第21話 VS唯我
「その白い翼、天使……!? でも、お前は生徒会の……」
唯我は涼真の方を見ようともしない。能面のように無表情で舞の首を絞め続けている。
(いや、今は相手が誰とか関係ない……!!)
「舞を離せっ!!」
涼真は“神速”を発動し、唯我に近づこうとした。
しかし、
「くっ……!!」
唯我は自身の周りに炎の壁を展開した。それを見た涼真は炎に触れる前に咄嗟に回避した。
「うああぁっ!!」
炎の中に囚われた舞が悲痛な声を上げた。
「舞っ!!」
(炎にビビってる場合じゃない、早く舞を助けないと!!)
涼真はもう一度“神速”を発動し、炎の中にいる唯我に蹴りを喰らわせようとした。
「ぐっ……!!」
唯我の周りに展開されている炎に触れた途端、刺されるような痛みを感じたが、それでも唯我に蹴りを入れようとした。
その時、フッと唯我と舞が消えた。
「え!?」
涼真の足はスカッと宙を蹴る。
「後ろか!」
後ろに唯我の妖気を感じ、振り向く。そこには炎を解き、舞を抱えた唯我が涼真の方を見ていた。
「舞っ! しっかりしろ、舞!!」
唯我に抱えられた舞は、腕をダランと垂らしている。
「うう……う……」
弱々しいが舞の声が聞こえ、涼真は少し安堵した。
すると、
「……邪魔をするな」
「なに?」
「俺の任務の邪魔をするな……」
唯我がボソッと呟いた。
「……お前、ふざけるのも大概にしろ。舞に危害を加えるのが任務なのか?」
涼真は舞と話していた時とは別人のように低い声で、唯我に尋ねた。
「違う」
「だったらなんだ」
「俺の任務は、桜庭舞を殺すことだ」
「ハァ? どうして、何のために舞を殺す? それは誰が指示してきた? なんでお前はそれに従った?」
「……質問が多い」
彼は無機質な顔で言った。
「当たり前だ。こっちは目の前で友達が意識失いかけてんだ。その上、ソイツを殺すとか言われてるんだぞ? そんな状況の奴からの質問がたったの3つなんだ。つべこべ言わずに答えろ」
涼真は怒っているせいか、早口で喋っていた。色々なことに怒りすぎて思考が回っていないせいもあった。
「……おまけに話も長い。黒神涼真、お前と話すのは面倒だ。場所を移す」
唯我はため息をついた。
「移させてたまるかよ!!」
涼真は“神速”を発動しようとした。
「うるさい」
しかし、唯我の方が速かった。唯我は炎の塊を涼真に向けて大量に放つ。
涼真は“神速”を発動し、炎を避け続ける。
「遅いんだよ!」
涼真はさらに速度を上げ、炎を避けつつ唯我に接近し、振りかぶった拳に妖気を溜める。
その時、唯我は初めて表情を崩した。涼真に向けてニヤッと笑いかけたのだ。
「待っていたぞ」
「なっ……」
唯我が巨大な炎を一瞬のうちに生み出し、涼真に向けた。
唯我は涼真が自分に接近してくることを読んでおり、予め巨大な炎を一瞬で作れる程の余裕を残しつつ攻撃していたのだ。
「焼け死ね、黒神涼真」
唯我はそう言い、涼真に向けてその炎を放った。至近距離からの攻撃を、涼真は避けることができなかった。
「があああぁぁぁ!!」
炎の中で涼真が痛みに叫び声を上げる。
「りょう……ま……!」
舞は苦しそうに目をうっすらと開け、涼真に呼びかける。
唯我は炎に包まれる涼真をその場に放っておき、舞を片腕で抱えてどこかへ飛び去っていった。
◇◆◇◆◇
「ミカエル様!!」
バタン、と生徒会室の扉が開き、生徒会メンバーの1人が入ってきた。
「えぇ。もう気付いています。唯我が……ウリエルが見つかったのですね?」
上着を着ようとしていた美香は息を荒げている生徒会役員を見てそう言った。
「はい。どうやら神社の方に向かっているらしく……」
「分かりました。愛梨、行きましょう」
「えぇ、そうね」
美香と愛梨は生徒会室を飛び出していった。
◇◆◇◆◇
「え!? 唯我くんが見つかった!?」
梨恵は唯我を探して、神社の辺りを走り回っていた。ちょうどその時、美香から唯我が見つかった、と電話があったのだ。
『えぇ、神社の方へ向かっているそうです。梨恵も急いで向かってください。』
「分かりました、すぐに行きます!」
美香との電話を終了し、翼を展開させた。
「でも……嫌な予感がする。」
梨恵はそう呟き、夜空に飛んでいった。
◇◆◇◆◇
唯我は神社の鳥居を潜り本殿の前に着地した。
「さて、どこで殺すか……」
辺りを少し見回した後、抱えた舞をチラリと見る。
「わ……私を……殺す……?」
かろうじて意識のあった舞が苦しそうな顔で唯我に尋ねた。
「そうだ。お前はこの世にいてはいけない。存在してはいけない存在なんだ」
「存在、しては……いけない存在……? そんなの、誰が……決めたの……?」
「誰も決めていない。だが、そう決まっている」
「そんなの、おかしい……誰も、決めてないのに……予め、決まっているなんて……」
「おかしくない。林檎は食べられるものだと、誰が決めたか知っているか? 分からないだろう。それと同じだ。林檎が食べられるものだと決まっているように、お前が殺されるのも決まっているんだ」
そう言い、舞を木の幹に叩きつけた。舞は「あぐっ」と苦しげな声を上げ、地面に倒れ込む。
「林檎は、食べられる、だけじゃない……そのまま木に実っていても、林檎として在れるんだよ……私は……その林檎みたいになりたい……君に殺されるんじゃない、私は桜庭舞として、まだ……この世に在り続けたい!」
舞は苦しげに呼吸を繋ぎ、唯我に言った。しかし、彼は舞の言ったことを「ふん」と鼻で笑った。
「なんとでも言え。お前の死は、もう決定しているんだ」
唯我は右手を舞に向ける。すると、手のひらから炎が出て槍のような形になった。
「……最後に質問に答えろ。なぜお前は取り乱さない? 俺に殺されかけているんだぞ?」
唯我は冷たい声で舞に尋ねる。
「……信じてるから」
「なに?」
その時、神社の階段を誰かが駆け上がって来る足音が聞こえた。
「私が、涼真を信じてるから」
その足音の主は唯我に近づいてきて
「らあああっ!!」
ゴッ!!
唯我の顔面を思い切り殴った。
鈍い音が響き、唯我は神社の横にある森の中へ吹っ飛んでいった。
「大丈夫か、舞」
足音の主ーー涼真が舞に向かって笑いかける。
「……うん、大丈夫。涼真のこと、信じてたから!」
舞は涙を浮かべながら、涼真に笑顔を見せた。
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