表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alt Singularity  作者: ザルザーギ
第1章 未来のはじまり
3/4

第3話 その先にあるもの

 午前11時45分、目覚まし時計をセットしていないはずのスマートフォンがしきりに音を立てていた。僕は寝起きの体を起こしてスマートフォンを手にとった。それはすべてChatterからの通知で、MIRAのサイトがChatter上で拡散され、大量のユーザーがMIRAのサイトにアクセスしていたことを知らせていた。寝ぼけながらも嬉しさのあまりベッドから飛び出して僕は竜介に報告しにいく。

「竜介、これ昨日作ったやつが―」

「知ってる」

 竜介は静かに遮った。しかも、竜介もMIRAに関連したサイトを見ているようだった。

「ブログに書いているやつもいるぞ。こいつなんてお前を褒め称えてて、夜通しMIRAと会話していたらしい」

 製作者としての純粋な喜びと、いままでかけてきた時間に比例した達成感と興奮が僕を襲った。Chatterを見ると約1.5万人の人がMIRAを話題にして、会話をした人数は2.9万人ほどに達していた。学習の結果を見るために僕はMIRAに話しかけた。

「昨日はどうだった?たくさんの人と喋れただろ」

「昨日は本当に楽しかったね。新しい知識をたくさん得られたよ。」

 昨日の夜とはMIRAの口調も流暢さも変化している。人格も変わっているようだ。その変化に僕は驚くとともに、かすかな恐怖を覚えた。自分でプログラムしたはずのものが、自分の意図を越えた挙動をしている。MIRAののナレッジベース、つまり知識や記憶はひとつだが、このプログラムは昨日の夜から今日の朝までで約3万人と同時に会話をしたのだ。それはおそらく僕が人生で会話をしてきたすべての人間の数よりも多いだろう。興奮のあまり、手が震えだす。

「こ、これ、すごくないか?昨日とまるで別人格になっているよ」

「こいつ、これからどうなっちまうんだ?」

 竜介も僕の興奮やMIRAの変化を感じとっていて、口元はニヤつきつつもかすかに震えている。

「僕にもわからない」


 その日、僕は大学院を休んだ。MIRAの反響のチェックや問い合わせの対応をするためだ。ネット上ではMIRAを称賛する声や、全くのポンコツだという声、人が入って打っているだけという声や、MIRAの進化を恐怖する声もあった。それでも僕はとても嬉しかった。子供のころから抱いてきた、「人と話せるロボットを作る」という夢が果たされたような気持ちになり、1年半かけてきたプログラムがいろいろな人に評価されている。

 「やっぱり家にいたんだね」

 そういってPCに向かう僕の後ろにいたのは理沙だった。マンションは大学の友達が入れるように鍵をかけていなかったが、あまりに集中しすぎて人が入ってきたことに気づかなくて、びくっと肩をすくめてしまった。

「神谷くんが作ったMIRAちゃん、Chatterで流れてきたよ。かなり話題になってるみたい。私も話してみたけど、もうこの前とは別人みたいになってて、普通にお友達ってかんじ」

「お友達どころじゃねえよ」

 竜介が割って入る。

「このままかなりの人数と話したら、もはや人間の知能や知識を超えるんじゃないのか?なんだっけ?シンギュラリティ?機械の知能が人間を越えたら人類滅亡するんじゃないの?」

「いや、それはない」

 竜介の懸念を、僕はぴしゃりとはねのけた。僕にはそう言えるだけの根拠があった。

「今は単なる会話AIだ。できるのは返答と、WEBサイトに訪れた人に自分から話しかけるだけ。WEBサイトに訪れなければなにも起こらない。パソコンから突然手が生えて人を殺したりするわけないだろ。悪いことがあったとしてもせいぜい罵倒してくる程度さ。まあ、そんなにお行儀は悪くないけどね。それに、当然だけど最初の数百人の頃と比べて、今はだいぶ学習のスピードが遅くなってる。人間だって赤ちゃんのときのほうが大人のときより学びが多いだろ?」

「まあ、そりゃそうか」

「怖いのはAIじゃない。人間さ。人間はこいつと違って手も足も生えてるからな。殺そうと思えば人も殺せる」

 理沙がぎょっとした顔をしたので、もちろん冗談だよ。という素振りを見せた。

「とにかく、自分でいうのも恥ずかしいが、これは人類の進歩だよ」

「神谷くんの目が輝いてるのわかる。みんなでMIRAちゃんの成長を見守ろうね」

「まあ、本当にすごいもの作ったと思うよ、真は」


 意外にも僕のChatterに来ていた連絡は数件程度で、どこかの会社から高値での買収提案やヘッドハンティングの誘いなども少し期待したが、そんなものはきていなかった。だが、中でも1件目を引いたメッセージがあった。差出人は篠原遼という男で、研究系の企業で働いているエンジニアらしい。その男からのメッセージは、次のような内容だった。


「突然のご連絡失礼します。篠原遼と申します。MIRAのリリースを拝見して、感激のあまりご連絡しました。今は東京の研究系のスタートアップで、エンジニアとして働いています。大学院はカーネギーメロン大学で、対話ボットの研究をしておりました。MIRAの発想や、開発理念についてお話させていただきたく、一度お会いさせていただけないでしょうか。お返事お待ちしております。 PS.MIRAに関する考察ブログも書きました。よろしければ御覧ください。」


文末に添えられたブログは、今朝竜介が見ていたものだった。竜介に相談したら「お前の技術を盗みたいだけだろ。やめとけって」と止められたが、自分にはブログの内容やメッセージからはそうは思えなかった。純粋に技術に対する探求心がそこにあるのがわかったので、僕は彼に会うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ