でよかったー!」


 八神はうんうん、と頷く。


「待てお前ら。たしかにお土産は買ってきたが、俺は渡すなんて一言も言ってないぞ?」


 そう言うと、八神はニヤリと笑う。


「今から宿題をちゃんと提出できた者だけにこのお土産を渡そう。さぁ、今すぐ教卓に出しに来なさーい」


 そう言うと、ほとんどの生徒がものすごい勢いで教卓に向かった。


「え……えぇ……」


 哲人はそれを見て焦り出した。教室中を見た限り、席を立っていないのは自分だけのようだからだ。


「さて……今出たプリント束の数は……」


 八神がプリントの束を数え始めた。


(お、俺だけ……怒られる!!)


 哲人は完全にそう思っていた。


「29!」


「へ?」


「え?」


 八神が言った数に哲人だけでなく涼真も驚いた。このクラスは31人のクラスなのだ。哲人以外にも宿題を提出していない生徒がもう1人いるということだ。


「出してないのは、哲人と……紫雲!」


 涼真と哲人は、そのもう1人の方を見た。


「……はい」


 名前を呼ばれた少年、不二崎紫雲(ふじさきしうん)はスッと立ち上がった。


「おい、テツ。お前も立てよ」


 哲人の後ろから涼真が背中を指で突いてきた。


「あ、そうだな」


 哲人も椅子から立ち上がった。


「よーし、なんで提出していないか、理由を聞こうじゃないか。まず、哲人」


 八神がそう言って、哲人に生徒たちの意識を向けさせた。


「え、え〜と……すみません! 間に合いませんでした!」


 哲人は正直に理由を白状した。


「ん、じゃあ次、紫雲」


「スルーかよ!!」


 自分の告白をスルーした八神にすかさずツッコミを入れた。


「俺は……宿題、無くしました」


 紫雲がボソッと言った。


「ほぉ〜、よし、じゃあ2人、金曜日までにやってこい。紫雲には今から新しいのをやるから、一緒に職員室に来い」


「……はい」


 紫雲が小さな声で返事をした時、


 キーン、コーン、カーン、コーン


 朝のホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「んじゃ、教卓にお土産は置いとくから、提出していない2人以外は勝手に持っていっていいぞー」


 そう言って、八神は紫雲とともに教室から出ていった。

 クラスメイト達は一斉にお土産に群がる。


「く、くそぉ〜、お土産があるって知ってたなら俺もちゃんとやってたかもしれないのに〜……」


「それでも『やってたかも』なのかよ。っていうかお土産がなくてもやれ」


 お土産を取ってきた涼真にツッコまれた。


「いいなぁ〜、めっちゃ美味そうじゃねーか」


 哲人はお土産のお菓子を見ながら目を輝かせていた。


「あげないぞ?」


「ケチ」


 どうやら涼真がもらったお土産を狙っていたようだ。意地汚いやつだな、という感想を涼真は哲人に抱いた。


(それより……)


 涼真は先ほどのやけに落ち込んだ紫雲の様子が気になっていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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